The Big Dish - Swimmer (1986)
The Big Dish『Swimmer』
スコットランドのポップ・ロック・バンド、The Big Dishが1986年にVirginから発表したデビュー作が『Swimmer』。AirdrieでSteven Lindsayを中心に結成されたバンドで、この時点ではまだ新しい存在だったが、作品自体はかなり完成度の高い仕上がりになっている。英国盤はVirginのV 2374。ジャケット内袋には歌詞が印刷されたカード仕様のインナーが付いており、B面ラストはロックド・グルーヴで終わる構成。LPとしての作り込みにも、当時のVirginらしい丁寧さが出ている。
作品の輪郭
『Swimmer』は、派手な押し出しよりも、曲の輪郭や音の配置をじっくり聴かせるタイプのアルバム。ギターの質感、Steven Lindsayの歌声、メロディの運びが前に出ていて、インディー・ロック寄りの空気を持ちながらも、ポップ・バンドとしての整理された印象が強い。制作は曲ごとにIan Ritchie、Paul Hardiman、Glyn Johns、そしてバンド自身が分担しており、そのぶん音像には少し層がある。サックスやプログラミングも入り、単純なバンド・サウンドに収まっていない。
収録曲では「Prospect Street」「Christina’s World」「Slide」あたりが重要曲として扱われることが多い。「Christina’s World」と「Slide」は後にシングルとしても切られていて、このアルバムの中でも外に出やすいメロディを持った曲として機能している。曲名や歌詞にAndrew Wyethの絵画を思わせる要素が見えるのも、この作品の特徴のひとつ。Steven Lindsayが美術学校で培った感覚が、音だけでなくイメージの置き方にも表れている。
当時の受け止められ方
1986年の時点で『Swimmer』は、UKアルバム・チャートで最高85位、チャート入りは1週のみ。セールス面では大きく伸びなかったが、当時の批評では比較的好意的に受け止められた。英国の音楽誌系レビューでは、洗練された作り、美しいメロディ、Steven Lindsayの歌声、ギターの質感が評価されている。一方で、後年の回顧では、上品だが少し地味、個性がやや弱いという見方も出ている。実際に聴くと、その両方の印象が同居している。音の整理は行き届いていて、耳に引っかかる瞬間はあるのに、全体を押し切るような強い圧は前面に出てこない。
同時代の文脈
1980年代半ばの英国では、ギター・バンドの中でも、派手なロック・アプローチより、メロディと音の質感を重視する流れが広がっていた。The Big Dishもその文脈に置くと見やすい。The Blue NileやPrefab Sproutのように、抑制の効いたポップ感覚を持つバンド群と並べて語られることがあるのも納得できる。『Swimmer』は、そうした“よく整ったポップ・ロック”の枠内で、スコットランドのバンドらしい誠実さを出している作品。派手なヒット曲で広く知られるタイプではないが、バンドの出発点としてはかなり明確な輪郭を持っている。
音の印象
実際に通して聴くと、1曲ごとの派手な展開よりも、アルバム全体の流れでじわじわ印象が残る。ギターは乾きすぎず、鍵盤やサックスが入る場面でも過剰に装飾的にはならない。歌は前に出るが、歌い上げるというより、曲の中にきちんと収まるタイプ。B面の最後がロックド・グルーヴで終わるのも、きれいに閉じるより余韻を残す作りとして印象に残る。Virginの1986年盤らしいグレー寄りのラベル時代の作品でもあり、80年代中盤のUKロックの空気をそのまま閉じ込めたような一枚になっている。
The Big Dishにとって『Swimmer』は、デビュー作としての土台を示したアルバム。大きな成功よりも、曲作りと音の設計に力を入れた初期像がここにある。後の活動を知る入口としても、1980年代英国のインディー/ポップ・ロックを追う上でも、はっきり位置づけの見える作品だ。
トラックリスト
- A1 Prospect Street
- A2 Christina's World
- A3 Slide
- A4 Big New Beginning
- A5 Another People's Palace
- B1 Swimmer
- B2 The Loneliest Man In The World
- B3 Jealous
- B4 Her Town
- B5 Beyond The Pale
- B6 Second Swimmer