Flower Travellin' Band - Satori (1971)
Flower Travellin’ Band『Satori』――日本のハードロックが海外基準で鳴った瞬間
Flower Travellin’ Bandの『Satori』は、1971年に発表されたアルバムで、同時代の日本ロックの中でもかなり早い段階で、オリジナル曲だけで強い存在感を示した作品だ。バンドは旧・Flowersの流れを受けつつ、山中“ジョー”こと山中明、石間秀機、篠原信彦、和田ジョージ、コズキ・ジュンという布陣で再編され、より硬質で長尺の演奏に軸足を置いている。この盤は2019年の再発LPで、2017年の96kHz/24bitリマスター音源をもとにした仕様、ディスクはEU製となっている。
作品の位置づけ
『Satori』は、Flower Travellin’ Bandにとって転機のアルバムだ。前身の時代に多かったカバー中心の流れから離れ、自作曲で構成された作品としてまとまっている。バンドは1970年末ごろに短期間で録音を進め、北米での活動も視野に入れたかたちで作品を完成させた。日本国内で広く知られる前に、海外のロックファンや批評の文脈で評価が積み上がっていった点も、このアルバムの特徴として大きい。
当時の日本ロックは、歌謡曲との距離感や英米ロックの吸収の仕方がバンドごとにかなり違っていたが、『Satori』はその中でも演奏の密度が高く、曲の組み立てもかなり独特だ。5曲構成ながら、実際には組曲のように展開が続き、1枚を通して聴くと一つの長い流れとしてまとまっている。曲単位で切り出すより、アルバム全体で聴いたときに輪郭がはっきりする作りになっている。
サウンドと聴きどころ
この作品でまず目立つのは、石間秀機のギターだ。リフの置き方がはっきりしていて、音数で押すというより、フレーズの間に重さを残すタイプの演奏になっている。そこに山中ジョーのボーカルが乗る。英語詞中心のロックに慣れた耳で聴いても、声の押し出しが強く、歌というより発声そのものが楽器のように前へ出てくる。
リズム隊も重要だ。ドラムとベースが単に土台を作るだけでなく、曲の進行に合わせて細かく圧を変えていくため、静かな場面と激しい場面の落差が大きい。特に長い曲では、同じテンポ感のまま押し切るのではなく、間を空けたり、フレーズを引き伸ばしたりしながら進むので、当時のハードロックやサイケデリック・ロックの中でもかなり構造的に聴こえる。
実際に聴くと、音像は派手に広がるというより、密度の高い演奏が前に固まっている印象が強い。ギターの歪み、ボーカルの張り、ドラムの直線的な推進力が近い距離でまとまっていて、演奏の緊張感が持続する。サイケデリックな余韻はあるが、浮遊感だけに寄らず、リフとリズムの手触りがかなり具体的だ。
収録曲とエピソード
『Satori』は全5曲構成で、表題曲「Satori」はパート分けされた長尺曲としてアルバムの中心を担う。「Satori Part III」はのちに次作『Made in Japan』で「Hiroshima」として再構成されており、バンド内部でモチーフを発展させていったことがうかがえる。1枚の中で完結させるだけでなく、次の作品へ素材を持ち越していく流れも、この時期のFlower Travellin’ Bandらしい動きだ。
制作面では、プロデューサー/マネジメントとして内田裕也が関わっていた点も重要だ。旧Flowers時代から続く流れの中で、バンドを国内のロック・シーンだけに閉じず、海外進出も見据えたかたちで動かしていた。そのため、『Satori』は単なるデビュー作や急造の企画盤ではなく、外へ向けた意思を持った作品として見られている。
1971年の文脈と後年の評価
1971年という時期で見ると、『Satori』は英米のハードロックやプログレッシブ・ロックが大きく動いていた時代の空気とも接続している。ただし、単にその模倣ではない。日本語圏のバンドとしての発声、曲の間合い、音の詰め方がそのまま残っているため、海外作品の延長線だけでは説明しきれない個性がある。
後年になるほど、この作品は「日本初期ヘヴィ・ロックの重要作」として語られる機会が増えた。海外の再評価も早く、アンダーグラウンドな名盤というより、国境を越えて聴かれるようになったタイプのアルバムだ。商業的な大ヒットとして記録される作品ではないが、演奏の完成度と作品全体のまとまりで評価が積み上がった一枚、という印象が強い。
2019年盤について
この2019年LPは、オリジナルの1971年盤とは時代も制作環境も異なる再発盤だ。音源は2017年のデジタル・リマスターを使っており、EU製のディスクという点も含めて、当時の初回プレスをそのまま再現する盤ではない。いっぽうで、作品そのものの骨格は変わらないので、現在の環境で『Satori』の輪郭を追いやすい仕様になっている。
Flower Travellin’ Bandの中でも、『Satori』は特に、バンドが何を目指していたかがはっきり見えるアルバムだ。カバーの延長ではなく、自作曲で勝負する姿勢、長尺の構成、そして海外のロックとも並べて語られる演奏密度。その全部が、1971年の日本ロックの一つの到達点として残っている。
トラックリスト
- A1 Satori Part 1 5:22
- A2 Satori Part 2 6:56
- A3 Satori Part 3 9:40
- B1 Satori Part 4 10:53
- B2 Satori Part 5 6:56