Ian Matthews - If You Saw Thro' My Eyes (1971)
Ian Matthews『If You Saw Thro' My Eyes』
1971年に英国Vertigoから発表された、イアン・マシューズ(のちにアイアン・マシューズと改名)のソロ第1作。フェアポート・コンヴェンションの創設メンバーとして頭角を現し、マシューズ・サザン・コンフォートで「Woodstock」を全英1位に送り込んだ直後に制作された。プログレッシブ/アンダーグラウンド・ロックの名門レーベルVertigo(ヴァーティゴ)からリリースされ、英国フォーク・ロックの気品とアメリカン・カントリー・ロックへの憧憬が高次元で結実した名盤である。
制作背景・エピソード
全英1位獲得という商業的成功の絶頂で自らのバンドを解散させたマシューズは、完全な表現の自由を求め、自らプロデュースを手がけてロンドンのモーガン・スタジオで録音に臨んだ。
最大のハイライトは、フェアポート・コンヴェンション時代の盟友たちが集結した奇跡的なレコーディング陣である。リチャード・トンプソンがアコースティック/エレクトリック・ギターとアコーディオン、至高の歌姫サンディ・デニーがピアノ、ハーモニウム、ボーカルで全面参加。さらにフォザリンゲイ(Fotheringay)のリズム隊であるパット・ドナルドソン(ベース)とジェリー・コンウェイ(ドラム)、アンディ・ロバーツ、ティム・レンウィック、ジャズ界からキース・ティペットらが集い、英国フォーク・ロック界の最高峰の才能が一堂に会したドリーム・セッションとなった。
サウンドと楽曲の聴きどころ
マシューズの透明感あふれるシルキーなハイトーン・ボーカルと、リチャード・トンプソンの叙情性と鋭角なエッジを併せ持つギター・ワークがアルバム全編を貫いている。自作曲の「Desert Inn」や「Hearts」で聴かせる爽やかなウェストコースト・フィーリングも魅力的だが、特にリチャード・ファリーニャ(Richard Fariña)のペンによる2曲のカバーが白眉である。
かつてフェアポート初期のライブでも演奏されていた「Reno Nevada」は、タイトなリズム隊の上でトンプソンの閃光のようなギター・ソロが炸裂する本作屈指のキラー・トラック。「Morgan The Pirate」では6分半に及ぶドラマティックなフォーク・ロック絵巻を繰り広げる。そしてアルバムの掉尾を飾るタイトル曲「Thro' My Eyes」では、サンディ・デニーの優美なピアノ伴奏に乗せてマシューズとデニーの奇跡的なデュエットが実現。息を呑むような静謐さと美しさを湛えた英国フォーク史に残る名演となっている。
時代の文脈
1971年は、英国フォーク・ロックが伝統音楽の探求と米国のカントリー・ロック(The ByrdsやThe Flying Burrito Brothers)の受容という二大潮流の中で最も豊かな結実を見せていた時代。フェアポート・コンヴェンションが英国トラッド回帰を強める中で自らの音楽性を貫いて脱退したマシューズにとって、本作は英米のルーツ・ミュージックを結ぶ決定打となった。
後世への影響と仕様
本作でのアンディ・ロバーツやリチャード・トンプソンらとの共演は、翌1972年の名バンド「プレインソング(Plainsong)」の結成へと直結した。のちにマシューズがロサンゼルスへ活動拠点を移し、1979年に「Shake It」で全米トップ20ヒットを放つなど、70年代を通じて活躍するキャリアの重要な布石となっている。
また、オリジナルUK盤(Vertigo 6360 034)は、表面に凹凸のあるテクスチャー加工が施された縦開きの特殊見開きジャケット(レコードが前ポケットに収納され、後部は内側フラップで接着密閉される構造)、およびB面に「ビッグ・スワール」が配されたヴァーティゴ・レーベル仕様で知られ、音楽的完成度と相まって現在も世界中のヴァイナル・コレクターから聖杯視される名盤である。
トラックリスト
- A1 Desert Inn 3:30
- A2 Hearts 3:12
- A3 Never Ending 2:48
- A4 Reno Nevada 4:47
- A5 Little Known 2:55
- A6 Hinge 1:20
- B1 Hinge 1:10
- B2 Southern Wind 2:30
- B3 It Came Without Warning 4:01
- B4 You Couldn't Lose 2:37
- B5 Morgan The Pirate 6:46
- B6 Thro' My Eyes 2:34