The Pop Group = ザ•ポップ•グループ - Y = Y (最後の警告) (1979)
The Pop Group『Y』(1979) ― ブリストルから放たれた初期ポストパンクの異物
The Pop Groupのデビュー作『Y』は、1979年にUKのRadar Recordsから登場したアルバムで、ポストパンク初期を語るうえで外せない一枚だ。ブリストル出身の彼らは、パンクの速度と攻撃性を土台にしながら、ダブ、ファンク、フリージャズ、ノイズをぶつけ合うような方法で、当時のロックの枠を押し広げた。整った楽曲集というより、緊張感の高い断片が連なった作品で、聴き進めるほどに音の密度が増していく。
この日本盤は1979年のオリジナル期に出たもので、帯と歌詞インサート2種が付属する仕様。英語歌詞のシートに加え、日本語の歌詞・ライナーノーツが付く点は、当時の国内盤らしい作りだ。レーベルはRadar Records、型番はP-10705F。RadarはElvis CostelloやNick Loweでも知られる英国のパンク/ニューウェーヴ系レーベルで、The Pop Groupのような先鋭的なバンドも抱えていた。
作品の輪郭
『Y』の中心にあるのは、ザラついたギター、跳ねるベース、硬いドラム、そしてMark Stewartの切迫したヴォーカルだ。曲ごとに性格は違うが、全体としては「歌う」というより、社会への違和感や不安を音に押し出していく感触が強い。ダブ由来の空間処理が入る場面では、音が急に引いてはまた戻り、その空白が妙に生々しく残る。ファンク的な反復もあるが、滑らかさよりも衝突のほうが前に出る。
制作面では、ダブの名手として知られるDennis Bovellがプロデュースを担当した。彼の手つきは、低音の厚みや残響の扱いに表れていて、単なる荒削りなパンク盤とは違う輪郭を作っている。もともとJohn Caleがプロデューサー候補だったという話もあるが、最終的にはBovellがこの作品の骨格をまとめた。結果として、ロック、レゲエ、実験音楽の境目が曖昧なまま、強い圧を持つアルバムになっている。
当時の位置づけ
The Pop Groupにとって『Y』は、最初期の到達点にあたる作品だ。バンドは1977年結成、1980年には一度解散しており、このアルバムは短い活動期間の中で残された重要な記録になっている。後年の再結成や新作とは別に、まずこのデビュー作がバンド像の核を形作った。政治性の強さ、音の荒さ、構成の不安定さまで含めて、彼らの性格がそのまま刻まれている。
発売当時は大衆的なヒットには結びつかなかったが、同時代の批評では強い反応を呼んだ。NMEで「exciting but exasperating」と評されたことが後年の回顧記事でも触れられているように、魅力と戸惑いが同時に生まれるタイプの作品だった。聴きやすさを目的にしていないぶん、当時のロックの常識とはかなり距離がある。
収録曲と耳に残る要素
この作品には、いわゆる大ヒット曲や広く知られた代表曲を前提にした作りはない。ただ、アルバム全体を通して、リズムの反復と不協和な音の配置が強く印象に残る。曲単位で完結するというより、A面B面を通じて一つの圧力を保つような構成で、聴き終えたあとに個々のメロディーよりも質感が記憶に残るタイプだ。
実際に聴くと、音数が多いのに整理されていないのではなく、あえて均整を崩している感触がある。ベースが前へ出る場面、ギターが鋭く割り込む場面、ヴォーカルが言葉を押し付ける場面、それぞれが同じ方向を向かずにぶつかっている。そのぶつかり方が、このバンドの個性になっている。
同時代とのつながり
『Y』は、同時代のポストパンクの中でも特に先鋭的な位置にある。Gang of Fourのようにファンクの要素を取り込んだバンド、Public Image Ltd.のようにダブや実験性を押し出した動きと並べて語られることが多いが、The Pop Groupはそこにさらにフリージャズやノイズの感触を混ぜている。ブリストルの音楽史を見ても、このアルバムが後のシーンに残した影は小さくない。
とくに政治性と音響処理の結びつきは、後年のブリストル周辺の音楽にもつながっていく。Massive AttackやPortisheadのような直接的な比較は慎重に扱うべきだが、低音の使い方や空間の作り方に、同じ土地の感覚が重なる部分はある。さらに、The Pop Groupの姿勢は、後の実験的なポストパンクやノイズロックにも影響を与えた。
日本盤としての魅力
1979年の日本盤は、オリジナルの空気をそのまま国内に持ち込んだ一枚として見ると面白い。帯付きで、英語歌詞と日本語ライナーノーツが付く構成は、作品の背景を追いながら聴くうえでありがたい。ジャケットや帯の表記も含めて、当時の輸入感覚と国内向け編集の両方が残っている。
『Y』は、完成度の高さで押す作品ではない。むしろ、ロックの形式を崩しながら、その崩れ方自体を記録したアルバムだ。The Pop Groupの出発点であり、同時に初期ポストパンクの緊張を濃く封じ込めた一枚。1979年という時点で、ここまで鋭く、ここまで落ち着かない音を鳴らしていたこと自体が、この作品の存在感を支えている。
トラックリスト
- A1 Thief Of Fire = 戦火は消えない 4:33
- A2 Snowgirl = スノー・ガール 3:21
- A3 Blood Money = 外人部隊の叫び 2:54
- A4 Savage Sea = サウェージ・シー (狂った海に立ち向かった兵士) 2:58
- A5 We Are Time = 狂気の時 6:27
- B1 Words Disobey Me = 言葉は裏切り 3:23
- B2 Don't Call Me Pain = 兵士のあがき 5:35
- B3 The Boys From Brazil = 人類回帰 4:13
- B4 Don't Sell Your Dreams = 夢を売りわたすな 6:35