Japan - Tin Drum (1981)
Japan『Tin Drum』——1981年、最後のスタジオ作にして決定打
Japanの『Tin Drum』は、1981年にUKのVirginから出た5作目にして最後のスタジオ・アルバム。David Sylvian、Mick Karn、Steve Jansen、Richard Barbieriを中心にしたこの時期のJapanは、初期のグラム色やポストパンク的な輪郭を残しつつ、より音数を絞った構成へ進んでいた。その流れが、この作品でかなり明確になる。ニュー・ウェイヴ、シンセポップ、アートロックの要素が並ぶが、単純に電子音主体のアルバムというより、音の置き方や間の取り方まで含めて設計された一枚という印象が強い。
オリジナルのUK盤はVirginのV2209。Virginのレーベル・デザイン史でいうと、この時期は1978年以降に使われたグリーン/レッド系の“alternative label”の時代に当たる。1981年盤らしい仕様で、後年の再発盤とはレーベル表記や細部が異なることがある。初回プレスには限定ポスター付きのものがあり、マトリクス違いの版も確認されている。さらに、両面ともA面ラベルで製造された誤表記コピーもあったとされる。こうした初期Virgin盤特有の揺れも、当時の流通事情をそのまま残している。
東アジアへの視線がはっきり出た作品
『Tin Drum』でまず目を引くのは、音だけでなくイメージの作り方。ジャケットでDavid Sylvianが毛沢東のポスターを背に箸で米を食べる姿は、作品全体の方向性をそのまま示している。中国をはじめとする東アジアの文化的要素を、装飾ではなく楽曲の骨格に近いところへ持ち込んでいる点がこのアルバムの特徴だ。坂本龍一との交流を通じた影響も指摘されるが、少なくともこの時期のJapanが、同時代のUKニュー・ウェイヴの中でもかなり独自の位置にいたことははっきりしている。
実際に聴くと、派手な展開で押す場面は少なく、低音域のうごき、打楽器の配置、シンセの残響が前に出る。Mick Karnのフレットレス・ベースは、メロディを支えるというより、曲の輪郭そのものを描く役回り。Richard Barbieriのキーボードは空間を埋めすぎず、Steve Jansenのドラムは細かい打点で全体を引き締める。David Sylvianの声は、のちのソロ作にもつながる落ち着いた響きで、ここでは特に抑制が効いている。音の密度は高いのに、隙間がある。そのバランスが『Tin Drum』の重要な部分だと思う。
「Ghosts」を中心にしたシングルの存在感
代表曲としてまず挙がるのは「Ghosts」。UKシングルチャートで5位まで上がったこの曲は、Japanの中でも特に広く知られた一曲で、アルバム全体の静かな緊張感を象徴している。メロディは明確だが、演奏は必要以上に感情を押し出さない。そこが当時の英国ポップの中ではかなり目立っていた。「Visions Of China」や「Cantonese Boy」もシングルとして出され、いずれもアルバムの美学をそのまま切り出したような曲。ヒット性だけを狙った並びではなく、作品全体の方向を示す役割が強い。
『Tin Drum』はUKアルバム・チャートで12位を記録し、ゴールド認定も受けている。Japanにとっては、商業的な到達点と作品性の両方が揃った時期の記録でもある。とはいえ、バンド内部ではMick KarnとDavid Sylvianの関係が次第に難しくなり、活動継続の土台はこの時点ですでに不安定になっていた。結果として、このアルバムは“成功期の最後”としても読める。
同時代の中での輪郭
同時代のUKニュー・ウェイヴやシンセポップには、Duran DuranやUltravox、Human Leagueのように、より広い層へ届く方向へ進んだバンドがいた。一方でJapanは、ポップ性を保ちながらも、音数の整理、和音の置き方、ベースの動き、視覚表現まで含めて独自の緊張感を保った。結果として『Tin Drum』は、同じジャンル名では括れても、かなり別の手触りを持つ作品になっている。
Japanの5作目であり、最後のスタジオ・アルバム。バンドの歩みを追ううえでは区切りの一枚だが、単なる終着点というより、ここで到達した方法論そのものが作品としてまとまった盤、という見方がしっくりくる。Virgin初期80年代のUK盤としても、内容面でも、印象の残る一枚。
トラックリスト
- A1 The Art Of Parties 4:09
- A2 Talking Drum 3:34
- A3 Ghosts 4:33
- A4 Canton 5:30
- B1 Still Life In Mobile Homes 5:32
- B2 Visions Of China 3:37
- B3 Sons Of Pioneers 7:07
- B4 Cantonese Boy 3:44