Stevie Wonder - In Square Circle (1985)
Stevie Wonder 1985

Stevie Wonder - In Square Circle (1985)

Electronic Funk / Soul Synth-pop

Stevie Wonder『In Square Circle』(1985)

スティーヴィー・ワンダーの『In Square Circle』は、1985年にTamlaから発表された20作目のスタジオ・アルバム。70年代の充実した作品群を経て、80年代のデジタル録音時代へ本格的に踏み込んだ一枚で、当時のR&Bやポップの空気を強く反映しながら、スティーヴィーらしい作曲力とメロディの強さを保っている。録音とミックスはロサンゼルスのWonderland Studiosで行われ、ゲートフォールド仕様に歌詞インサート付きで出たUS盤。

80年代らしい制作感と、スティーヴィーの芯

このアルバムでまず目立つのは、音の輪郭のはっきりしたデジタル録音の質感。シンセサイザー、打ち込み、エレクトリックなベースラインが前に出ていて、70年代の生演奏中心の作品群とは手触りが違う。とはいえ、機械的な冷たさだけに寄らず、旋律の運びやコーラスの置き方にはスティーヴィーらしい人間味が残っている。80年代のモータウン作品の中でも、ポップとソウルを両方の軸でまとめた作りが印象に残る。

同時代の文脈で見ると、プリンスやジャネット・ジャクソン、シャーデー周辺の洗練されたR&B/ポップとも並べて語られることが多い時期の作品だが、スティーヴィーの場合は、リズムの新しさだけでなく、コード進行やメロディの組み立てに独自の重みがある。80年代に入っても、単なる時流追随ではなく、自分の作曲家としての核を更新している内容。

代表曲「Part-Time Lover」の存在感

本作を語るうえで外せないのが「Part-Time Lover」。この曲は米ビルボードのHot 100、R&B、Adult Contemporary、Danceの各チャートで同時に1位を記録し、ビルボード史上初の快挙となった。軽やかなテンポと、口ずさみやすいフックの強さが前面に出た曲で、アルバム全体の中でも特にポップ寄りの完成度が高い。バックボーカルにはルーサー・ヴァンドロス、フィリップ・ベイリー、シリータ・ライトらが参加しており、声の重なりが曲の推進力になっている。

この曲は、派手な演奏で押し切るタイプではなく、音数を絞った設計の中でフレーズを積み上げていく。聴き進めるほど、リズムの組み方とコーラスの配置が細かく作られているのがわかる。シングルとしての強さが非常に明確な一曲。

「Overjoyed」と、音響の工夫

バラードの「Overjoyed」も重要な収録曲。1979年から温められていた曲とされ、アルバムでは静かな熱量を持つ中心曲として置かれている。環境音やサンプルの使い方も話題になった作品で、水滴や鳥のさえずりのような音をリズムの一部として取り込む発想が、この時期のスティーヴィーの制作姿勢をよく示している。電子楽器の導入が単なる装飾ではなく、曲の構造そのものに関わっている点が見どころ。

実際に聴くと、音の隙間がきちんと残されていて、ボーカルが前に出やすい。派手なアレンジよりも、フレーズの余韻を聞かせる作りで、アルバム中でも温度の違いがはっきりしている。

社会的メッセージも含む1985年の記録

「Go Home」は全米10位を記録したヒット曲で、ダンサブルなビートと明快なメロディが前に出る。一方で「It’s Wrong (Apartheid)」では、南アフリカの亡命ミュージシャンたちを迎え、アパルトヘイトへの抗議を打ち出している。スティーヴィーがポップスターとしての成功だけでなく、社会的な視点を持つアーティストでもあったことが、ここでもはっきり表れている。

80年代半ばの作品としては、華やかなシングル性とメッセージ性が同居しているのがこのアルバムの特徴。ヒット曲だけでなく、曲ごとの役割が明確で、アルバム全体が1985年という時代のR&Bの広がりを映している。

作品の位置づけ

『In Square Circle』は、スティーヴィー・ワンダーのキャリアの中で、70年代の名作群とは別の形で完成度を示した80年代の代表作のひとつ。アナログなバンド感よりも、デジタル録音とシンセ中心の設計に寄せながら、メロディメーカーとしての強さを落としていない。グラミー賞では最優秀男性R&Bボーカル・パフォーマンス賞を受賞し、アルバムとしての評価も高い。

USオリジナル盤は1985年のTamlaリリースで、ゲートフォールド・スリーヴと歌詞インサート付き。80年代モータウンの空気、デジタル化の初期衝動、そしてスティーヴィーの作家性が、そのまま一枚に収まった内容になっている。

トラックリスト

  1. A1 Part-Time Lover 4:09
  2. A2 I Love You Too Much 5:30
  3. A3 Whereabouts 4:17
  4. A4 Stranger On The Shore Of Love 5:01
  5. A5 Never In Your Sun 4:07
  6. B1 Spiritual Walkers 5:12
  7. B2 Land Of La La 5:14
  8. B3 Go Home 5:18
  9. B4 Overjoyed 3:42
  10. B5 It's Wrong (Apartheid) 3:29

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
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