Banco Del Mutuo Soccorso - Io Sono Nato Libero (1973)
Banco Del Mutuo Soccorso『Io Sono Nato Libero』(1973)
イタリアン・プログレッシヴ・ロック(RPI)の頂点に君臨する名バンド、バンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソ(Banco Del Mutuo Soccorso)が1973年12月に発表したサード・アルバム。邦題は『自由への扉(原題訳:私は自由に生まれた)』。PFM(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)やレ・オルメと並び称される彼らだが、本作では前2作の架空・進化論的寓話から一転し、「政治的自由」「人間の尊厳」「抑圧からの解放」という切実な現実のテーマへと舵を切った。変形アーチ型の精緻な見開き変形ジャケットと中綴じブックレットという豪華な装丁も相まって、1970年代イタリアン・ロックを代表する至高の芸術品として讃えられている。
制作背景と新布陣
本作のレコーディングは1973年10月、ミラノのフォノラマ・スタジオ(Studi Fonorama)で行われ、名門リコルディ(Ricordi)からリリースされた。本作からギタリストとしてロドルフォ・マルテーゼ(Rodolfo Maltese)が正式加入。従来のヘヴィなギター・アプローチにジャズ・ロックや地中海フォークの柔軟なニュアンスが加わり、ヴィットリオ&ジャンニのノチェンツィ兄弟(Vittorio & Gianni Nocenzi)による華麗なツイン・キーボードとのインタープレイが飛躍的な進化を遂げた。
そしてフロントに立つ巨漢ヴォーカリスト、フランチェスコ・ディ・ジャコモ(Francesco Di Giacomo)の圧倒的な声量とオペラティックな表現力は本作でひとつの頂点を迎える。情熱と哀愁、怒りと祈りが交錯する彼の歌唱は、単なるロック・ヴォーカルの枠を遥かに超え、聴く者の心を根底から揺さぶる。
時代の文脈:激動の1973年
1973年9月に起きたチリ・クーデター(ピノチェトによるアジェンデ政権崩壊)をはじめとする国際的な軍事独裁の暗雲、そして「鉛の時代」と呼ばれ左右の政治的暴力やテロが激化したイタリア国内の不穏な空気が、本作の根底には色濃く反映されている。
デビュー作『Banco Del Mutuo Soccorso』(貯金箱型変形ジャケット)やセカンド『Darwin!』の壮大なコンセプトを経て、バンドはより直接的かつ普遍的なメッセージを提示した。圧政に抗い自由を求める人間の魂の叫びを、高度な音楽的構築美の中に結晶化させた点において、プログレッシヴ・ロックの社会的意義を体現した傑作である。
作品の構成と聴きどころ
アルバムの白眉は、A面の大半を占める15分超の一大叙事詩「Canto Nomade Per Un Prigioniero Politico(政治犯のための遊牧民の歌)」だ。静謐なシンセサイザーの導入部から一転、バルトークやバッハを想起させる先鋭的なピアノのリフ、目まぐるしく展開する変拍子のキメ、躍動するリズムセクション、そして激しい哀切を帯びたフラメンコ風のアコースティック・ギターへとドラマティックに転回する。ディ・ジャコモの魂を削るような絶唱は圧巻の極みである。
続く「Non Mi Rompete(私を邪魔しないで)」は、一転して瑞々しいアコースティック・ギターのアルペジオと伸びやかな歌声が広がる田園詩のような名曲で、今日に至るまでバンドのステージで最も愛される代表曲となった。B面では、バロックと現代音楽が不穏に交錯する「La Città Sottile(薄明の街)」、戦争の爪痕と喪失感を重厚に描く「Dopo... Niente È Più Lo Stesso(その後、すべては変わってしまった)」、そして華麗なインストゥルメンタル「Traccia II」へと至り、アルバム全体が完璧な弧を描いて幕を閉じる。
評価とオリジナル盤の仕様
米ローリング・ストーン誌の「史上最高のプログレッシヴ・ロック・アルバム50選」において第35位に選出されるなど、世界的な評価も極めて高い。1973年のイタリア初回オリジナル盤(Ricordi / 規格番号:SMRL 6123)は、上部がアーチ状にダイカットされた特殊見開きジャケット仕様で、内部に8ページのブックレットがホチキス留めされている。レーベル面のアルバムタイトル表記が2行に分かれ、曲名表記が小文字で印刷されているものが最初期プレスの証である。
トラックリスト
- A1 Canto Nomade Per Un Prigioniero Politico 15:43
- A2 Non Mi Rompete 5:03
- B1 La Città Sottile 7:10
- B2 Dopo... Niente È Più Lo Stesso 9:54
- B3 Traccia II 2:39