The Slits - Cut (1979)
The Slits『Cut』――パンクの熱を残したまま、レゲエとダブへ踏み込んだ1979年作
The Slitsの『Cut』は、1979年にUKのIsland Recordsから出たデビュー・アルバムだ。The Slitsは1976年結成のUK女性パンク・バンドで、Ari Upを中心に、Viv Albertine、Tessa Pollitt、Budgieらが参加した編成で知られる。パンクの初期衝動を背景にしながら、単なる速いロックに収まらず、レゲエやダブの感覚を強く取り込んだ点が、この作品の大きな特徴になっている。
制作にはDennis Bovellが起用されている。レゲエ/ダブの文脈に通じたプロデューサーを迎えたことで、演奏の荒さや不揃いさがそのまま前面に出るのではなく、音の隙間や反復がはっきり見える形に整えられている。The Slits自身の持つ切迫感と、Bovellの手つきによる整理が同居した作品、と見てよさそうだ。
パンク以後の時代に置かれた位置
『Cut』が出た1979年は、UKパンクの第一波がひと区切りついた後の時期にあたる。その中でThe Slitsは、パンクの勢いを保ちながら別のリズム感に向かったグループとして目立つ存在だった。The Clashがレゲエを自分たちの語法に取り込んでいたのと同時代の流れの中で、The Slitsはさらに踏み込んで、曲の骨格そのものをずらしている。
当時のパンク・バンドの中でも、The Slitsは技術的な整いよりも、身体感覚や間の取り方を優先しているように聴こえる。そこにAri Upの歌い方が重なり、単純な怒りや反抗ではない、少し別の緊張が生まれている。女性だけのバンドであることも含め、同時代のロックの見え方を変えた作品として扱われることが多い。
代表曲と聴きどころ
収録曲では「Typical Girls」がよく知られている。タイトルからして印象に残るが、内容も“典型的”という言葉をそのまま裏返すような作りで、当時の女性像や振る舞いへの視線をほどいていくような曲だ。リズムは直線的ではなく、ベースとドラムの間に独特の揺れがある。歌の強さだけで押し切るのではなく、反復の中で意味が立ち上がるタイプの楽曲だ。
「Instant Hit」もこのアルバムを語るうえで外せない。タイトル通りの即効性を狙ったような曲名だが、実際には勢いだけで進むのではなく、音の抜き差しがはっきりしている。パンクの短距離走というより、ダブの感覚を持ち込んだ変則的な推進力に近い。
全体を通して聴くと、ギターの歪みやボーカルの前のめりな感じ以上に、ベースとドラムの間合いが印象に残る。ロックの演奏としてはかなりラフだが、そのラフさがそのまま作品の構造になっているところが面白い。のちのポストパンク、インディー、オルタナティヴの耳から振り返られるのも納得しやすい内容だ。
ジャケットと話題性
『Cut』は、ジャケット写真でも強い印象を残した。泥を塗り合いながら撮影された裸のバンド写真は、単に挑発的というだけでなく、当時のロックにありがちな見せ方から距離を取る姿勢として受け止められた。音だけでなく、見た目の面でも“女性バンドをどう消費するか”という視線に対して、かなりはっきりした態度を示している。
なお、このUK盤には、レーベル面にメンバーのシルエットが入っていない仕様がある。Island Recordsの1979年プレスらしいシンプルな外観で、同じ時期にはシルエット入りの別ヴァージョンも存在する。カードボードのインナー・スリーブ付きという点も、この時代のUKロックLPらしい作りだ。
チャート面と作品の手応え
商業的には大ヒット作というより、批評面と後年の評価で存在感を増したアルバムだが、UKアルバム・チャートでは最高30位を記録している。1979年9月にチャート入りし、数週間にわたって位置を保ったことからも、実験性の強い作品としてはかなり目立った部類に入る。
The Slitsにとって『Cut』は、バンドの始まりを示す一枚であると同時に、パンクの次に何が起こるかを早い段階で示した記録でもある。荒い演奏、レゲエの間、ダブ的な空間、そしてAri Upの存在感が、ひとつのまとまりとして残っている。1979年という年の空気をそのまま抱えた、かなり重要なデビュー作だと言えそうだ。
トラックリスト
- A1 Instant Hit
- A2 So Tough
- A3 Spend, Spend, Spend
- A4 Shoplifting
- A5 FM
- B1 Newtown
- B2 Ping Pong Affair
- B3 Love Und Romance
- B4 Typical Girls
- B5 Adventures Close To Home