Genesis - Foxtrot (1972)
Genesis『Foxtrot』――1972年UKオリジナル盤で聴く、バンドの転機
Genesisの『Foxtrot』は、1972年にUKのCharismaから出た4作目のスタジオ・アルバムで、ピーター・ガブリエル、トニー・バンクス、マイク・ラザフォード、スティーヴ・ハケット、フィル・コリンズという編成での2作目にあたる作品だ。前作までで見せていた複雑な構成や演劇的な要素をさらに押し進めつつ、この時期のGenesisらしい長編志向がきっちり形になった1枚でもある。プログレッシブ・ロックの文脈では、70年代前半の英国勢の中でも存在感の大きいアルバムとして扱われてきた。
このUKオリジナル盤は、CharismaのLarge Mad Hatterラベル、外側がテクスチャー仕様で内側がスムースなゲートフォールド・スリーブ、赤い背文字という仕様。ラベルは「Manufactured And Distributed By B&C Records Ltd.」表記で、初期プレスらしい条件がそろっている。ランオフにはA-1U/B-1Uの刻印があり、初回感の強い盤として流通していたものだ。ジャケットの裏面には「P. Whitehead 72」のサインが入り、ポール・ホワイトヘッドの最後のGenesis作品としても知られる。
アルバムの位置づけ
『Foxtrot』は、Genesisが単なる実験的なバンドから、長編組曲を自分たちの主戦場にしていく過程をはっきり示した作品だ。ここでは、メロトロンの使い方、曲の場面転換、静と動の切り替えがかなり明確で、後のバンド像につながる設計が見える。特にフィル・コリンズ加入後の初期らしく、リズム面の推進力が増しているのも印象的だ。まだポップ寄りに振れる前のGenesisで、緻密さと劇性がそのまま前面に出ている。
制作面では順調に進んだわけではなく、当初のプロデューサーだったボブ・ポッターはバンドと合わず、最終的にはデヴィッド・ヒッチコックが完成まで持っていった。こうした経緯はアルバムのまとまり方にも反映されていて、細部の緊張感が残る一方で、全体はしっかり組み上がっている。クレジット上はヒッチコックが中心だが、Steve Hackettの証言では「Horizons」や「Supper's Ready」の一部にポッターの関与があったとされる。
収録曲の核と聴きどころ
冒頭の「Watcher of the Skies」は、この作品を象徴する1曲。メロトロンのイントロがまず耳に残り、そこから曲が一気に展開していく。歌詞はアーサー・C・クラーク『幼年期の終り』の影響が指摘されていて、SF的な視点と終末感が早い段階で提示される。「Time Table」は比較的コンパクトだが、アルバム全体の中では異なる温度を持ち、組曲の前に置かれることで曲順の流れを整えている。
そしてB面の大半を占める「Supper's Ready」がやはり中心だ。7つのパートからなる約23分の組曲で、静かな場面から急激にテンポを変える箇所、宗教的・幻想的なイメージの連なり、終盤の展開まで、1曲の中でかなり多くの要素が動く。実際に聴くと、単に長いだけではなく、各セクションの切り替えが明確で、演奏の緊張感が途切れにくい。Genesisの代表曲として扱われるのも納得の構成だ。
「Get ’Em Out by Friday」では、物語性の強い書き方が前に出る。ガブリエルの語り口がはっきりしていて、後のステージ演出ともつながる感触がある。終盤の「Can-Utility and the Coastliners」まで含めると、単なる長尺曲のアルバムではなく、短い曲と大曲を並べてアルバムの呼吸を作っているのが分かる。
ジャケットと当時の反応
ジャケットの印象も強い。狐狩りと終末的な場面を重ねたポール・ホワイトヘッドの絵は、この時期のGenesisが持っていた舞台的な感覚をそのまま視覚化したものだ。1972年9月28日のダブリン公演でガブリエルが狐の頭をかぶり、赤いドレス姿で登場したエピソードも有名で、このイメージがアルバムの注目度を押し上げた。音だけでなく、見せ方まで含めて作品になっている。
発売当時の評価は一様ではなかったが、のちにはGenesisの重要作として定着した。全英チャートではバンド初のトップ20入りを記録し、イタリアでもチャート入りしている。70年代前半の英国プログレの中でも、YesやKing Crimson、Jethro Tullと並べて語られやすい位置にあり、長編構成と演劇性の両方を強く持ったアルバムとして見られてきた。
このUKオリジナル盤の意味
1972年のUK初版は、Charismaの初期らしい質感がはっきり出る盤だ。赤いCharismaの広告インナーが付く個体もあり、初回プレスらしい雰囲気がある。ラベルの「Quartet/Genesis」表記やB&C関連のクレジットも、この時代の流通事情をそのまま映している。音楽そのものだけでなく、盤としての時代感まで含めて楽しめるのが、このオリジナルUK盤の面白さだ。
『Foxtrot』は、Genesisがその後さらに大きくなる前段階で、すでに独自の完成度に達していた作品として残る。メロトロン、長編組曲、物語性、劇場的な見せ方。そうした要素がこの1枚でかなり明確に揃っている。
トラックリスト
- A1 Watcher Of The Skies
- A2 Time Table
- A3 Get 'Em Out By Friday
- A4 Can-Utility And The Coastliners
- B1 Horizons
- Supper's Ready