Cristina - Cristina (1980)
Cristina 1980

Cristina - Cristina (1980)

Electronic Disco

Cristina『Cristina』(1980)レビュー

1980年にUK盤として出たCristinaの『Cristina』は、ニューヨークのZE Recordsを代表する初期作品のひとつだ。のちに再発盤では『Doll in the Box』のタイトルでも知られるが、オリジナルではこの自己タイトルで登場している。アーティスト名と同じ題名を持つだけあって、まずは本人のキャラクターを前面に押し出した作品という印象が強い。歌い手Cristina Monetは、ハーバードで学び、Village Voiceの書き手としても活動していた人物で、音楽畑の出身というより、都市の言葉と空気をそのまま持ち込んだような存在だ。

このアルバムの背景を押さえると、ZE Recordsというレーベルの性格も見えてくる。1978年にMichael ZilkhaとMichel Estebanが始めたZEは、ディスコ、エレクトロ、ノーウェイヴの境界をまたぐような、当時のニューヨークらしい混成感を持ったレーベルだった。James White、Material/Bill Laswell、Suicide、Was (Not Was)、August Darnell/Kid Creoleらが関わる環境の中で、Cristinaもまた独自の立ち位置を得ている。商業的な大ヒットを狙うというより、都市の感覚や皮肉、遊び心を音に落とし込む流れの中の作品だ。

「Disco Clone」から広がったアルバム

このアルバムの出発点として語られるのが、1978年のシングル「Disco Clone」だ。ディスコ流行への視線を含んだ曲としてカルト的な支持を集め、そこからフルアルバムへつながっていった。Cristinaの音楽は、単純なパロディとして片づけられないところに特徴がある。乾いた語り口のボーカルが、ダンス・ビートやラテンの要素、映画のワンシーンを切り取ったようなイメージと並ぶことで、曲の輪郭がはっきりしていく。

制作面ではKid CreoleことAugust Darnellの存在が大きい。ZE周辺の文脈を知っていると、ここで鳴っているリズムや編曲の感触が、後のKid Creole and the Coconuts周辺の作品とも地続きに感じられる。ディスコの華やかさを借りながら、どこか距離を置いた歌い方を重ねる構図は、この時代のダウンタウン・ニューヨークらしい手つきだ。

サウンドの印象

実際に聴くと、まず耳に残るのはCristinaの声の置き方だ。歌い上げるというより、言葉を前に出していくタイプで、リズムに対して少し斜めに乗る。そのため、ディスコ由来の四つ打ちやダンサブルな推進力があっても、全体はただ踊るための音楽にはなりにくい。むしろ、踊る場の空気を観察しているような距離感がある。

編成はシンプルに聴こえる場面でも、ベースやパーカッションの動きが細かく、音の隙間が多い。そこにボーカルが入ることで、曲の意味が変わっていく。派手な音色で押すのではなく、言葉、間、反復で持たせる作り。ZEの同時代作、たとえばJames White & the Blacksのようなノーウェイヴ寄りのディスコ感や、August Darnell周辺の都会的なラテン感覚と比べても、Cristina盤はより“話す”ことに寄ったアルバムとして際立っている。

作品の位置づけとエピソード

Cristinaにとってこの作品は、短い録音活動の中で最も重要な出発点にあたる。彼女はこの後、2作目のリリース後まもなく歌手活動から離れていくため、アルバム単位で残した印象は限られているが、そのぶん本作は彼女の個性を凝縮した記録として読める。知的な視点を持つ書き手が、ディスコという当時の大衆的フォーマットに乗って、自分の言葉と視線を差し込んだ作品、と言えそうだ。

収録曲の中でも特に知られるのは「Disco Clone」で、彼女の名を広めた代表曲として扱われることが多い。また、「Is That All There Is?」の彼女版は、新しい歌詞の踏み込みが強かったために差し止めの対象になったというエピソードもある。アルバム全体に、洒落たダンス・ミュージックの外側で、虚無感や退屈、欲望をずらして見せる感覚が通っているのは、この出来事ともつながっている。

オリジナル盤について

今回のUK盤は、Island経由で流通したZE作品らしく、EMIによる製造・流通表記がある。インナーにはクレジットが印刷されており、A1〜A3とB2〜B3、B1で出版社表記が分かれているのも当時の盤らしい情報だ。ラベルには細かなバリエーションも存在するが、作品そのものの性格は変わらない。オリジナルの1980年盤として見ると、ZE初期の空気をそのまま封じ込めた一枚として位置づけられる。

ディスコの形式を借りながら、語り口と視線で別の場所へずらす。Cristina『Cristina』は、そのやり方がはっきり残ったアルバムだ。派手な成功作というより、ZE Recordsの文脈、80年前後のニューヨーク、そしてCristina本人の書き手としての感覚が重なった記録として読むと、輪郭が見えやすい。

トラックリスト

  1. A1 Jungle Love 5:33
  2. A2 Don't Be Greedy 6:22
  3. A3 Mama Mia 4:05
  4. B1 La Poupée Qui Fait Non 7:38
  5. B2 Temporarily Yours 5:55
  6. B3 Blame It On Disco 6:50

動画

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