James Brown - There It Is (1972)
James Brown / There It Is(1972, US Polydor PD 5028)
ジェームス・ブラウンがPolydor移籍後に放った1972年作『There It Is』は、70年代初頭のファンクを語るうえで外せない一枚だ。ソウル、ファンク、ポップの要素をまとめつつ、JBらしい切れ味のあるシャウト、リズムの推進力、ホーンの鋭さが前面に出た内容で、アルバム全体に「踊らせる」という目的がはっきりしている。録音は1970年秋から1972年春にかけて進められており、シングル曲を中心に構成された作品でもある。
この時期のジェームス・ブラウンは、60年代のソウル・スターという枠を超えて、ファンクの設計者としての存在感を強めていた。『There It Is』はその流れの中にあり、同時代のニューソウルがメロディや洗練を広げていくのに対して、こちらは反復するリズム、細かく刻むギター、ベース、ドラムの噛み合いで押していく。ブーツィー・コリンズとキャットフィッシュ・コリンズ兄弟が関わった時期の緊張感も大きく、後のファンクやヒップホップにまでつながる素材感がすでに見えている。
収録曲の核になるシングル群
アルバムの中心には、当時のチャートでも存在感を示した楽曲が並ぶ。全米R&Bチャート1位を記録した「Talkin' Loud and Sayin' Nothing」は、1970年10月録音の曲で、言葉の勢いとリズムの食い込み方が強い。タイトル曲「There It Is」はR&B 4位、Hot 100では43位を記録し、JB流の掛け声とバンドの一体感がそのまま前に出る。さらに「I'm a Greedy Man」はR&B 7位、Hot 100 35位と、ファンクの切れ味をそのままシングルにしたような曲だ。
面白いのは、勢いだけで押し切るだけでなく、社会的な視点をはっきり持った曲が入っていること。「King Heroin」は麻薬の危険を擬人化した語り口で進むスポークン・ワード調の楽曲で、R&B 6位、Hot 100 40位を記録した。「Public Enemy #1」もストリートの厳しさを描く内容で、当時のブラック・コミュニティが直面していた現実に正面から触れている。ダンス向けのファンクと、現実を語るメッセージが同居している点が、このアルバムの特徴になっている。
演奏の密度と、JBバンドの強さ
聴きどころは、やはりバンドの止まらない推進力だ。フレッド・ウェズリーを中心とするホーン隊は、単なる装飾ではなく、フレーズの切り返しやアクセントそのものとして機能している。リズム隊は細かい隙間を埋めすぎず、JBのシャウトやブレイクを立たせる配置になっていて、曲が進むたびに緊張が積み上がる。派手な展開よりも、同じグルーヴをどこまで強く保てるかに重心がある。
実際に通して聴くと、音数の多さよりも「間」の管理が印象に残る。ボーカルが前へ出る瞬間と、バンドが一歩引く瞬間の切り替えが速く、演奏が常に会話しているように聞こえる。ジェームス・ブラウンの作品はライブの熱量で語られることが多いが、このアルバムでもその感覚はかなり強い。スタジオ盤でありながら、コール&レスポンスの圧が途切れない。
作品の位置づけ
『There It Is』は、1971年にPolydorと契約したジェームス・ブラウンが、その新しい環境で本格的にファンクを展開していく流れの中にある。BillboardのSoul LPsチャートでは最高10位、Top LPs & Tapeでは最高60位を記録しており、アルバムとしても確かな存在感を持っていた。1970年代前半のJB作品群の中でも、シングルの強さとアルバムとしてのまとまりが両立している一作として見られている。
同時代のファンクやソウルの中でも、この作品は特に「リズムが主役」という考え方を明確にしている。後のヒップホップで頻繁にサンプリングされるのも納得できる内容で、短いフレーズやブレイク、シャウトの切れ端まで素材として機能する。ジェームス・ブラウンが“ファンクの父”と呼ばれる背景には、こうしたアルバム単位での設計の強さがある。
USオリジナル盤について
このUS盤はPolydorのPD 5028で、1972年のリリース。Polydorがアメリカ市場に本格参入してから間もない時期の作品で、同レーベルのカタログの中でも初期70年代の重要作にあたる。レーベル表記やカタログ番号の扱いからも、当時のPolydorがJBを重要な柱としていたことがうかがえる。オリジナル盤としては、まさにこの時代の空気をそのまま閉じ込めた一枚だ。
『There It Is』は、ジェームス・ブラウンのファンクが最も鋭く制度化された時期の記録として残る作品だ。ヒット曲、社会性のある語り、バンドの精密なグルーヴ、その全部が一枚に入っている。70年代JBの入口としても、同時代ファンクの輪郭を知る手がかりとしても、はっきりした輪郭を持つアルバムである。
トラックリスト
- A1a There It Is Part 1 3:05
- A1b There It Is Part 2 2:47
- A2 King Heroin 3:56
- A3a I'm A Greedy Man Part 1 2:47
- A3b I'm A Greedy Man Part 2 4:29
- A4 Who Am I 4:30
- B1 Talking Loud And Saying Nothing 5:41
- B2a Public Enemy #1 Part 1 5:05
- B2b Public Enemy #1 Part 2 5:05
- B3 I Need Help (I Can't Do It Alone) 2:56
- B4 Never Can Say Goodbye 3:00