Esther Phillips - From A Whisper To A Scream (1972)
Esther Phillips 1972

Esther Phillips - From A Whisper To A Scream (1972)

Jazz Blues Funk / Soul Soul

Esther Phillips『From A Whisper To A Scream』について

エスター・フィリップスが1972年に発表した『From A Whisper To A Scream』は、クリード・テイラー率いるKuduレーベルでの第1作として知られるアルバムだ。KuduはCTI傘下のレーベルで、よりR&B寄り、ソウル寄りの作品を前面に出す場として機能していた。その中で本作は、ジャズの編成感とソウル歌手としての表現力がきれいに噛み合った一枚として位置づけられている。

エスター・フィリップス自身は、1950年代に“Little Esther”として頭角を現し、その後いったんキャリアを中断しながら、60年代に“Esther Phillips”として復帰した人物だ。70年代に入ると、単なる懐メロの再演ではなく、当時のソウル/ジャズの第一線に立つシンガーとして再評価が進む。本作は、その流れを強く印象づけた作品でもある。

制作陣と音の輪郭

プロデュースはクリード・テイラー、録音とエンジニアリングはルディ・ヴァン・ゲルダー。場所はニュージャージー州イングルウッド・クリフスのヴァン・ゲルダー・スタジオで、CTI関連作品らしい、輪郭のはっきりした録音が土台になっている。1971年12月のセッションでは、ピー・ウィー・エリスが編曲と指揮を担当し、数曲ではドン・セベスキーがストリングスを担当している。

演奏陣も強い。ゴードン・エドワーズのベース、バーナード・パーディのドラムス、アイアートのパーカッション、コーネル・デュプリーとエリック・ゲイルのギター、リチャード・ティーのキーボード、ハンク・クロフォードとデイヴ・リーブマンのサックスなど、ニューヨークのスタジオ・シーンを代表する面々が並ぶ。のちにStuffへつながる名前も含まれていて、70年代初頭の都会的なソウル/ジャズの空気がそのまま封じ込められている。

音の印象は、バンドの推進力が強く、そこにフィリップスの声が前へ出る構図。大きく盛り上げるというより、ビートの上で言葉を置いていくような歌い方が目立つ。ホーンやストリングスが厚みを作る一方で、リズム隊はきっちり前へ進むため、歌と伴奏の距離感が近い。ソウル盤としての身体性と、CTI系作品らしい整えられた音像が同居している。

収録曲と聴きどころ

冒頭の「Home Is Where The Hatred Is」は、ギル・スコット・ヘロンの曲。薬物依存を題材にした内容で、フィリップス自身の過去とも重なるため、歌の重みが増している。ここでの歌唱は、感情を大きく振り回すのではなく、言葉のひとつひとつに体温を乗せるタイプで、曲の主題がそのまま伝わってくる。

表題曲「From A Whisper To A Scream」は、アラン・トゥーサン作。ニューオーリンズ由来のリズム感を持ちながら、ここではKuduらしい洗練されたアレンジの中に置かれている。原曲の持つ粘りを残しつつ、フィリップスの声で都会的なソウルへ引き寄せた仕上がりだ。

「Baby, I’m For Real」は、マーヴィン・ゲイ周辺のソウル・ファンにはなじみのある楽曲で、オリジナルズのヒット曲としても知られる。こうしたカバー群の中でも、フィリップスは曲の輪郭を大きく変えずに、自分の声の置き方で印象を変えている。派手な技巧より、語尾の処理やフレーズの間合いで聴かせる場面が多い。

収録曲の作家クレジットを見ても、アラン・トゥーサン、マーヴィン・ゲイ、ジョベット周辺、タージェリン・ミュージックなど、ソウルの主要な作家・出版社が並ぶ。曲ごとの出自はばらばらでも、アルバムとしては統一感がある。そこにフィリップスの声が通されることで、カバー集以上のまとまりが出ている。

作品の位置づけ

このアルバムは、エスター・フィリップスが“Little Esther”時代のR&Bシンガーから、70年代のソウル/ジャズ・ヴォーカリストへと完全に接続した作品として語られることが多い。特に「Home Is Where The Hatred Is」での歌唱は評価が高く、第15回グラミー賞の最優秀女性R&Bボーカル・パフォーマンス部門にノミネートされた。受賞はアレサ・フランクリンだったが、アレサがそのトロフィーをフィリップスに手渡したというエピソードも残っている。

同時代の文脈で見ると、CTI周辺の作品群、あるいはソウルとジャズの接点に立つ女性シンガーの作品群の中で、本作はかなりはっきりした輪郭を持つ。ジャズ側の洗練、ソウル側の熱、ブルース由来の歌の重さが同じ一枚に収まっていて、フィリップスの経歴そのものが音に反映されている。

US盤のオリジナルはCapitol Recordsのジャクソンビル工場でプレスされており、Kuduの初期タイトルとしても重要な存在だ。CTIの流れをくむレーベルの中で、より歌ものの魅力を前面に出した一枚として、今もよく参照されるアルバムである。

トラックリスト

  1. A1 Home Is Where The Hatred Is 3:25
  2. A2 From A Whisper To A Scream 4:15
  3. A3 To Lay Down Beside You 5:00
  4. A4 That's All Right With Me 3:20
  5. A5 'Til My Back Ain't Got No Bone 3:15
  6. B1 Sweet Touch Of Love 3:15
  7. B2 Baby, I'm For Real 4:20
  8. B3 Your Love Is So Doggone Good 3:55
  9. B4 Scarred Knees 6:15

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
Share
戻る

あわせて聴きたい "Soul"

toast