Until December - Until December (1986)
Until December『Until December』― 1980年代サンフランシスコのダンス・ロックを切り取った唯一のフルアルバム
Until Decemberの『Until December』は、1986年にカナダ盤としてColumbiaからリリースされた、同名バンド唯一のフルアルバムである。サンフランシスコを拠点に活動した彼らは、1980年代前半から後半にかけての西海岸ロックとニューウェイヴの流れの中で現れたバンドで、特にレザー・サブカルチャーとの結びつきでも知られていた。作品全体は、ポップ・ロックの推進力とシンセ・ポップ由来のリズム感を土台にしながら、当時のダンス・ロックの文脈に置ける内容になっている。
作品の立ち位置
このアルバムは、バンドにとって初の長編作品であり、同時に最後のフルアルバムでもある。ウェブ上で確認できる資料では、415 Records/CBSから出た1986年作として扱われており、レーベル内でもやや異色の存在として見られていたようだ。415 Records周辺といえば、同時代のサンフランシスコ勢の中でもロミオ・ヴォイドのようなニューウェイヴ/ダンス寄りのバンドが思い浮かぶが、Until Decemberはそこにさらに硬質なギターの前面化を持ち込んだグループとして位置づけられている。
実際、紹介文でも「シンセではなく轟くエレキギターを前面に出した」とされており、電子的なビート感を持ちながらも、音像の中心はバンド演奏にある。デペッシュ・モードを思わせるという比較も見られるが、単純な模倣ではなく、ダンス・クラブ向けの推進力とロック・バンドとしての押し出しを同居させた作品として理解しやすい。
サウンドと曲の印象
このアルバムで目立つのは、リズムの立ち上がりが速く、曲の輪郭がはっきりしている点だ。ギターはリフを刻むだけでなく、曲の前面で鳴り続ける場面が多く、ドラムとベースの推進力を支える役割も強い。シンセ・ポップの名前が挙がる作品ではあるが、いわゆるキーボード主体の質感よりも、ライブ感のあるバンド・サウンドとして聴こえる。
中でもシングル「Heaven」は、当時のラジオで一定の反応を得た代表曲として知られる。1986年11月末の業界資料では、WXXP、WFNX、WHFS、WLIRなど複数局で回っていたことが確認でき、ポップ・チャートの大ヒットではないものの、オルタナティヴ寄りの放送網で支持を広げた曲だったことが分かる。アルバム全体の中でも、この曲がバンドの方向性を最も分かりやすく示している。
当時のパフォーマンス性
Until Decemberは音だけでなく、見せ方でも注目されたバンドだった。1986年11月の報道では、メンバーのアダム・シャーバーンがライブを「live sex」と表現したと伝えられており、露出度の高い衣装や過激なステージ演出が話題になっていた。レーベル側が宣材写真を上半身だけに切り詰めるよう求めた、というエピソードも残っている。つまり、このバンドはレコード作品とステージ・イメージの両方で記憶された存在だったわけだ。
その意味では、『Until December』は単なるスタジオ録音の記録ではなく、1980年代半ばのクラブ文化、ゲイ・ディスコ・シーン、ニューウェイヴ以後のダンス・ロックの空気をまとった資料的な意味合いも持つ。短命に終わったバンドではあるが、後年の回想では「時代を先取りしすぎた」と振り返られている。
カナダ盤としてのリリース
今回の盤は1986年のカナダ盤で、ColumbiaのFC 40438という番号が確認できる。ジャケットには©1986 CBS Inc.、℗1986 CBS Inc.の表記があり、スパインには「J 86 SPC Litho In Canada」と印字されている。インサート付きでの発行も明記されているので、当時の初期仕様をそのまま反映した盤と見てよさそうだ。オリジナルの1986年作としての性格がはっきりしたリリースである。
Columbiaという大手レーベルから出ているが、内容はメジャー級の王道ロックとは少し違う。サンフランシスコのローカル・シーン、クラブ志向、そしてギター主体のダンス・ロックという複数の要素が交差していて、1980年代中盤の空気がそのまま閉じ込められている印象がある。
まとめ
『Until December』は、Until Decemberというバンドの輪郭をそのまま刻んだ1枚であり、唯一のフルアルバムとしても重要な作品だ。ラジオで反応を得た「Heaven」を軸に、ギターを前に出したダンス・ロック、クラブ文化との接点、そして当時の強いビジュアル・イメージまで含めて、1986年らしさが濃い。サンフランシスコの415周辺の動きや、Depeche Mode以後のダークなダンス感に関心があると、このアルバムの位置は見えやすいはずだ。
トラックリスト
- A1 No Gift Refused 4:21
- A2 Heaven 4:21
- A3 Sequence Line 3:48
- A4 Mirrors 3:49
- A5 Call Me 3:34
- B1 Forgive And Still Forget 4:25
- B2 Free Again 4:48
- B3 Zodiac Drum Solo 1:15
- B4 Slave 4:54
- B5 Geisha 6:21