The Moody Blues - Long Distance Voyager (1981)
The Moody Blues『Long Distance Voyager』レビュー
The Moody Bluesの『Long Distance Voyager』は、1981年に発表された10作目のスタジオ・アルバムである。60年代から続く叙情的なバンド・サウンドを土台にしながら、80年代初頭の制作環境へしっかり足を踏み入れた作品で、グループの歩みの中でも転機として扱われることが多い。日本盤は同年のリリースで、King RecordからのThresholdレーベル盤、品番はK28P-161。オリジナル期の空気をそのまま日本で受け取れる一枚である。
80年代へ向けた再始動の記録
このアルバムが出た1981年の時点で、The Moody Bluesはすでに長いキャリアを持つバンドだった。『Long Distance Voyager』は、前作『Octave』以後の流れを受けつつ、メンバーが自前のThreshold Studioで本格的に録音した最初の作品として知られている。バンドにとっては、外部の大きな制作体制ではなく、自分たちの場所で音を組み上げたアルバムでもある。そうした背景が、演奏や音像のまとまりにそのまま出ている印象だ。
実際に聴くと、従来のムーディーな旋律線を残しながら、シンセサイザーの比重がかなり前へ出ている。70年代のシンフォニック・ロック的な広がりを引き継ぎつつ、80年代のポップ・ロックの輪郭へ寄せた作りで、音の整理がはっきりしている。厚みのあるキーボード、明快なリズム、歌のメロディーが前に出る配置。派手さよりも、曲ごとの設計のわかりやすさが先に立つ。
代表曲「Gemini Dream」「The Voice」
本作を語るうえで外せないのが、シングルとしても知られる「Gemini Dream」と「The Voice」である。「Gemini Dream」は、バンドの再出発感をそのまま音にしたような推進力があり、当時のムーディー・ブルースの更新ぶりを象徴する楽曲として扱われてきた。「The Voice」もアルバムの中心に置かれる曲で、透明感のある歌とキーボードの層が印象に残る。どちらも、昔ながらの叙情性を保ちながら、80年代のラジオ向け感覚へうまく接続している。
全英アルバム・チャートでは最高7位を記録し、19週チャートインした。米国でも大きな商業的成功を収め、バンドにとって80年代最初の代表作として位置づけられている。キャリアの長いグループが時代の音に合わせて存在感を取り戻した例として、しばしば参照されるのも納得の内容である。
ムーディー・ブルースらしさと80年代的な整理
The Moody Bluesは、フルートやキーボードを含む独自の編成と、叙情的な楽曲作りで知られてきた。60年代末から70年代にかけての作品では、オーケストラ的な広がりやコンセプト性が強く出ることも多かったが、『Long Distance Voyager』ではその要素が少し整理され、楽曲の芯が見えやすい。プログレッシブ・ロックの文脈で語られることもある一方で、ここではむしろポップ・ロックとしての明快さが前面にある。
同時代の英国ロックで比べると、YesやGenesisのような技巧の誇示よりも、歌メロと音の積み重ねに重心がある。シンフォニック・ロックの流れを引きつつも、80年代初頭の制作感覚に適応した作品として、同時期のバンド作品の中でも立ち位置がはっきりしている。派手な変化球ではなく、長年の持ち味を残したまま更新している点が、このアルバムの特徴である。
制作背景とアルバムの位置づけ
ジョン・ロッジは後年、この作品について再会や再出発の感覚を背負った曲作りだったと語っている。タイトルの『Long Distance Voyager』も、そのまま長い旅路を続けるバンド自身の姿と重なる。実際、1981年という時点でこのバンドがまだ現在形で機能していたことを示す、重要な一枚になっている。
さらに、この作品は自前のスタジオでの録音という点でも節目である。バンドの内部で音作りを完結させた感触があり、そのぶん演奏やアレンジに統一感が出ている。のちにそのスタジオが使えなくなったことを思うと、このアルバムは一つの制作環境の到達点でもある。オリジナル期のムーディー・ブルースを知るうえで、60年代や70年代の作品群と並べて見たくなる1枚である。
日本盤について
今回の日本盤は1981年のThreshold盤で、Manufactured by King Record Co., Ltd. Japanのクレジットが入る。オリジナルの空気をそのまま国内で受け取れる時期のプレスであり、当時の洋楽ロックが日本でどのように流通していたかも感じられる。レーベル面でも、Thresholdらしいバンド主導の姿勢が見える一枚である。
The Moody Bluesのキャリアの中で、『Long Distance Voyager』は過去の延長線上にありながら、80年代の入口で音の輪郭を組み替えた作品として残る。叙情、キーボード主体の構成、代表曲の強さ、その3つがまとまったアルバムである。
トラックリスト
- A1 The Voice 5:11
- A2 Talking Out Of Turn 7:17
- A3 Gemini Dream 4:05
- A4 In My World 7:17
- B1 Meanwhile 4:07
- B2 22,000 Days 5:24
- B3 Nervous 5:40
- B4 Painted Smile 3:22
- B5 Reflective Smile 0:36
- B6 Veteran Cosmic Rocker 3:09