Kerry Livgren - Seeds Of Change (1980)
Kerry Livgren『Seeds Of Change』――Kansasの中心人物がソロで示した転機
Kerry Livgrenの『Seeds Of Change』は、1980年にUSのKirshnerから発表されたソロ・アルバムである。Kansasの主要ソングライターとして知られるLivgrenが、自身の音楽性と内面を前面に出した作品として位置づけられる。録音は1980年2月から3月にかけてAxis Studiosで行われており、まさにKansasの活動と並走するかたちでまとめられた一枚だ。
Livgrenは1949年、カンザス州トピカ生まれ。70年代のプログレッシブ・ロック・バンドKansasで、バンドの核となる作曲面を担ってきた人物である。『Seeds Of Change』が出た1980年は、彼にとって思想面でも大きな節目の時期で、作品全体にもその変化がはっきり出ている。単なる“バンド外の余技”ではなく、本人の考え方がそのまま音になっているソロ作という印象が強い。
Kansasの延長線上にある演奏感
このアルバムを聴くと、まず耳に残るのはKansas直結の演奏の手触りだ。複雑な構成、緊張感のある展開、リフの組み立て方など、70年代後半のKansasを支えた要素がしっかり残っている。参加メンバーも豪華で、Steve Walsh、Phil Ehart、Robby SteinhardtといったKansasの面々に加え、Ronnie James Dio、David Pack、Barriemore Barlow、Mylon LeFevreらが名を連ねる。ソロ作でありながら、個人の内省だけで閉じず、複数の音楽家が交わる形になっているのが特徴だ。
実際に通して聴くと、Kansas本体の大作志向を思わせる場面がある一方で、歌詞の内容はより直接的で、信仰を語る言葉が前に出る。そこがこの作品の大きな個性になっている。音のスケール感とメッセージの明快さが同居していて、当時のLivgrenの関心がそのまま記録された作品として受け取れる。
『To Live for the King』と『Whiskey Seed』
収録曲の中では、『To Live for the King』のような信仰告白がはっきりした楽曲が、このアルバムの姿勢を象徴している。言葉の内容が明確で、Livgrenが何を表現しようとしていたのかが分かりやすい。いっぽうで『Whiskey Seed』のような曲では、土の匂いのする感触とゴスペル的な力強さが同居していて、単純な説教調には寄らない。こうした振れ幅があるため、作品全体が一本調子になりにくい。
また、Ronnie James Dioを迎えた楽曲では、ハードな歌声が前面に出ることで、Kansasの文脈とは少し違う緊迫感が生まれている。Livgrenの楽曲が持つ進行の多さや構成の変化に、Dioの声が強い輪郭を与えている形だ。ここは後年の回想でも話題になりやすい部分で、このアルバムの聴きどころのひとつと言える。
1980年という時代の中で
1980年前後のアメリカン・ロックには、ハードロックやAOR、プログレ由来の技巧派サウンドがそれぞれ違う方向で広がっていた。『Seeds Of Change』は、その中でもKansasの系譜にある緻密な演奏を保ちながら、個人の信仰と内面をそのまま歌へ落とし込んだ点で独特だ。大ヒット作として語られることは少ないが、Livgrenにとってはバンドの作家から、より個人的な表現者へ移る途中の重要な地点だったはずだ。
なお、この作品は後年、“Decade”コンピレーションの一部としてリマスター再発もされている。オリジナル盤は1980年当時のUS Kirshner盤で、黒いインナー・スリーブにテキストと写真アートワークが付く仕様。そうした初出時の空気も含めて見ると、単なるソロ・デビュー作以上に、Livgrenの転機をそのまま封じ込めた記録として捉えやすい。
まとめ
『Seeds Of Change』は、Kansasの主要ソングライターが、自身の考えを隠さずに打ち出した1980年の作品である。演奏はKansas周辺の文脈を強く引き、ゲスト陣の存在もあって厚みがある。そこにLivgren自身の信仰告白が重なり、ロック作品としても個人史の記録としても読み取れる内容になっている。70年代プログレの流れを引きながら、80年代の入口で別の方向へ踏み出した一枚、と見ることができる。
トラックリスト
- A1 Just One Way 5:46
- A2 Mask Of The Great Deceiver 7:36
- A3 How Can You Live 4:13
- A4 Whiskey Seed 5:33
- B1 To Live For The King 4:55
- B2 Down To The Core 5:18
- B3 Ground Zero 8:36