Il Balletto Di Bronzo - Ys (1972)
Il Balletto Di Bronzo『Ys』
イタリアのプログレッシヴ・ロック・バンド、Il Balletto Di Bronzoが1972年にPolydorから発表した2ndアルバム。見開きゲートフォールド・スリーブに4ページのブックレットを綴じ込んだ初回イタリア盤で、ジャケット、歌詞、クレジットまで含めて作品としてまとめられている。タイトルは『Ys(イース)』。海に沈んだとされるブルターニュ地方のケルト伝説都市「イス」に由来し、日本では長年『イプシロン・エッセ』という邦題でも親しまれてきた。
制作背景・エピソード
デビュー作『Sirio 2222』のあと、オリジナル・メンバーからはギタリストのリーノ・アイエッロとドラマーのジャンカルロ・スティンガが残り、そこにベーシストのヴィート・マンザーリ、そしてチッタ・フロンターレ等で異彩を放っていた若き天才鍵盤奏者ジャンニ・レオーネが正式加入した。この4人がローマで約1年をかけて共同生活を送りながら楽曲を練り上げ、レオーネが鍵盤とボーカルの中心を担って本作を完成させた。
アルバムは全5部構成のコンセプト作で、地球上に生き残った最後の人類が荒廃した世界をさまよい、奇妙な出会い(Incontri)を経て破滅へ向かう終末論的な物語を描いている。アナログ初回盤はスリーブ表記「2448 003」、レーベルには「Parole e musica di N. Mazzocchi」のクレジットが刻まれている。
時代の文脈
1972年は、P.F.M.やBanco del Mutuo Soccorso、Le Ormeらが名作を発表し、イタリアン・プログレッシヴ・ロックが黄金期を迎えていた時期にあたる。その中で『Ys』は、同時代の牧歌的な地中海叙情やクラシカルな美しさとは完全に距離を置き、無調音楽、不協和音、複雑な変拍子、激しいディストーションを前面に出した異端の作品として位置づけられる。あまりの先鋭性と暗黒性ゆえに当時の大衆からは理解されず、バンドは翌1973年に解散へ追い込まれたが、時代を先取りした凶悪な最高傑作となった。
サウンドの特徴と聴きどころ
ジャンニ・レオーネが繰り出すハモンドオルガン、メロトロン、ムーグ・シンセサイザー、ピアノ、チェレスタ、スピネットといった鍵盤群の圧倒的な狂演と、ヒステリックでシアトリカルなボーカルが聴く者を圧倒する。15分を超える怒涛の変拍子組曲「Introduzione」から、「Primo Incontro」「Secondo Incontro」「Terzo Incontro」、そして破滅の美を刻む11分半の「Epilogo」まで、切れ目なく展開するアンサンブルは一瞬の隙もない。リーノ・アイエッロの凶暴なファズ・ギターと重厚なリズム隊が一体となり、クラシック、フリー・ジャズ、ハード・ロックを解体・再構築した狂気的な音響空間を構築している。
後世への影響
のちに『Ys』は、イタリアン・ロック史のみならず世界のプログレッシヴ・ロック史における「最もヘヴィで凶悪な暗黒の金字塔」として神格化されるに至った。特に日本やヨーロッパでは熱狂的な支持を集め、オリジナルLPはプログレ屈指のメガ・レア盤として高額で取引されている。キング・クリムゾンやマグマ、ユニヴェル・ゼロ、さらには後の暗黒アヴァン・プログレやブルータル・プログレ勢に決定的な影響を与え、ジャンニ・レオーネは1990年代以降にバンドを再編して本作の完全再現を行うなど、現在も絶大なリスペクトを受け続けている。
トラックリスト
- A1 Introduzione
- A2 Primo Incontro
- B1 Secondo Incontro
- B2 Terzo Incontro
- B3 Epilogo