Pixies - Bossanova (1990)
Pixies『Bossanova』──90年の空気をまとった、3作目のアルバム
Pixiesの『Bossanova』は、1990年にリリースされた3作目のスタジオ・アルバムである。前作『Doolittle』の成功を受けたタイミングで発表され、バンドにとっては大きな注目を集める局面の作品になった。制作時の拠点はボストンではなくロサンゼルス周辺へ移っており、その環境の変化が音の輪郭にも反映されているように感じられる。荒さを前面に押し出した初期作と比べると、ここでは曲の密度を保ちながら、空間の広がりを意識した作りになっている。
レーベルは4AD、カタログ番号はCAD 0010。UK盤として出たこのオリジナル・リリースは、4ADらしい編集感覚とPixiesの異物感が重なる一枚でもある。4ADは当時から独特の美学を持つレーベルで、Pixiesもその中核を担う存在だった。アートワークや音像の作り方まで含めて、当時のUKインディーの文脈の中で強い印象を残した作品と言える。
制作背景とサウンドの変化
『Bossanova』は、バンドがロサンゼルスへ活動の軸を移した時期に制作された。録音はチェロキー、Aire、Silverlake、Hansa Tonなど複数のスタジオで進められ、最終的にはMaster Controlでミックスされている。バンド内では、キム・ディールがBreeders『Pod』の制作にも関わっていた時期で、緊張感のある状況だったとされる。その空気は、アルバム全体の音の運び方にも出ている。速く押し切るよりも、テンポに間を持たせ、リフやメロディを見せる構成が多い。
実際に聴くと、ギターの歪みやリズムの切れ味は残っているのに、前作までのような爆発だけでは終わらない。曲の間に余白があり、音が横に広がっていく感触がある。特にドラムとベースの組み方が整理されていて、演奏の勢いよりもフレーズの輪郭が見えやすい。Pixiesらしい不規則な展開はそのままでも、全体としては少し冷静で、どこか乾いた質感がある。
代表曲とアルバムの印象
本作からは「Velouria」「Dig for Fire」がシングルとして知られる。中でも「Velouria」は、Pixiesの代表曲として挙げられることが多い一曲で、重心の低いリフと印象に残るメロディがはっきりしている。ライヴでも映えるタイプの曲で、バンドの持つ奇妙さとポップさの両方が見えやすい。「Dig for Fire」は、タイトル通りのイメージを持ちながら、音数を絞って進む構成が印象的だ。
アルバム全体を通すと、1曲ごとの性格がかなり明確で、短い楽曲の連なりの中に変化を詰め込んでいる。収録曲は1から14まで通し番号で並び、流れとして聴くと、直線的というより、断片が少しずつ景色を変えていくような構成になっている。ボストン時代の切迫感よりも、ロサンゼルスの広がりや、砂漠や宇宙を連想させるイメージが前に出ているのもこの時期らしい。
当時の評価と位置づけ
『Bossanova』は、リリース当時から評価の高い作品だった。UKでは特に強く受け止められ、全英アルバムチャートでは3位を記録している。米国でもBillboard 200にランクインしており、Pixiesの中では商業的にも目立つ成果を残した。『Doolittle』の直後ということもあり、比較されやすい作品ではあるが、単なる延長線ではない。より整った構造と、少し引いた視点がある。
同時代のオルタナティブ・ロックの中でも、このアルバムは少し特殊な位置にある。勢いで押すだけの作品でも、実験性だけに寄せた作品でもない。R.E.M.のようなメロディ重視の流れとも、ノイズ寄りのバンドとも違う、Pixies独自の切り口がはっきりしている。のちのオルタナティブ・ロックやインディー・ロックに与えた影響を考えると、こうした「歪んでいるのに整理されている」感覚は、後続の多くのバンドに参照された要素だろう。
UK盤ならではの情報
このUKオリジナル盤は、印刷されたインナー・スリーブ付きで、クレジットが掲載されている。さらに、一部の個体には16×23インチのポスターが付属した。盤面の内容はもちろん、4ADのリリースとしての体裁も整っていて、当時のレーベルの仕事ぶりがよく出ている。ジャケット、番号、クレジットのまとめ方まで含めて、90年の4ADを代表する一枚として見ることができる。
『Bossanova』は、Pixiesの中でも勢いだけでは説明できないアルバムである。前作までの衝動を保ちながら、音の配置や曲の見せ方を少し変えたことで、バンドの幅が見える作品になった。初期の代表作群の中ではやや見落とされやすいが、聴き進めるほどに構成のうまさが見えてくる。90年という時代の空気と、Pixiesというバンドの個性が、きれいに重なった一枚だと思う。
トラックリスト
- A1 Cecilia Ann 2:06
- A2 Rock Music 1:52
- A3 Velouria 3:40
- A4 Allison 1:17
- A5 Is She Weird 3:01
- A6 Ana 2:09
- A7 All Over The World 5:26
- B8 Dig For Fire 3:02
- B9 Down To The Well 2:29
- B10 The Happening 4:19
- B11 Blown Away 2:20
- B12 Hang Wire 2:01
- B13 Stormy Weather 3:26
- B14 Havalina 2:33