Cymande - Cymande (1972)
Cymande 1972

Cymande - Cymande (1972)

Rock Jazz Funk / Soul Funk Soul

Cymande『Cymande』(1972) レコード解説

1972年に米国Janus Recordsから出たCymandeのデビュー作『Cymande』は、ロンドンで活動していたカリブ系ミュージシャンたちが作り上げた初期作品である。バンド名はカリブの言葉で「鳩」を意味する語に由来し、平和や愛を示すものとして使われている。演奏の軸にあるのは、本人たちがライナーノーツでも示している「NYAH-ROCK」という考え方で、ファンク、ソウル、レゲエ、アフリカ由来のリズムを混ぜた独自の形だ。

録音はロンドンで行われ、英国の空気の中で作られた作品でありながら、最初に強く受け入れられたのは米国だった。実際、当時の英国では大きな反応を得にくかった一方で、アメリカではBillboardのポップ・アルバム・チャートで85位、R&Bアルバム・チャートで24位を記録している。Cymandeにとって本作は、バンドの出発点であると同時に、後年の再評価へつながる基盤になったアルバムといえる。

音の特徴と聴きどころ

この作品でまず印象に残るのは、リズムの置き方である。いわゆる英国ロックの直線的な演奏というより、ベースとドラムが先に前へ出て、そこにギター、ホーン、コーラスが重なる構成が多い。曲ごとの輪郭ははっきりしているが、ビートの粘り方や反復の作り方に黒人音楽の流れが強く出ている。ファンクの推進力、ソウルの歌心、レゲエの間合い、アフリカ音楽の反復感が、分離しきらないまま一つのバンド・サウンドに収まっている印象だ。

タイトル曲「Cymande」は、そのバンド名をそのまま掲げた導入曲として、作品全体の姿勢を示す役割がある。続く「Bra」や「The Message」は、のちにクラブやヒップホップの文脈で広く参照されることになる代表曲で、特に「The Message」はシングルとしても米国で一定の成功を収めた。Hot 100で48位、R&Bシングルで22位という記録が残っている。「Bra」もR&Bチャート入りしており、後年のサンプリング素材としても重要視されるようになった。

当時の位置づけ

Cymandeは1971年にロンドンで結成され、Guyana、Jamaica、Saint Vincentにルーツを持つメンバーで構成された。ソーホーの地下クラブで注目され、そこからレコード制作へ進んだという経緯も、いかにも当時のロンドンらしい。録音場所はDe Lane Lea Studiosで、制作の入口は英国にありながら、発売元はJanus Recordsという米国レーベルだった。この流れ自体が、本作の立ち位置をよく示している。

同時代の英国黒人音楽やファンクの流れで見ると、Cymandeはロック寄りの文脈に回収されにくい。むしろ、ファンクの硬さだけでもなく、ソウルの型だけでもないところに特徴がある。後年、レア・グルーヴの発掘やヒップホップのサンプリング文化が進む中で、このアルバムが再び注目されたのも自然な流れに見える。Kool Herc、DJ Jazzy Jay、Grandmaster Flashらが支持したという話も、Cymandeの音がクラブ文化と相性のよい反復と間合いを持っていたことを示している。

レコードとしての印象

1972年のオリジナル盤として見ると、Janus Recordsのリリースである点も重要だ。US盤らしく、当時のアメリカ市場に向けた流通の中で存在感を得た作品であり、英国発のバンドがアメリカで先に評価された例としても興味深い。盤面の情報としては、全曲がHeavy Music, Inc.(BMI)出版で統一され、内側のゲートフォールドには「We call our music NYAH-ROCK...」という文言が載る。作品の理念をそのまま記したような作りである。

今聴くと、派手な展開で押すアルバムではないが、各曲のグルーヴの置き方が丁寧で、ベースラインやホーンの入り方に耳が向く。録音年代を考えると音像は比較的素直で、演奏の粒立ちが追いやすい。サンプリングで切り取られてきた断片だけでなく、1枚を通して聴くことで、Cymandeが単なる「ネタ元」ではなく、バンドとして組み上げた作品であることが見えてくる。

後年への影響

『Cymande』は、当時の商業的な大ヒット作というより、後から価値が広がったアルバムである。De La Soul、Wu-Tang Clan、Fugeesなどのヒップホップ勢によるサンプリングを通じて、1972年作が再び掘り起こされたことはよく知られている。映画での使用例もあり、バンド再結成後のライブ活動にもつながっていく。初出時の評価と後年の評価が大きくずれている点も、この作品の特徴だろう。

結果として『Cymande』は、ロンドンのカリブ系ミュージシャンたちが作ったデビュー作であり、英国では見過ごされながら米国で先に実績を残し、その後レア・グルーヴとヒップホップの文脈で再発見されたアルバムとして位置づけられる。ファンク、ソウル、レゲエ、アフリカ音楽の要素が、1972年の時点でかなり自然に結びついているところに、この作品の強さがある。

トラックリスト

  1. A1 Zion I 3:29
  2. A2 One More 3:06
  3. A3 Getting It Back 4:16
  4. A4 Listen 4:37
  5. A5 Rickshaw 5:50
  6. B1 Dove 10:50
  7. B2 Bra 5:00
  8. B3 The Message 4:19
  9. B4 Ras Tafarian Folk Song 3:08

動画プレイリスト

Share
記事一覧に戻る

あわせて聴きたい "Funk"

toast