Television - Marquee Moon (1977)
Television『Marquee Moon』──NYパンクの外側で鳴った、1977年のデビュー作
Televisionの『Marquee Moon』は、1977年に登場したデビュー・アルバムで、ニューヨークのCBGB周辺から出てきたバンドの中でも、かなり独特な位置を占める作品だ。パンクの時代に出てきたバンドではあるが、ここで鳴っているのは単純な疾走感ではなく、Tom VerlaineとRichard Lloydの2本のギターが細かく絡み合う構成の音楽である。荒さよりも、フレーズの組み立てや間の取り方が前面に出ていて、同時代のパンク/ニュー・ウェイヴの中でも輪郭がはっきりしている。
制作背景と発売時の位置づけ
本作は1976年11月にニューヨークのA&R Recordingで録音され、プロデュースはTom Verlaineと、エンジニアとして知られるAndy Johnsが担当した。発売は1977年2月8日。Televisionにとって最初のアルバムであり、バンドの代表作として扱われることが多い。なお、バンドは1974年にBrian Enoのプロデュースで「Prove It」「Friction」「Venus」「Marquee Moon」のデモを録音していたが、Verlaineはその仕上がりを採用しなかったという経緯がある。
このアルバムの中心にあるのは、10分近いタイトル曲「Marquee Moon」だ。長尺だが、ただ長いだけではなく、導入から展開、ソロ、終盤への流れがはっきりしている。Billy Ficcaは一発録りだったと思っていたというエピソードも残っていて、演奏の緊張感がそのまま記録されている印象が強い。実際に聴くと、ギターが前へ出る場面でも音が飽和せず、フレーズの余白が残っているのが分かる。Richard Lloydがソロを譜面に起こして組み立てたという話にも、この作りの精密さが表れている。
サウンドの特徴
Televisionはしばしばパンクの文脈で語られるが、『Marquee Moon』ではパワー・コード中心の直進型とはかなり違う。VerlaineとLloydのギターは、互いに隙間を埋めるというより、別々の線として動きながら交差していく。ジャズ的と形容されることの多い演奏だが、実際には技巧の誇示よりも、同じリフやモチーフを少しずつずらしながら進める構造が印象に残る。
歌詞もまた、直接的なメッセージより、断片的なイメージや視点の切り替えが目立つ。タイトル曲、そして「See No Evil」「Friction」「Venus」など、曲ごとにテンションの置き方が違い、アルバム全体として単調さが出にくい作りになっている。耳に残るメロディと、硬質なリズム、細い線で組まれたギターが同居している点が、この作品の核だ。
UK盤の特徴とレーベル
今回のUK盤はElektraのK 52046で、1977年リリース。UK盤の初回は、バタフライ・デザインのレーベルと、ダイカット仕様のカード製歌詞インナー・スリーブが特徴になっている。ジャケット周辺では、Shorepak by Shorewood Packaging Co. Ltd, Englandの表記も確認できる。Elektraはこの時期、Warner Bros.との関係を深めた後の流通体制の中にあり、レーベル面でも1970年代らしい仕様が見える。
なお、オリジナルの米国盤には、プレス工場コードやランアウト刻印の違いでいくつかの初期プレス差がある。ラベル上で「for Maverick Productions Ltd.」の表記が省かれている初期コピーもあるとされる。こうした細かな違いは、当時の初期出荷盤を追う上でのポイントになっている。
評価、チャート、影響
発売当時、英国では全英アルバム・チャート28位を記録し、シングル「Marquee Moon」と「Prove It」もともに全英トップ30入りした。一方で米国では大きな商業的成功にはつながらず、評価はむしろ批評面から広がった。NMEのNick Kentによる高評価レビューは英国での受け止められ方に大きく作用したとされ、Robert Christgauは1977年の年間ベストで1位に挙げている。
その後の評価はさらに定着し、Rolling Stoneの「史上最高のアルバム500」では2020年版で107位、NMEの2003年版では4位、Pitchforkの1970年代ベストでも上位に置かれた。後年のポスト・パンク、ニュー・ウェイヴ、インディ・ロックへの影響も大きく、U2のThe Edge、R.E.M.のMichael Stipe、Joy DivisionのStephen Morris、Echo & the BunnymenのWill Sergeantらが影響を公言している。
総括
『Marquee Moon』は、Televisionのデビュー作でありながら、単なる初期衝動の記録では終わっていない。NYパンクの現場から出てきた作品でありつつ、演奏の組み立て、ギターの絡み方、曲の伸縮のさせ方に独自性がある。タイトル曲の長さがまず目を引くが、アルバム全体を通すと、むしろ各曲の密度の高さが残る。1977年という年の空気を持ちながら、その後のギター・バンドの基準をずらした作品として語られている。
トラックリスト
- A1 See No Evil 3:56
- A2 Venus 3:48
- A3 Friction 4:43
- A4 Marquee Moon 9:58
- B1 Elevation 5:08
- B2 Guiding Light 5:36
- B3 Prove It 5:04
- B4 Torn Curtain 7:00