Fugazi - Steady Diet Of Nothing (1991)
Fugazi『Steady Diet Of Nothing』について
Fugaziの『Steady Diet Of Nothing』は、1991年にDischord Recordsから出た2作目のフルアルバムである。ワシントンD.C.のハードコア・シーンを背景にしながら、単なる速さや攻撃性だけでは収まらない方向へ進んでいったバンドの姿が、かなりはっきり見える作品だ。前作『Repeater』で示した緊張感を保ちながら、ここでは演奏の間合い、音の抜き差し、反復の圧がより前に出てくる。パンク、ハードコア、ポスト・ハードコア、インディー・ロックの境目をまたぐような作りで、Fugaziというバンドの輪郭を確認するにはちょうどいい一枚でもある。
この時期のFugaziは、Ian MacKayeとGuy Picciottoのツイン・ギター/ツイン・ヴォーカル、Joe Lallyのベース、Brendan Cantyのドラムという編成がすでに固まっていて、バンドとしての結束がそのまま音に出ている。Dischordらしい自主管理の姿勢も含めて、90年代初頭のアメリカン・インディーの文脈ではかなり重要な位置にある作品だと思う。
1991年という時点でのFugazi
1991年は、アメリカのオルタナティヴやハードコア周辺が大きく見え方を変え始めた時期でもある。その中でFugaziは、メジャー寄りの成功を追うのではなく、演奏と制作の規律を保ちながら、音楽そのものの密度で存在感を出していた。『Steady Diet Of Nothing』は、その立ち位置をよく示すアルバムだ。勢い任せに押し切る場面もあるが、同時に、リズムの止め方やギターの重ね方にかなり意識が向いている。
Dischord Recordsの1991年前後の作品として見ると、このアルバムは初期Fugaziの直線的な爆発力と、後年のより広いダイナミクスのあいだにある。つまり、ハードコアの出自を残しながら、ポスト・ハードコアとしての設計が前に出始める局面だ。JawboxやShudder to Think、Rites of Spring以降のD.C.シーンを思い浮かべると、この作品の位置もつかみやすい。
アルバム全体の印象
聴いていると、音数を増やして派手にするのではなく、むしろ削った要素のあいだに張りつめた空気を作る方向が目立つ。ギターはメロディを前面に出しすぎず、リフとノイズの境目を行き来する。ベースとドラムはかなり堅く、曲の芯を崩さない。Fugaziの作品の中でも、演奏の輪郭がはっきりしていて、各パートがぶつかり合うというより、組み上がっていく感じが強い。
ヴォーカルは叫び切るだけではなく、語気を変えながら曲のテンションを運ぶ役割が大きい。Ian MacKayeの硬質な歌い方と、Guy Picciottoの差し込み方が、曲ごとに緊張の置き場所を変えていく。実際に通して聴くと、勢いのある曲だけでなく、少し間を置く曲でもアルバムの流れが切れない。そこがこの作品の強さだと思う。
注目曲「Repeater」型とは少し違う推進力の楽曲群
このアルバムの中では、短い時間で一気に押し切る曲がまず耳に残る。リフの反復で熱を上げていく作りはFugaziらしいが、前作よりも少し抑制が効いていて、ただ速いだけでは終わらない。リズムが前へ進むだけでなく、途中で引っかかる感覚があり、その引っかかりが曲の印象を強くしている。
こうした曲では、ギターの歪みが厚いというより、鋭く切り込む方向に振れている。ハードコアの直進性を持ちながら、単純な疾走に回収されないのが面白いところだ。90年代初頭の同系統のバンドと比べても、Fugaziはリフの反復を「勢い」ではなく「圧」として使う傾向が強い。このアルバムでは、その性格がかなり明確に出ている。
「Margin Walker」周辺にある、Fugaziらしい構造感
代表曲としてよく挙がる「Margin Walker」は、このアルバムの性格をつかむのにわかりやすい一曲だ。曲の立ち上がりから緊張感があり、ドラムとベースが土台を作りながら、ギターがそこに角のあるフレーズを置いていく。歌が前へ出る場面でも、演奏が単なる伴奏にならない。各パートが独立して動いているのに、全体ではきちんと一つの圧力にまとまる。
この曲のよさは、勢いのピークだけではなく、途中で生まれる間の取り方にもある。Fugaziはしばしば「止める」ことで曲を強くするが、「Margin Walker」でもその感覚がよく出ている。音を詰め込むより、必要なところだけを残して緊張を保つ作りで、後のポスト・ハードコアにも通じる設計だと感じる。
「Long Division」に見える反復と硬さ
「Long Division」も、この作品を語るうえで外しにくい。反復するギターのフレーズが曲の骨格になっていて、その上でヴォーカルが少しずつ圧をかけていく。派手な展開が多いわけではないが、同じ形を続けることでむしろ強度を増していくタイプの曲だ。Fugaziの中でも、演奏の精密さがそのまま曲の表情になっている。
この手の作りは、同時代のハードコアの中でも少し異質に聞こえることがある。感情の発散より、構造そのものが前に出るからだ。ただ、冷たいというよりは、むしろきっちり組み上げることによって熱を保っている印象がある。『Steady Diet Of Nothing』全体の方向性を、かなり端的に示す曲のひとつだろう。
作品の位置づけ
『Steady Diet Of Nothing』は、Fugaziが初期のハードコア文脈からさらに一歩進み、独自のポスト・ハードコア像を固めていく途中の記録として見やすい。後の『In on the Kill Taker』や『Red Medicine』ほど広いレンジを見せる前段階ではあるが、すでに「速い」「激しい」だけでは説明できないバンドになっていることがわかる。
Dischordのカタログの中でも、この時期のFugaziはかなり象徴的だ。DIYの姿勢、ライブ重視の活動、商業主義への距離感といった背景を抜きにしても、音そのものが十分に強い。『Steady Diet Of Nothing』は、その強さが演奏の精度と構成の厳しさから出ているアルバムである。聴き終えると、熱量よりも、むしろ制御された圧力の記憶が残る作品だ。
レコード情報としてのポイント
- アーティスト: Fugazi
- タイトル: Steady Diet Of Nothing
- オリジナルリリース年: 1991年
- レーベル: Dischord Records
- 国: US
- ジャンル/スタイル: Rock / Hardcore, Punk, Indie Rock, Post-Hardcore
なお、Dischordの同時期の盤は製造国と表記国が異なることがあるが、この作品は1991年のUSリリースとして捉えるのが自然だ。Fugaziの初期ディスコグラフィの中でも、バンドの骨格がかなり明瞭に出た一枚として記憶されている。
トラックリスト
- A1 Exit Only
- A2 Reclamation
- A3 Nice New Outfit
- A4 Stacks
- A5 Latin Roots
- A6 Steady Diet
- B1 Long Division
- B2 Runaway Return
- B3 Polish
- B4 Dear Justice Letter
- B5 KYEO
動画
- Exit Only
- Reclamation
- Nice New Outfit
- Steady Diet
- Latin Roots
- KYEO
- Long Division
- Runaway Return
- Polish
- Dear Justice Letter
- Stacks