Icehouse - Primitive Man (1982)
Icehouse『Primitive Man』UK盤(Chrysalis / 1982)
Icehouseの『Primitive Man』は、1982年に発表された2作目のアルバムで、バンド名をまだFlowersからIcehouseへ切り替えた直後の時期にあたる作品だ。オーストラリア出身のIva Daviesを中心に、バンドという形を保ちながらも、制作の実態としてはかなりDavies主導の色が濃い。ニューウェーブ、シンセポップ、ポップ・ロックの要素をまとめつつ、80年代初期の電子音楽の感触をはっきり残したアルバムである。
バンド名変更の背景と、この作品の位置づけ
Icehouseは、もともとFlowers名義で活動していたが、Chrysalisと契約した1981年以降、同名の別バンドとの兼ね合いからIcehouseへ改名した。アルバムタイトルにもなった『Icehouse』は前作の名前でもあり、その流れを受けた『Primitive Man』は、新しいバンド名のもとでの実質的な再出発作として聞こえる。作品単体で見ても、初期Icehouseの輪郭を決めた重要盤だ。
オーストラリアではアルバムが高く評価され、チャートでも上位に入った。国外でもIcehouseの名を広げた作品で、のちの活動を考えるうえでも、この時点でバンドの核がすでに固まっていたことがわかる。
制作の方向性と音の作り
このアルバムで目立つのは、当時のシンセサイザーやコンピュータを作曲段階から使い込んだ、かなり計算された音作りだ。録音は1982年1月に始まり、Daviesは機械的な質感をそのまま完成形に持ち込もうとしていた。曲がコンピュータ上で組み立てられていたため、演奏で人力に置き換えるのではなく、録音でもその感触を再現する必要があった、という本人の発言も残っている。
その結果、リズムやシーケンスは整然としていて、シンセの層は厚いが、無機質一辺倒にはならない。ギターやボーカルが入ることで、ロック寄りの手触りも残る。80年代初頭のニューウェーブやシンセポップの文脈にありながら、単に流行の音を並べたアルバムではなく、構成の段階から音像を組み立てた作品としてまとまっている。
代表曲「Great Southern Land」と「Hey Little Girl」
収録曲の中では「Great Southern Land」が特に重要だ。5分を超える長さを持ちながら、アルバムを代表する曲として機能している。オーストラリアでヒットしただけでなく、Icehouseのイメージを決定づけた楽曲でもある。広がりのあるシンセのフレーズと、抑制のきいたボーカルが前に出る作りで、当時の商業ラジオ向けシングルとしてはやや珍しい尺だった。
もう一つの「Hey Little Girl」も大きい。オーストラリアでヒットしただけでなく、ヨーロッパ各国でもチャートに入っており、Icehouseが国内専用の存在ではなかったことを示している。曲の輪郭ははっきりしていて、シンセポップらしい推進力と、ポップ・ロックとしての分かりやすさが同居している。
当時の評価と聴きどころ
同時代の評価も良好だった。ニュージーランドの『Rip It Up』では、電子音楽の新しい可能性を示す作品として扱われ、ステレオ効果についても触れられていた。実際、この盤は左右の広がりがはっきりしていて、ヘッドホンで聴くと各音の配置が見えやすい。音数は多いが、混雑した印象にはなりにくく、シンセの層、リズム、歌がそれぞれ分かれて聞こえる。
実際に聴くと、派手な装飾で押すというより、一定の温度を保ったまま曲を運んでいく印象が強い。ボーカルは前に出すぎず、アレンジの中に収まりながら曲の中心を保つ。こうしたバランス感覚は、同時代のRoxy MusicやDavid Bowie系統の洗練されたポップ感とも通じるが、Icehouseの場合はもう少し機械的で、都市的な空気が前に出ている。
UK盤としての『Primitive Man』
今回のUK盤はChrysalisからの1982年リリースで、オリジナル期の仕様にあたる。のちにUKでは1983年に『Love In Motion』として再発されるが、この1982年盤は『Primitive Man』というタイトルで出た初期形態の記録になる。アルバムの骨格、代表曲、制作思想がそのまま入っている点で、Icehouseの初期像をつかむうえで重要な一枚だ。
ニューウェーブ、シンセポップ、ポップ・ロックの接点にありながら、単なるジャンル標本では終わっていない。Iva Daviesの作曲感覚と、当時の電子楽器を使い切ろうとした制作姿勢が、1982年という時代の空気ときれいに重なっている作品である。
トラックリスト
- A1 Uniform 4:09
- A2 Street Cafe 4:22
- A3 Hey' Little Girl 4:10
- A4 Glam 3:18
- A5 Great Southern Land 5:14
- B1 Trojan Blue 4:59
- B2 Love In Motion 3:34
- B3 Mysterious Thing 4:21
- B4 One By One 3:57
- B5 Goodnight, Mr. Matthews 3:57