Yumi Murata - 卑弥呼 = Himiko (1981)
Yumi Murata 1981

Yumi Murata - 卑弥呼 = Himiko (1981)

Pop Jazz New Wave Fusion

村田有美『卑弥呼 = Himiko』について

村田有美の『卑弥呼 = Himiko』は、1981年に日本でリリースされた3作目のアルバム。1979年のデビュー作『Yumi Murata 1st』、1980年の『KRISHNA』に続く位置づけで、村田有美が80年代前半にどの方向へ進もうとしていたかを、かなりはっきり示す一枚になっている。ジャズやポップスの枠に収まりきらない内容で、フュージョン、ニューウェーブ、さらに当時の日本の前衛的な制作感覚が重なった作品として語られることが多い。

村田有美は1957年、東京・杉並区生まれ。国立音楽大学で音楽教育を学び、70年代末から80年代末にかけて歌手として活動したのち、1991年からはボーカル指導の場を開いている。そうした経歴もあってか、このアルバムでも歌そのものを押し出すというより、声の輪郭や間の取り方を含めて楽曲の一部として扱う印象が強い。流麗に歌い上げるタイプではなく、言葉を置くように進む場面が多いのが特徴的だ。

清水靖晃とマライアが作る、硬質で実験的な音像

本作のプロデュース/サウンド面は清水靖晃が担当している。清水靖晃といえば、サックス奏者、作編曲家としての活動に加え、実験的ユニット「マライア」での仕事でも知られる人物で、このアルバムにもその感触がはっきり入っている。演奏はきっちり整っているのに、音の置き方には落ち着かない部分があり、普通の歌謡曲やジャズ・ボーカルとは別のテンションで進む。

全体を通して耳に残るのは、無機質になりすぎないシンセサイザーの質感と、リズムの切れ味。ニューウェーブ由来の硬さがある一方で、単に冷たいだけではなく、空間の広がりや揺れも残している。そこに村田有美の訥々とした歌が乗ることで、曲によってはかなり独特の温度になる。マライア周辺の作品や、清水靖晃のソロ作『IQ-179』に近い方向性を感じる箇所もある。

矢野顕子の参加曲が印象を残す

作曲クレジットには清水靖晃、笹路正徳、渡辺モリオに加え、矢野顕子の名前もある。とくに「きげんなおして、もう」と「わたしのバス」の2曲は、矢野顕子が作詞・作曲で参加した楽曲として知られている。編曲はマライア勢が担っており、矢野顕子の曲をそのままポップに寄せるのではなく、アルバム全体の質感に溶かし込んでいるのが面白い。

「わたしのバス」は村田有美のための書き下ろしで、矢野顕子自身によるセルフカバー音源は存在しない。そういう意味でも、この作品の中では少し特別な位置にある。メロディの親しみやすさと、編曲の実験性が同居していて、アルバムの中でも耳の引っかかりが強い。

収録曲の手触りと作品の位置づけ

このアルバムは、村田有美のディスコグラフィの中では、初期3作目にあたる。デビュー直後の模索期を抜け、より個性的なサウンドへ踏み込んだ段階の記録として聴ける。続く1983年の『DRYWINDASIAN』、1985年の『Desire』へつながる前段階としても興味深い。とくに『Desire』では笹路正徳のプロデュースが前面に出るが、その前にこうした硬質な制作と向き合っていたことがわかる。

楽曲の中では、派手に押し出すタイプのヒット曲というより、アルバム全体の流れの中で印象が積み重なる構成。歌の存在感を中心に置きつつ、バックの演奏がかなり多彩に表情を変えるため、1曲ごとのキャラクターがはっきりしている。アンビエント的な広がりを持つ曲、ニューウェーブ・ファンク寄りの鋭い曲、プログレッシブな展開を感じる曲が同居していて、当時の日本のレーベル作品の中でもかなり個性が強い部類に入る。

B&M盤としての存在感

リリースは日本のB&Mレーベル。先鋭的な作品を多く扱ったレーベルとして知られ、このアルバムもそのカタログの中で人気の高い一枚として扱われてきた。近年はレアグルーヴやシティポップ再評価の流れの中で見直され、2020年にはアナログ再発も行われた。あわせて日本コロムビアからデジタル配信でも復刻されている。

オリジナル盤は1981年の空気をそのまま閉じ込めたような一枚で、再発盤ではその作品性があらためて整理されて受け取られている印象がある。とはいえ、核にあるのは同じで、村田有美の声、清水靖晃の制作感覚、矢野顕子の楽曲提供が交差する点にこの作品の面白さがある。ジャズ、ポップス、フュージョン、ニューウェーブが一直線に混ざるのではなく、互いに少し距離を保ちながら並んでいるところが、このアルバムの聴きどころになっている。

まとめ

『卑弥呼 = Himiko』は、村田有美という歌手の初期キャリアを語るうえで外せない作品であり、同時に1980年代初頭の日本で生まれた実験的ポップの一断面でもある。声を主役にしながら、演奏と編曲がかなり大胆に動く。清水靖晃周辺の作品が好きな人や、当時の日本産ニューウェーブ/フュージョンの境目を追っている人にとって、気になる要素の多いアルバムだ。

トラックリスト

  1. A1 きげんなおして、もう
  2. A2 ピグマリオンの誤算
  3. A3 心の底辺
  4. A4 メディアの呪文
  5. A5 わたしのバス
  6. B1 恋のブランケット = Two In A Blanket
  7. B2 夢見る卑弥呼 = Himiko Dreamin'
  8. B3 みんな嘘 = A Concious Lie
  9. B4 落椿~らくちん~ = Rakuchin

動画プレイリスト

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