Asha Puthli - Asha Puthli (1973)
Asha Puthli『Asha Puthli』(1973)
インド・ボンベイ出身のシンガー、プロデューサー、女優として知られるAsha Puthliが、1973年に英国CBSから発表したデビュー作がこの『Asha Puthli』だ。ジャズの素養を持ちながら、ソウル、ファンク、R&Bの要素を取り込んだ内容で、当時の英国ポップ/クラブ文化の空気をよく映した一枚になっている。後年の再評価で語られることが多い作品だが、出発点として見ても、かなりはっきりした個性を持ったアルバムである。
英国CBSから出たデビュー盤
リリース国はUK、レーベルはCBS、カタログ番号は65804。CBSの英国展開が本格化していた時期の作品で、レーベル面にはS 65804と記されている。ライナーには「The Inner Sleeve」が付いていたことも確認できる。1973年当時のCBSは、米国由来のカタログを欧州で広く展開していたが、この作品は単なる輸入盤ではなく、英国側の制作・発売の流れの中で出てきたアルバムとして見たほうがわかりやすい。
Asha Puthli自身は、ボンベイで生まれ育ち、ジャズ即興とワールドミュージックに通じた訓練を受けた人物として紹介されることが多い。このアルバムでも、その経歴がそのまま音の輪郭になっている。ジャズのフレージングを土台にしつつ、ソウルやファンクのビートにしっかり乗る歌い方で、いわゆる“歌姫”タイプのアルバムとは少し違う。声の置き方が前に出過ぎず、リズムの隙間に入ってくる感じがある。
内容はカバーとオリジナルの混成
収録曲にはJ.J. Cale、Bill Withers、George Harrisonの楽曲カバーが含まれており、選曲の時点でかなり開かれた設計になっている。ロック、ソウル、シンガーソングライター系の曲を、Asha Puthliの歌唱と英国制作のアレンジでまとめ上げた形だ。単に原曲をなぞるのではなく、曲の骨格を残したまま、より都会的でダンサブルな方向へ寄せているのがこの盤の面白いところだろう。
AllMusicでは「電気的でファンキーなグルーヴ」と評されているが、実際に聴くと、その言い方はかなり近い。リズム隊が前に出る場面でも、歌が埋もれない。逆に、歌が前に出る場面でも、伴奏が軽くならない。ソウル・アルバムとしてもファンク・アルバムとしても、どちらかに寄り切らず、両方の要素を行き来する構成になっている。
時代性と位置づけ
1973年という時点で見ると、このアルバムは英国のクロスオーバー志向をよく示す作品のひとつだ。ジャズ寄りの歌手が、ソウルやファンクの文脈に入っていく流れは当時ほかにも見られるが、Asha Puthliはその中でも国際的な背景がはっきりしている。インド生まれで、欧州で注目され、英国CBSからデビュー作を出すという経緯自体が、すでに単線的ではない。
同時代の比較でいえば、英国のソウル/ジャズ・クロスオーバーや、のちのダンス・クラシックへ接続していく女性ヴォーカル作品と並べて語られることがある。さらに後年、DJや再発掘系リスナーの間で評価が高まったことから、いわゆる“カルト盤”的な扱いも受けるようになった。商業的な大ヒットとして知られるより、クラブ文化やレコード収集の文脈で見つけ直されたアルバムという印象が強い。
聴感上の特徴
実際に通して聴くと、まず歌声の輪郭が印象に残る。強く押し切るタイプではなく、少し距離を置いたような発声で、曲によっては艶やかさよりも冷静さが前に出る。そのため、ファンク寄りの曲でも過剰に熱くならず、むしろ音数の多いアレンジの中で声が浮かび上がる。ソウルの定型に収まらないのは、この声の置き方が大きい。
また、1970年代前半の英国録音らしく、楽器の分離が比較的わかりやすい。ベース、ドラム、ギター、鍵盤がそれぞれ役割を持っていて、そこにAsha Puthliの声が乗る。派手なエフェクトで押すのではなく、編成とグルーヴで聴かせる作りだ。結果として、ディスコ前夜の空気や、のちのクラブ向けソウルにもつながる手触りがある。
代表曲として語られる文脈
このアルバム自体はアルバム単位で語られることが多いが、Asha Puthliの名前を後年まで広げたのは、やはりこの時期の作品群にある。とくに彼女の歌声は、のちのディスコやダンス・ミュージックの感覚を先取りしていた、と評されることがある。『Asha Puthli』の段階でも、その気配は十分に出ている。ソウルの語法を使いながら、どこか別の場所へ向かう感じが残る。
欧州では比較的受け入れられた一方、米国では大きく広がらなかったとされるが、そのぶん後年の再発見が目立つ作品でもある。デビュー作としては、自己紹介のようでいて、同時にすでに完成されたキャラクターを提示している。Asha Puthliという名前が、ただの新人ではなく、独自の美意識を持つ表現者として残る土台になった一枚、と見てよさそうだ。
まとめ
『Asha Puthli』は、1973年の英国CBSから出たデビュー・アルバムで、ソウル、ファンク、ジャズの要素を横断しながら、Asha Puthliの声と選曲の個性を前面に出した作品だ。カバー曲を含みつつ、単なる解釈盤に終わらず、英国の制作環境と彼女自身の国際的な背景が重なった記録になっている。派手な成功譚よりも、後からじわじわと評価が積み上がったタイプの作品として、1970年代のクロスオーバー・ソウルを語るうえで外しにくい一枚である。
トラックリスト
- A1 Right Down Here
- A2 Neither One Of Us Wants To Be The First To Say Goodbye
- A3 I Dig Love
- A4 This Is Your Life
- B1 Love
- B2 Lies
- B3 Let Me In Your Life
- B4 I Am Song (Sing Me)
- B5 Truth