Far Out - 日本人 (1973)
Far Out『日本人』――初期和製プログレ/サイケの出発点にある1973年作
Far Outの『日本人』は、1973年に登場した初期の和製プログレ/サイケ作品として語られるアルバムだ。メンバーには宮下富実夫、石川恵樹、新井まなみ、左右栄一が名を連ね、のちのFar East Family Bandへとつながる流れの起点としても位置づけられている。ハードロックやプログレッシブ・ロックの枠に置かれながら、実際には長尺の展開を軸にした実験性の強い作品で、日本のロック史の中でもかなり早い段階で独自の方向を示した一枚といえる。
作品の輪郭
このアルバムは、収録の中心が長尺の2曲で構成される作品として知られている。曲数で押し切るタイプではなく、ひとつの流れの中で展開を積み重ねていく作りで、当時のプログレ作品らしい構成感がある。演奏は、いわゆる英国プログレの影響を感じさせる部分がありつつ、日本の民謡や邦楽を思わせる響き、さらに瞑想的な間の取り方が重なっている。AllMusicでも、ピンク・フロイドを想起させる側面と日本的なフォーク要素を含む作品として要約されている。
聴き進めると、単なる技巧の誇示ではなく、音の持続や反復、空間の広がりを重視した作りが見えてくる。リズムが前に出る場面もあるが、全体としては音の層を少しずつ重ね、意識を遠くへ運ぶような進行が印象に残る。ハードロックの骨格を持ちながら、そこにサイケデリックな揺れとプログレ的な構成を合わせた、当時としてはかなり特異な手触りだ。
宮下富実夫の出発点として
本作は、宮下富実夫が後年に向かう音世界の原型としても重要だ。のちのFar East Family Bandでは、より宇宙的で瞑想的なサウンドが前面に出ていくが、その前段階にあたるのがこの『日本人』だと見られている。ここでは、ロックの文法を使いながらも、日本的な旋律感や響きへの関心がすでに表れていて、単なる西洋志向の模倣では終わっていない。
当時の日本ロックは、ハードロック、フォーク、アートロック、サイケデリックな試みが一気に動いていた時期で、このアルバムもその流れの中にある。1973年という年は、国内でも重要作が相次いだ時期だが、『日本人』はその中でも特に、後年の再評価によって存在感を増したタイプの作品といえる。ヒットチャートで語られるよりも、カルト盤として掘り起こされてきた歴史のほうがよく似合う。
再発盤としての位置づけ
今回の盤は、1973年のオリジナル作品をヨーロッパで再発したものにあたる。元になったのは日本盤のレアなLPで、資料上でも“megarare”とされるほど入手性の低いタイトルだった。そうした事情から、オリジナルを追うのが難しいコレクター向けの文脈で流通してきた面が強い。再発盤としては、作品そのものを現在の視点で聴き直せることに意味がある。
なお、音の印象としては、録音年代相応のざらつきや、空間の余白を含んだ質感が作品の性格に合っている。整ったスタジオ・ロックというより、演奏の熱や試行錯誤がそのまま残っているような手触りで、そこが本作の魅力として受け取られてきたのだろう。
同時代とのつながり
比較されやすいのは、ピンク・フロイド的な浮遊感を持つ英国プログレや、国内のサイケ/アートロックの流れだ。とはいえ、『日本人』は単純にそれらへ寄せた作品ではなく、日本の音階感や邦楽的な感触をロックの長い構成に差し込んだ点に特徴がある。ここから後の宇宙志向、瞑想志向の日本産ロックへつながる線も見えてくる。
Far Outという名前自体は、その後のFar East Family Bandの前史として受け取られることが多いが、この段階でもすでに方向性はかなり明確だ。ロックの強度、プログレの構成、サイケデリックな広がり、そして日本的な旋律の感触。その組み合わせが、『日本人』を単なる珍盤ではなく、1970年代前半の日本ロックを考えるうえで外せない一枚にしている。
まとめ
Far Out『日本人』は、1973年という時代の中で、和製プログレとサイケの境界を押し広げた作品だ。長尺曲中心の構成、ピンク・フロイドを思わせる展開、日本の民謡や邦楽を連想させる響き、そして宮下富実夫のその後へつながる出発点という位置づけ。派手に語られるヒット作ではないが、初期日本ロックの実験性をよく示すアルバムとして、今でも十分に意味を持つ一枚である。
トラックリスト
- A Too Many People 17:55
- B 日本人 19:52