Kikuchi Momoko - Adventure = アドベンチャー (1986)
Momoko Kikuchi 1986

Kikuchi Momoko - Adventure = アドベンチャー (1986)

Electronic Pop Funk / Soul Boogie Funk Synth-pop Kayōkyoku City Pop

菊池桃子『Adventure』——1980年代アイドル・ポップの枠を越えた1986年作

菊池桃子の『Adventure』は、1986年6月25日にバップから発表された3枚目のオリジナル・アルバム。アイドル歌手としての人気を背景にしながら、サウンド面ではかなり明確に都会的な方向へ寄せた一枚で、後年のシティ・ポップ再評価の流れの中でもよく名前が挙がる作品だ。全10曲、約42分という構成で、当時の歌謡曲やアイドル・ポップの文脈にありつつ、演奏やアレンジの作り込みで一段階広い聴こえ方を持っている。

林哲司が全曲を手がけた統一感

本作の核は、全曲の作曲と編曲を林哲司が担当している点にある。菊池桃子の1980年代のソロ作品はすべて林哲司が作曲しており、『Adventure』でもその関係性がはっきり出ている。林哲司は松原みき「真夜中のドア〜Stay With Me」や杉山清貴&オメガトライブの仕事で知られる作曲家で、AOR、ブギー、シンセ・ポップを取り込んだ整った都市型サウンドに強みがある。このアルバムも、その持ち味が前面に出た作り。

菊池桃子の歌声は、当時のアイドルらしい親しみやすさを保ちながら、過度に前へ出すぎない。そのため、音数の多いアレンジやリズムの細かい動きがあっても、曲全体の輪郭が崩れない。歌が主張しすぎず、トラックの中に自然に置かれている感じがある。そこがこの時期の菊池桃子作品の特徴でもある。

代表曲「もう逢えないかもしれない」とアルバム全体の流れ

収録曲の中では、まず「もう逢えないかもしれない」が重要だ。オリコン・シングル・チャートで1位を獲得したヒット曲で、アルバムの顔としての役割も大きい。ここではメロディの分かりやすさと、林哲司らしい洗練されたコード感が両立している。アイドル曲としての親しみやすさがありながら、伴奏の側には当時の洋楽ポップスに近い質感が見える。

ほかにも、ダンサブルな「Night Cruising」、タイトルの印象どおり少し幻想的な「Mystical Composer」、インストゥルメンタルの「Overture」など、曲ごとの役割分担がはっきりしている。特定のヒット曲だけを軸にするのではなく、アルバム全体で流れを作る構成。A面からB面へ進むにつれて、歌ものとインスト、軽いグルーヴ感と抒情性が交互に置かれていく。

「雨のRealize」と誤記のエピソード

B面1曲目の「雨のRealize」は、林哲司の作曲・編曲による楽曲だが、初回盤のレーベル面では作曲・編曲者名が「林啓司」と誤記されていた。これに対して、お詫びのカードが封入されたという記録が残っている。こうした細部は、当時の制作現場の慌ただしさや、初回盤ならではのエピソードとして残っている。

また、今回の盤には帯、折り込み歌詞カード、アンケートはがき、そして誤記へのお詫びを記したはがきサイズの印刷物が付属していた。日本盤らしい丁寧なパッケージで、作品そのものだけでなく、発売当時の流通や制作の空気も一緒に伝えてくる。

1980年代アイドル歌謡とシティ・ポップの交差点

『Adventure』が面白いのは、アイドル・ポップの形式に収まりながら、音の作りがかなり都市的なところにある。ベースやドラムの立ち方、シンセの使い方、コード進行の運びに、当時のAORやブギーの影響が見える。こうした感触は、同時代のシティ・ポップや、杉山清貴&オメガトライブ周辺の洗練されたサウンドと地続きにある。

一方で、菊池桃子の作品は、バンド色やシンガーソングライター色を前面に出すタイプではない。その代わり、歌とアレンジのバランスがよく整えられていて、アイドル作品としての軽やかさと、スタジオ・プロダクションとしての完成度が同居している。そこが本作の位置づけを分かりやすくしている。

再評価の流れの中で

近年は『Adventure』がシティ・ポップの代表的な一枚として国内外で再評価されている。海外では米ブルックリンのレーベルShip to Shore PhonoCo.から、オリジナル・マスター・テープによるリマスター音源のアナログ盤が再発されたこともあり、当時のアイドル・アルバムという枠を越えて聴かれる機会が増えている。

1986年という年を考えると、この作品は菊池桃子のソロ活動の中でも、サウンド面の方向性がはっきり見える一枚だ。ヒット曲を含みつつ、アルバム全体が同じ制作陣の手で統一されているため、曲単位でも通しでも聴きどころがある。林哲司の仕事を軸に、菊池桃子の声が1980年代後半の都市的なポップスの中でどんな位置に置かれていたかが、よく見える作品。

トラックリスト

  1. A1 Overture 2:24
  2. A2 Adventure 4:41
  3. A3 もう逢えないかもしれない 4:15
  4. A4 波になりたい 4:04
  5. A5 Night Cruising 4:58
  6. B1 雨のRealize 4:12
  7. B2 赤い稲妻 4:03
  8. B3 Good Friend 4:12
  9. B4 Mystical Composer 5:04
  10. B5 Tomorrow 4:19

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
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