Peter Gabriel - Peter Gabriel (1982)
Peter Gabriel『Peter Gabriel』(1982)
ピーター・ガブリエルのソロ4作目にあたる1982年作。英国盤では前3作と同じく固有のタイトルを付けずに『Peter Gabriel』として出されたが(通称『IV』)、北米盤では同名連作を避けるため『Security』の題が付いた。録音はサマセット州のアシュコム・ハウスにモバイル・ワン(移動録音車)を持ち込んで行われ、ミックスはバースのクレセント・スタジオでデヴィッド・ロードとガブリエルの共同で進められた。ソニーPCM-1610システムを用いた、ロック界初期の完全デジタル録音・ミックス作品のひとつとしても知られている。
制作背景・エピソード
本作では、当時実用化されたばかりの最初期のデジタル・サンプラー「フェアライトCMI」が本格的に使われた。ガブリエルは工場のプリセット音を消去し、廃品置き場でテレビを壊した音や、雨樋を吹き抜ける風の音などをフィールド録音して独自のサンプリング音源を構築した。前作『III』に続いてシンバルの使用を禁じ、ドラムマシン(Linn LM-1)、生ドラム、アフリカン・パーカッションを緻密に組み合わせた打楽器中心の音作りも特徴的だ。冒頭曲「The Rhythm of the Heat」は、精神科医カール・ユングがアフリカで先住民族の儀式に遭遇した体験に着想を得ており、ガーナ系打楽器集団エコマ・ダンス・カンパニー(Ekome Dance Company)の力強い太鼓が導入されている。
演奏面では、トニー・レヴィンのチャップマン・スティックやベース、ジェリー・マロッタの強靭なドラミング、ラリー・ファストのシンセサイザー、デヴィッド・ローズの空間的なギターがアンサンブルの中核を担った。また、A4「The Family and the Fishing Net」で不穏な響きを添えるエチオピア・パイプ(一部資料ではモリス・パートの演奏とされる)など、土着的な楽器の質感も随所に散りばめられている。
時代の文脈
1982年7月、ガブリエルは世界の伝統音楽と現代ポップを融合させるフェスティバル「WOMAD(World of Music, Arts and Dance)」を立ち上げた。本作は、その思想と制作上の関心が重なる位置にある。西洋のロック/ポップの枠に、非西洋圏のリズムや民俗的な儀礼の要素を同じ地平で統合しようとする試みが、曲作りと音作りの両方で推し進められた。
歌詞の主題も深層心理や社会的な文脈へと広がっている。「San Jacinto」はアパッチ族の青年儀礼と伝統の喪失を扱い、「Wallflower」はアムネスティ・インターナショナルに触発され、中南米の政治犯に捧げられた。なお、WOMADの初回開催によってガブリエルは巨額の負債を抱え、急遽ジェネシスの元メンバーと一夜限りの再結成コンサートを行って窮地を切り抜けたという逸話も、当時の活動の密接な結びつきを物語っている。
後世への影響
本作でのデジタル・サンプリング技術とワールド・ミュージックの実験的融合は、のちの1980年代ポップスやオルタナティブ・ロックの音響設計に決定的な影響を与えた。とくに、ここでの音響実験と強靭なグルーヴの探求が、1986年の世界的メガヒット『So』へとつながる布石となった。
シングル「Shock the Monkey」は印象的なミュージック・ビデオとともに広く支持され、全米メインストリーム・ロック・チャートで1位(Billboard Hot 100で29位)を獲得し、アメリカ市場でのブレイクスルーを果たした。また、ライブで「Lay Your Hands on Me」を歌う際にガブリエルが観客席へ背中から飛び込むパフォーマンスは、アート・ロックにおけるクラウド・サーフィンの草分けとしても語り継がれている。
評価・チャート
全英アルバムチャートで6位、全米Billboard 200で28位を記録し、アメリカでは自身初のゴールドディスク認定を受けた。UK盤のCharismaレーベルはカタログ番号PG 4、1982年仕様のブルー・ラベルでプレスされている。最先端のテクノロジーと民族音楽の生々しいエネルギーを高次元で結実させた、80年代アート・ロックの金字塔である。
トラックリスト
- A1 The Rhythm Of The Heat 5:10
- A2 San Jacinto 6:20
- A3 I Have The Touch 4:32
- A4 The Family And The Fishing Net 7:00
- B1 Shock The Monkey 5:23
- B2 Lay Your Hands On Me 6:02
- B3 Wallflower 6:30
- B4 Kiss Of Life 4:15
動画プレイリスト
このアーティストについて
Peter Gabrielは、ロックを軸に、ファンク、ソウル、フォーク、ワールド・ミュージックの要素も取り込んできたアーティストだ。ポップ・ロックやアー...
Peter Gabriel のプロフィール・作品一覧Peter Gabriel の他のレビュー