Strawbs - Deep Cuts (1976)
Strawbs『Deep Cuts』と1976年の転換点
Strawbsの『Deep Cuts』は、1976年に発表された10作目のスタジオ・アルバムだ。英国のフォーク・ロックを出発点にしながら、プログレッシブ・ロックの要素も強めてきたバンドが、この時期に改めて立ち位置を作り直そうとした記録になっている。中心人物はDave Cousins。そこにChas Cronk、Tony Fernandez、Dave Lambertらが加わり、バンドとしての輪郭を保ちながらも、前作までとは少し違う方向へ進んでいる。
Strawbsは1960年代の結成当初、ブルーグラス寄りの編成から始まり、その後フォーク、フォーク・ロック、プログレへと移っていったグループだ。Sandy DennyやRick Wakemanが在籍していたことでも知られ、70年代英国ロックの流れの中で、個人技とバンド・アンサンブルの両方を見せてきた。『Deep Cuts』は、その長い変遷の中で、商業的な再浮上を意識した時期の作品として置かれている。
制作の流れと作品の性格
このアルバムは、前作『Nomadness』の後に始まった制作が途中で組み直されたという経緯を持つ。Tom Allomを迎えて録音が始まり、その後に方向性を見直して仕上げられた。Dave CousinsはChas Cronkとの共作を増やし、曲作りをよりポップ/ロック寄りへ寄せていった。結果として、Strawbsらしい組曲的な大作というより、曲の輪郭がはっきりした楽曲が並ぶ構成になっている。
録音は1976年春から夏にかけて行われ、ミックスはThe Manorで仕上げられた。英国ロックの録音史でよく出てくるスタジオのひとつで、同時代の作品群と同じ空気を共有している。盤としてはUS盤がOysterレーベルから出ており、内袋は印刷仕様。レーベルOysterは1975年4月に立ち上がった比較的新しいレーベルで、この時期のリリースらしい動きも見える。
収録曲と聴きどころ
先行シングルの「I Only Want My Love To Grow In You」は、このアルバムを語るうえで外せない曲だ。放送面ではよくかかった一方で、チャート入りには届かなかった。メロディを前に出した作りで、Strawbsの中ではかなり分かりやすい部類に入る。バンドの持つ叙情性を残しつつ、当時のラジオ向けの感触を意識した作りになっている。
「Cut Like A Diamond」はライブで長く冒頭曲として使われた記録があり、ステージでの機能性が強い。スタジオ盤でも、曲の入り方と推進力にバンドの手応えが残る。「Alexander The Great」は、タイトルの通り歴史的イメージを使いながら、当時の音楽メディアや批評への応答として読める要素もある。Strawbsが単に過去の作風をなぞるのではなく、外からの視線を意識していたことがうかがえる。
全体を通して聴くと、前面に出るのはDave Cousinsの歌と、バンドとしての整った演奏だ。Rick Wakemanのような華やかなソロ期の鍵盤表現とは別の場所にあり、むしろ楽曲単位でのまとまりが重要になっている。プログレ文脈で語られることが多いバンドだが、この作品では組曲性よりも歌ものとしての明快さが前に出ている。
1976年のStrawbsの位置づけ
『Deep Cuts』は、Strawbsの代表作として真っ先に挙がるタイプのアルバムではない。ただ、バンドが長く続く中で、どの方向へ進むかを具体的に試した作品として見ると意味がある。1973年の「Part Of The Union」や「Lay Down」のようなヒットで知られる一方、1974年の『Hero And Heroine』はプログレ作品として評価が高く、その後の流れでこのアルバムが出てくる。成功の型を一度持ちながら、それをそのまま繰り返さない姿勢が見える。
同時代の英国ロックでいうと、フォークの根を残しながらロック色を強めたバンド群、たとえばFairport Convention周辺や、より広い意味でのプログレ勢と地続きの感触がある。ただし『Deep Cuts』は大仰な構成よりも、曲の切り口をはっきりさせた作りが目立つ。アルバムタイトルの通り、深く削り出した断面を見せるような手つきが印象に残る。
Strawbsの歴史の中では、再出発の試みが表に出た一枚。大ヒット盤ではないが、1976年のバンドが何を狙っていたかを追うには、かなり分かりやすい資料になっている。
トラックリスト
- A1 I Only Want My Love To Grow In You 2:59
- A2 Turn Me Round 2:43
- A3 Hard, Hard Winter 2:55
- A4 My Friend Peter 2:15
- A5 The Soldiers' Tale 4:15
- B1 Simple Visions 4:36
- B2 Charmer 3:13
- B3 (Wasting My Time) Thinking Of You 4:36
- B4 Beside The Rio Grande 2:28
- B5 So Close And Yet So Far Away 2:59