Chaka Khan - I Feel For You (1984)
Chaka Khan『I Feel for You』(1984)について
Chaka Khanの『I Feel for You』は、1984年にリリースされたソロ作品で、彼女のキャリアを70年代のファンク/ソウルの文脈から、80年代型のR&Bへ大きく押し広げたアルバムとして知られている。Rufusでの活動を経てソロへ移ったChaka Khanは、すでに強い歌唱力で評価を得ていたが、この作品では当時のシンセサイザー、打ち込み、サンプル感覚を取り入れたサウンドの中でも、その声の芯が前面に出ている。タイトル曲のヒットによって、彼女の名前がより広いポップ市場に届いた一枚でもある。
80年代の空気をまとったソウル・アルバム
本作は、電子音を軸にした都会的なR&Bと、ファンクのリズム感、ディスコ以後のダンス感覚が結びついた内容になっている。生演奏の厚みを残しながらも、音像はかなり整理されていて、当時のメインストリームらしい輪郭のはっきりした作りだ。プロデュース面ではArif Mardinの関与が大きく、Chaka Khanの声をどう前に出すかが丁寧に設計されている印象がある。聴いていると、音の隙間がしっかり取られていて、ベースやドラムの推進力とボーカルの伸びがぶつからない。80年代前半のR&Bが、バンド主体のソウルからプログラミングを含むサウンドへ移っていく流れを、そのまま反映した作品と言える。
表題曲の存在感
やはり中心はA面1曲目の「I Feel for You」になる。もともとはPrinceの楽曲だが、Chaka Khan版ではMelle Melのラップ、Stevie Wonderのハーモニカ、細かく組まれたシンセのレイヤーが加わり、原曲とは別のポップ・ソウルとして成立している。冒頭の「Chaka, Chaka, Chaka Khan」という呼びかけも強い印象を残す要素で、曲の導入から一気に耳をつかむ。R&B、ポップ、ヒップホップの要素がひとつのヒット曲の中で接続された例としても重要で、1984年という時代の空気がよく出ている。
この曲は米Billboard Hot 100で3位、R&Bチャートで1位、英国でも1位を記録しており、アルバム全体の認知を押し上げた代表曲になった。後年から見ると、プリンス作品のカバーでありながら、Chaka Khanの解釈によって独自のヒットへ変わった点が大きい。単なる再演ではなく、歌い方、編曲、ラップの配置まで含めて80年代のクロスオーバー感覚を体現している。
収録曲と制作の細部
アルバムには複数のスタジオで録音された曲が並び、ニュー・ヨーク、ロサンゼルスの双方の制作環境が使われている。クレジットを見ると、Atlantic Studios、Greene Street Recorders、Clinton Recording Studios、A&M Studiosなど、当時の主要なスタジオが並ぶ。ゲストや関係者の名前も豪華で、Stevie Wonder、Grandmaster Melle Mel、Steve Lukather、Steve Porcaro、David Frank、Mic Murphyらがクレジットされている。80年代のR&Bが、ソウルの延長線だけでなく、ロック、ポップ、ヒップホップまで巻き込みながら作られていたことがわかる構成だ。
なお、B1「This Is My Night」はThe Pointer Sistersが先に取り上げていた曲としても知られている。こうした選曲の周辺にも、当時の女性シンガー同士がポップ市場でどう競い合い、どこで響きを共有していたかが見えてくる。Chaka Khanの歌はその中でも、力強さだけでなく、フレーズの置き方に独特の間があるため、ダンス寄りの曲でも単調になりにくい。
作品の位置づけ
Chaka Khanにとって本作は、ソロキャリアの中でも大きな転換点にあたる。Rufusでのファンク色の強い活動を経て、ソロではより広い市場に向けた作品を出していく流れの中で、このアルバムは商業的にも創造的にも成功した部類に入る。彼女のディスコグラフィーを見ても、代表作として挙げられやすいのはこの時期の作品であり、後の『Through the Fire』などへ続く80年代R&B路線の土台にもなっている。
同時代の文脈で見ると、女性ソウル・シンガーがバンド感覚の強い作品から、より洗練されたポップR&Bへ移行していく流れの中にある。Aretha FranklinやAnita Bakerのような歌の強さを前面に出す系譜とは少し違い、ここではファンクの推進力とクラブ感覚、ラジオ向けの明快さが同居している。そうした意味で、1980年代のブラック・ミュージックの変化をひとつのアルバムで追える内容でもある。
US盤の特徴
今回のUS盤はWarner Bros. Recordsの1984年オリジナルリリースで、ラベル表記は1-25162、スパインは9 25162-1。カスタム印刷のインナー・スリーブ付きで、ランアウトにはSterling Sound由来の「STERLING」刻印や、Sheffield Lab Matrixを示す「SLM △」が確認できる。さらにAlliedのプレスを示すスタンプもあるため、US初期プレスの仕様を持つ盤として見てよい。Warner Bros.の1983年以降の白地ラベル期にあたるため、同レーベルの80年代初頭の見た目も含めて、作品の時代性が反映されている。
結果として『I Feel for You』は、Chaka Khanの歌の強さを保ちながら、80年代の制作技術とヒット・フォーマットにしっかり乗せたアルバムとして残っている。表題曲の印象がとても強い一方で、アルバム全体を通すと、ファンク、ディスコ、ポップR&Bが整理された形で並んでいて、当時の主流サウンドの変化をよく伝える一枚になっている。
トラックリスト
- A1 This Is My Night 4:38
- A2 Stronger Than Before 4:21
- A3 My Love Is Alive 4:42
- A4 Eye To Eye 4:38
- A5 La Flamme 4:27
- B1 I Feel For You 5:44
- B2 Hold Her 5:14
- B3 Through The Fire 4:45
- B4 Caught In The Act 3:45
- B5 Chinatown 4:37