Belle & Sebastian - Dear Catastrophe Waitress (2003)
Belle & Sebastian『Dear Catastrophe Waitress』
グラスゴー出身のBelle & Sebastianが2003年に発表した『Dear Catastrophe Waitress』は、バンドの流れを少し大きく動かしたアルバムだ。もともと繊細な室内楽的ポップや、日記の断片をそのまま歌にしたような感触で知られてきたグループだが、この作品ではその持ち味を残しつつ、より輪郭のはっきりしたポップ・アルバムとしてまとまっている。プロデュースはトレヴァー・ホーン。80年代以降の大きなポップ・プロダクションで知られる人物を迎えたことで、バンドの作品群の中でもかなり立ち位置の違う一枚になっている。
制作背景とサウンドの変化
録音は2003年の夏、ロンドンのSarm West Studiosで行われた。事前にリハーサルを重ね、オーバーダブに頼りすぎず、ライヴに近い形で録ったという点がこのアルバムの手触りに出ている。音の層は厚いが、演奏自体はきびきびしていて、曲の進行が見えやすい。ベル・アンド・セバスチャンらしい細かなメロディの積み重ねはそのままに、ホーンが持ち込んだ整理のされた音像が前に出る。これまでの作品にあった、やや内向きで紙の質感に近い響きから、もう少し華やかで、スタジオ作品らしい明るさへ寄った印象が強い。
この時期の編成では、イソベル・キャンベルやスチュアート・デヴィッドがすでにバンドを離れており、以前より身軽な体制での制作になっている。そのぶん、スチュアート・マードックのソングライティングがより前面に出ている。3分前後の曲の中に場面転換や言葉の細部を詰め込む書き方は変わらず、そこにホーン流の色彩が加わった形だ。
収録曲と代表曲
アルバムからは「Step into My Office, Baby」がシングルとして知られる。全英32位を記録し、当時のバンドの中では比較的ポップな広がりを持った曲として扱われた。「I'm a Cuckoo」は翌2004年のシングルで全英14位、「Books」も全英20位に入っている。どの曲も、軽快なテンポの中に細かい視点の切り替えがあり、Belle & Sebastianの持つ文章的な歌の作りがよく見える。
とくに「Step into My Office, Baby」は、タイトルの付け方からして少し芝居がかったニュアンスがあり、実際の演奏もそれを裏切らない。バンドの過去作にあった内省の濃さより、身体が先に動くような感触がある。「I'm a Cuckoo」では、メロディの運びが明快で、リズム隊の推進力もはっきりしている。こうした曲調が、アルバム全体を従来作よりも開いた印象にしている。
当時の位置づけ
『Dear Catastrophe Waitress』は、Belle & Sebastianにとって転換点に置かれる作品だ。初期のフォーク色の強い室内楽ポップから、そのまま離れ切るわけではないが、より外向きで、ポップ・バンドとしての輪郭を押し出した。インディー・ポップの文脈の中でも、オーケストラ的な装飾や知的な歌詞だけでなく、ポップ・ソングの推進力そのものを前に出した一枚として受け止められてきた。
同時代のインディー・ロックでは、ローファイな質感や素朴さを保つ流れもあれば、スタジオ作業を積極的に取り込んで音を拡張する流れもあった。このアルバムは後者に近く、Belle & Sebastianの名前を、より広いリスナーに届ける役割も担った。チャート面でも全英21位、全米Billboard 200で84位と、バンドとしては強い成績を残している。
評価と再発盤の仕様
批評面では評価が割れた。Metacriticでは79点、NMEは8/10、Pitchforkは7.5、Uncutは5つ星、Rolling Stoneは3つ星、Entertainment WeeklyはC+と、受け止め方に幅がある。従来の繊細なBelle & Sebastian像を好む耳には変化が大きく、ポップ・アルバムとしての整理された作りを評価する向きには魅力がはっきりした、そんな位置の作品だ。
この盤はRough TradeのUK & USリリースで、180g重量盤の2LP、ゲートフォールド仕様。いわゆる再発盤ではなく、2003年のオリジナル期のプレスとして扱える内容だ。アナログ盤では、曲間のまとまりや中域の厚みが出やすく、この作品の整ったアレンジが見えやすい。デジタル版で聴く時よりも、バンドの演奏が一つの部屋で鳴っている感じがつかみやすい。
まとめ
『Dear Catastrophe Waitress』は、Belle & Sebastianの持ち味を保ちながら、より明快なポップ・アルバムへ踏み出した2003年作だ。トレヴァー・ホーンの参加、ライヴ感を意識した録音、シングル曲の強さ、そのどれもが作品の性格を決めている。初期作の延長線だけでは収まりきらない一枚であり、バンドの中期以降を語るうえで外しにくいタイトルになっている。
トラックリスト
- A1 Step Into My Office, Baby 4:12
- A2 Dear Catastrophe Waitress 2:22
- A3 If She Wants Me 5:05
- B1 Piazza, New York Catcher 3:03
- B2 Asleep On A Sunbeam 3:22
- B3 I'm A Cuckoo 5:26
- C1 You Don't Send Me 3:08
- C2 Wrapped Up In Books 3:34
- C3 Lord Anthony 4:14
- D1 If You Find Yourself Caught In Love 4:15
- D2 Roy Walker 2:57
- D3 Stay Loose 6:41