R.E.M. - Murmur (1983)
R.E.M.『Murmur』──アメリカ南部から出てきたデビュー作
R.E.M.の『Murmur』は、1983年4月12日に米国でI.R.S. Recordsから出たデビュー・アルバムである。アーティストはジョージア州アセンズ出身の4人組。マイケル・スタイプの歌、ピーター・バックのギター、マイク・ミルズの低音とコーラス、ビル・ベリーのドラムが、当時のメジャーなロックとは少し違う距離感でまとまっている。タイトルの通り、はっきり輪郭を描き切るより、音の層や空気の揺れを前に出した作品だ。
R.E.M.にとっては最初の長編作品であり、後年の活動を考えると出発点としての重みが大きい。1980年代初頭のアメリカン・ロックの中でも、MTV時代の派手な見せ方や、ハードロック寄りの押し出しとは別の位置にいた。アメリカ南部の大学町アセンズから現れたバンドとして、同時代のポスト・パンクやカレッジ・ロックの流れとも近い場所にありながら、フォークやガレージの手触りも残している。
制作の経緯と録音の空気
録音は1983年1月から2月にかけて行われた。最初に組んだセッションは難航し、のちにミッチ・イースターとドン・ディクソンを迎えた試験的な録音が採用され、本格的な制作へ進んだという経緯がある。完成した音には、その流れがそのまま残っている。整いすぎず、かといって散漫でもない。楽器の鳴りは近いのに、歌詞やメロディは少し奥に引っ込んで聞こえる場面が多い。
実際に耳を通すと、まず印象に残るのは音の配置だ。ドラムは派手に前へ出ないが、細かい推進力を持つ。ギターはコードを強くかき鳴らす場面より、音の隙間を埋めるように動く。ベースは旋律を追うだけでなく、曲の輪郭を支える役割が大きい。マイケル・スタイプのボーカルも、言葉を明瞭に押し出すというより、断片を投げるような歌い方が中心で、そこがこの作品の性格を決めている。
代表曲とアルバムの中心
『Murmur』を語るうえで外せないのが「Radio Free Europe」だ。R.E.M.初期を代表する曲で、後にこのバンドを知る入口にもなった1曲である。ギターの刻み、跳ねるリズム、意味を固定しない歌詞の並びが、アルバム全体の感触をよく表している。「Talk About the Passion」や「Perfect Circle」も、メロディの強さと曖昧さが同居していて、単純にフックだけを前面に出す作りではない。
収録曲の中では「Pilgrimage」も重要だ。I.R.S.に採用されたテスト録音の流れを踏まえて本制作へつながった曲で、このアルバムが偶然の産物ではなく、試行錯誤の末に形を得たことが見える。曲順全体を通しても、派手な起伏を積み重ねるというより、似た温度の曲を並べて、アルバムとしての密度を作っている。
評価と当時の位置づけ
発売当時から批評面では高く評価された。ローリング・ストーン誌は高得点を与え、年間ベストのアルバムにも選出している。一方で、商業的な広がりはすぐには大きくならなかった。1983年時点では売上が限定的だったとされるが、のちにゴールド認定に至っている。
同時代の文脈で見ると、『Murmur』はアメリカのインディー/カレッジ・ロックの軸を作った作品のひとつとして扱われることが多い。のちのオルタナティヴ・ロックの土台にある、メジャー志向のロックとは違う鳴り方、意味を言い切らない歌詞、南部由来の湿度を含んだ演奏。その要素が、この1枚にはすでに揃っている。
オリジナル盤の細部
この1983年盤は、I.R.S. RecordsのSP 70604。A&M流通期の初期I.R.S.らしい仕様で、ラベルには「Manufactured and distributed by A&M Records, Inc.」の表記が入る。盤によってはQuiex系のビニールが使われ、光にかざすと灰色がかった半透明に見えるものもある。こうした初期プレスならではの細部も、当時のリリース事情をそのまま伝えている。
『Murmur』は、R.E.M.の始まりであると同時に、80年代以降のアメリカン・ロックの別ルートを示したアルバムでもある。はっきりした答えを出す作品ではないが、音の置き方、曲の進み方、声の距離感に、後のバンドへつながる手がかりが多い1枚だ。
トラックリスト
- A1 Radio Free Europe 4:05
- A2 Pilgrimage 4:25
- A3 Laughing 3:52
- A4 Talk About The Passion 3:22
- A5 Moral Kiosk 3:32
- A6 Perfect Circle 3:23
- B1 Catapult 3:54
- B2 Sitting Still 3:07
- B3 9 - 9 3:02
- B4 Shaking Through 4:00
- B5 We Walk 3:04
- B6 West Of The Fields 3:15