Ghetto Brothers - Power-Fuerza (1972)
Ghetto Brothers『Power-Fuerza』(1972)
1970年代初頭のニューヨーク・サウス・ブロンクスにて、プエルトリコ系移民の若者たちによって結成されたストリート・ギャング/コミュニティ組織、ゲットー・ブラザーズ(Ghetto Brothers)が1972年にSalsa Recordsから放った唯一のスタジオ・アルバム『Power-Fuerza』(パワー・フエルサ)。荒廃と暴力が渦巻くゲットーの路上から生まれたとは信じがたいほど美しくピュアなメロディと、ヒップホップ誕生前夜の息吹を生々しく伝える奇跡のドキュメントである。
ストリートの平和を求めたギャングと「ホー・アヴェニュー和平協定」
1960年代末から1970年代初頭にかけてのサウス・ブロンクスは、都市開発によるコミュニティの破壊、貧困、麻薬、そしてギャング同士の血で血を洗う抗争が日常化していた。そうした中、ベンジー・メレンデス(Benjamin "Yellow Benjy" Melendez)らメレンデス兄弟を中心に結成されたゲットー・ブラザーズは、武闘派組織でありながら若者の自立と民族的誇り、そしてコミュニティの平和を掲げて活動を展開した。
彼らの歴史的功績として音楽史・社会史に永遠に刻まれているのが、1971年12月に主導した「ホー・アヴェニュー和平協定(Hoe Avenue Peace Meeting)」である。抗争で幹部を殺害されたにもかかわらず報復を拒否し、ブロンクス中の大小数十のギャングを集めて平和協定を締結。この歴史的停戦によってストリートに平和がもたらされ、屋外でのブロック・パーティや、クール・ハーク、アフリカ・バンバータらによる初期ヒップホップ・カルチャーが開花する決定的な土壌が形成された。
1日限りのスタジオ録音が生んだ奇跡のストリート・ポップ
その和平協定とほぼ同時期の1971年夏、メレンデス兄弟を中心とするバンド部門がマンハッタンのスタジオに入り、わずか1日のセッションで録音したのが本作である。当初は地元ブロンクス周辺で数百枚程度が手売りされたに過ぎなかった。
本作に宿る最大の魅力は、ビートルズ直系の胸を打つ哀愁のポップ・センスと、プエルトリカン・コミュニティの血潮である熱狂的なラテン・リズム(サルサ/ブーガルー)、そしてサイケデリック・ロックやファンクの奇跡的な融合にある。オープニングの「Girl From The Mountain」や名曲「There Is Something In My Heart」が聴かせるスウィート・ソウル譲りの甘美なボーカル・ハーモニー、軽快なパーカッションが躍動するファンク・ナンバー「Got This Happy Feeling」、祖国への連帯と誇りを叫ぶ「Viva Puerto Rico Libre」など、全編に胸を締めつけるほどの情熱と純真さが溢れ出ている。
失われたミッシングリンクの発掘と世界的大絶賛
長年にわたり幻のメガレア盤としてコレクターの間でのみ語り継がれていたが、2012年にブルックリンのレーベル「Truth & Soul」が正規復刻を果たしたことで世界中にセンセーションを巻き起こした。ピッチフォークをはじめ各国の音楽メディアから「Best New Reissue」として激賞され、ニューヨークの社会史とブラック/ラテン・ストリート・ミュージック史を繋ぐ失われたミッシングリンクとして不動の評価を確立した傑作である。
トラックリスト
- A1 Girl From The Mountain 4:40
- A2 There Is Something In My Heart 3:35
- A3 Got This Happy Feeling 4:34
- A4 Mastica Chupa Y Jala 3:45
- B1 You Say You Are My Friend 3:01
- B2 Viva Puerto Rico Libre 6:06
- B3 I Saw A Tear 3:35
- B4 Ghetto Brothers Power 2:55