Dexter Wansel - Time Is Slipping Away (1979)
Dexter Wansel『Time Is Slipping Away』
デクスター・ワンセルが1979年にフィラデルフィア・インターナショナル・レコーズから発表した4作目のソロ作であり、P.I.R.での最後のソロ・アルバムでもある。録音はフィラデルフィアのSigma Sound StudiosとニューヨークのSigma Sound Studiosで行われ、仕上げはフランクフォード/ウェイン・レコーディング・ラボズで施された。オリジナルの黒白インナー・スリーブにはクレジットと歌詞が収められ、盤面のランアウトはエッチング仕様。CBS配給下のP.I.R.らしい体裁で、1979年のクレジットが明記されている。
制作背景・エピソード
本作は、ワンセルの長年の共作相手であるシンシア・ビッグスとの関係を軸に組み立てられている。収録曲の多くが二人の共作で、作品全体の中核を担う。さらに、このアルバムはワンセルの当時の妻ローナ・ワンセルに捧げられている。ジャケット内のメッセージには「If love is measured in time, Years from now You will still be mine.」と記され、私的な献辞の要素がはっきり残る。P.I.R.の制作環境、シグマ・サウンド、フランクフォード/ウェインという組み合わせも含め、1979年時点のフィリー・ソウル制作の現場がそのまま刻まれた一枚になっている。
ワンセルはP.I.R.の看板プロデューサー/キーボード奏者/アレンジャーとして知られ、この時期にはシンセサイザーの導入でも先行していた。本作でも、フィリー・ソウルの編成と電子楽器の使い方を両立させた制作が確認できる。参加者の細部まではここでは追えないが、少なくともワンセルとビッグスの共作関係、そしてP.I.R.の制作拠点が作品の骨格を作っている。
時代の文脈
1970年代末はディスコの熱気が強まり、同時にシンセサイザー主体のサウンドへと比重が移っていく時期だった。ワンセルはP.I.R.のなかで早くからARPシンセサイザーなどの電子楽器を本格的に扱ってきた人物で、本作でもその流れが継続している。フィリー・ソウルのストリングスやブラスの感触と、スペーシーなシンセサイザー・ワークが同居する構成は、P.I.R.がCBS配給下で展開していた黄金期から、アーバン・コンテンポラリー寄りの局面へと向かう時期の作品として位置づけられている。
アルバムの中でも「The Sweetest Pain」は重要な楽曲として扱われている。テリー・ウェルズをリード・ヴォーカルに迎えたこの曲は、1980年代後半のロンドンで起きたレアグルーヴ/アシッド・ジャズの再評価の流れのなかで広く知られるようになり、1989年にはルーズ・エンズがカヴァーしてヒットさせた。こうした後年の展開を見ると、この曲が作品の中心に置かれてきたことがわかる。
後世への影響
「The Sweetest Pain」は、その後も長く参照されてきた。ルーズ・エンズのカヴァーに加え、ヒップホップやR&Bのプロデューサーたちにも愛され、サンプリング・ソースとして使われてきた実績がある。ワンセル自身の代表曲「Theme From The Planets」がサンプリング史で語られることと重ねても、本作の収録曲が後年の制作現場に引き継がれていったことは明らかだ。
収録曲ではほかに、ディスコ・ダンサーとして挙げられる「I'll Never Forget (My Favorite Disco)」、スラップ・ベースとシンセが前に出る「Funk Attack」、ミディアム・テンポの「It's Been Cool」などが並ぶ。米ビルボードのR&Bアルバム・チャートに入った作品でもあり、単発の人気曲だけでなく、アルバム全体がP.I.R.末期のワンセル作品として記録されている。
トラックリスト
- A1 I'll Never Forget (My Favorite Disco) 4:31
- A2 The Sweetest Pain 5:42
- A3 Funk Attack 3:58
- A4 Time Is Slipping Away 3:14
- B1 It's Been Cool 5:00
- B2 Let Me Rock You 4:32
- B3 New Beginning 4:37
- B4 One For The Road 4:39
動画プレイリスト
このアーティストについて
Dexter Wansel(デクスター・ワンセル、1950年生まれ)は、アメリカ・ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のキーボーディスト、シンセサイザー奏者...
Dexter Wansel のプロフィール・作品一覧