Clarence Carter - This Is Clarence Carter (1968)
Clarence Carter『This Is Clarence Carter』
1968年にアトランティック・レコードから発表された、クラレンス・カーターの記念すべきソロ・デビュー・フルアルバム。アラバマ州モンゴメリー出身、生まれつき盲目でありながらアラバマ州立大学で音楽の学位を取得した非凡な才能を持つカーターが、マッスル・ショールズのフェイム・スタジオで制作した南部ソウルの金字塔であり、全米を揺るがした名曲「Slip Away」を中核に据えている。
制作背景・エピソード
カーターはそれ以前、カルヴィン・フリーマン(カルヴィン・スコット)とのデュオ「クラレンス&カルヴィン(C&Cボーイズ)」として活動していたが、相棒のフリーマンが1966年の自動車事故で重傷を負い音楽界を退いたことを機にソロへ転向した。その後、マッスル・ショールズのFAME Studiosを率いる名プロデューサー、リック・ホールの全面的な支えを受け、アトランティックの重鎮ジェリー・ウェクスラーの目に留まってメジャー契約へと進んだ。
本作の核となった「Slip Away」は、もともとツアーバンドのメンバーらが女性視点で書いた「That's What I Tell Him」を、カーター自身が不倫関係にある男性の切実な視点へ歌詞を書き換えて完成させた曲である。録音には、ロジャー・ホーキンス(ドラムス)、デヴィッド・フッド(ベース)、スプーナー・オールダムとバリー・ベケット(鍵盤)、ジミー・ジョンソン(ギター)ら伝説のマッスル・ショールズ・リズム・セクション(スワンパーズ)が参加し、セッションマンとして頭角を現していた若きデュアン・オールマンもギターで加わっている。アップテンポでファンキーな「Looking for a Fox」や、ジミー・ウェッブ作の名曲「Do What You Gotta Do」も収録されている。
時代の文脈
1968年当時、アトランティックはマッスル・ショールズのFAME Studiosをサザン・ソウルの最重要拠点として位置づけており、アレサ・フランクリンやウィルソン・ピケットらも同スタジオへ送り込まれていた。そうした黄金期の中で登場したカーターは、人妻との秘密の関係や不義、愛欲の葛藤をユーモアと哀愁を交えて赤裸々に歌う「チーティング・ソウル(Cheating Soul)」の先駆者として独自の存在感を確立した。本作は、そのソロ路線を決定づけた歴史的アルバムである。
代表曲「Slip Away」は、全米Billboard Hot 100で6位、R&Bシングルチャートで2位を記録し、100万枚以上を売り上げてRIAAゴールドディスク認定を受けた。「Looking for a Fox」もHot 100で62位、R&Bチャートで20位を記録し、アルバム自体もR&Bアルバムチャートの上位に食い込んでカーターのトップスターへの飛翔を決定づけた。
後世への影響
「Slip Away」は、オーティス・レディングの諸作やパーシー・スレッジの「When a Man Loves a Woman」と並ぶサザン・ソウル/ディープ・ソウルの最高峰として音楽史に燦然と輝いている。カーターの語り口調(スポークン・イントロ)や独特の豪快な笑い声を交えた歌い回しは、後年のサザン・ソウルやブルース、さらに現代R&Bやヒップホップにおける語りのスタイルにも深い影響を与えた。本作の成功が、続く「Too Weak to Fight」やグラミー賞を受賞した名曲「Patches」(1970年)へと結実していく。
カーターの太く艶やかなバリトン・ボイスと、FAME Studiosの録音陣が織りなすマッスル・ショールズ・サウンドの結晶であり、粘りつくようなホーンのリフ、ウーリッツァーやオルガン、引き締まったバックビート、そしてデュアン・オールマンやジミー・ジョンソンの鋭利なギターが、楽曲の力強い輪郭を形作っている。初期アトランティックのグリーン/ブルー・ラベルをまとった、ヴィンテージ・ソウルを象徴する一枚である。
トラックリスト
- A1 Do What You Gotta Do 2:30
- A2 Looking For A Fox 2:15
- A3 Slippin' Around 2:30
- A4 I'm Qualified 2:20
- A5 I Can't See Myself 2:25
- A6 Wind It Up 2:34
- B1 Part Time Love 2:37
- B2 Thread The Needle 2:30
- B3 Slip Away 2:30
- B4 Funky Fever 2:45
- B5 She Ain't Gonna Do Right 2:27
- B6 Set Me Free 3:04