Genesis - Selling England By The Pound (1973)
Genesis『Selling England By The Pound』
Genesisが1973年に発表した通算5作目のスタジオ・アルバム。邦題は『月影の騎士』で、UK盤はCharismaのカタログ番号CAS 1074。今回の盤は、初回のLarge Mad Hatterラベル仕様として案内されている。収録曲は「Dancing with the Moonlit Knight」から「Aisle of Plenty」まで全8曲で、のちに代表曲として語られる「I Know What I Like (In Your Wardrobe)」を含む一枚。
制作背景・エピソード
前作『Foxtrot』のツアーを終えたバンドは、新曲作りのために2〜3か月の期間を確保したが、マイク・ラザフォードはこれを「命取り」だったと振り返り、トニー・バンクスも「なかなか音楽のアイデアが出てこなかった」と語っている。リハーサルはチェシントンの医師の家や、シェパーズ・ブッシュのダンス・スクールで行われ、スティーヴ・ハケットはこの環境が音楽に「幸福なアマチュアっぽさ」を与えたと述べている。
録音は1973年8月、ロンドンのアイランド・スタジオで実施され、プロデューサーはジョン・バーンズ。タイトルはピーター・ガブリエルの発案で、労働党のスローガンから取られたもの。アメリカ市場に魂を売ったと言われないよう、英国らしさを前面に出す狙いがあり、歌詞には英国のフォーク文化の衰退やアメリカナイズへの不安が織り込まれている。
「Dancing with the Moonlit Knight」は、ガブリエルのピアノ曲とハケットのギターのフレーズを組み合わせた曲で、ガブリエルのアカペラで始まる。歌詞にはグリーン・シールド・スタンプ(当時の英国のスタンプ景品)など、英国的な小道具が散りばめられている。「I Know What I Like (In Your Wardrobe)」は、ハケットのギター・リフが「ビートルズっぽすぎる」と一度は却下されかけたところから生まれた。歌詞はベティ・スワニックの絵画「The Dream」に触発され、その絵がそのままジャケットに使われ、バンドの依頼で芝刈り機が描き足されている。
「Firth of Fifth」は、バンクスが『Foxtrot』用に持ち込んで却下された曲を作り直したもの。バンクスのフルートとピアノのテーマを、ハケットがギター・ソロに置き換えて後半の聴きどころにした。バンクス自身は後年、自分の歌詞について「宇宙のことに夢中になって、どこへ行き着いたのか分からなくなった」と振り返っている。「More Fool Me」はラザフォードが書き、ラザフォードとフィル・コリンズがスタジオの外に座って歌詞を書いた小品で、コリンズにとってジェネシスでの2曲目のリード・ボーカル曲でもある。
「The Battle of Epping Forest」は、ガブリエルが新聞で読んだイースト・ロンドンのギャングの縄張り争いの記事が元。続報が見つからなかったため、「Liquid Len」や「the Bethnal Green Butcher」といった架空の人物を作り上げて物語にしている。「After the Ordeal」は、バンクスとガブリエルが収録に反対し、ハケットが残すよう主張した曲で、アナログ盤としては収録時間が長くなった。バンクスはそのために音質が犠牲になったと感じていたという。ハケットがジェネシスで初めてナイロン弦ギターを使った録音でもある。「The Cinema Show」の前半はラザフォード作、後半の7拍子のインストゥルメンタルはバンクス、コリンズ、ラザフォードの3人によるもの。歌詞はT・S・エリオット『荒地』から着想を得ており、最後の「Aisle of Plenty」は冒頭曲のリプライズになっている。その歌詞は、Safeway、Fine Fare、Tesco、Co-opといった英国のスーパーマーケットの名前を掛け言葉にしたものだ。
時代の文脈
1973年の英国では、ポンドの価値下落やEC加盟をめぐる議論が盛んで、タイトルの「Pound」もその空気を映しているとされる。ツアーは1973年9月から1974年5月まで続き、ガブリエルは「Dancing with the Moonlit Knight」でブリタニアに扮し、兜と盾を身に着けて歌った。この時期、コリンズは元イエスのピーター・バンクスとサイド・プロジェクトを組んでおり、脱退を心配されたこともあった。
チャート面では全英3位、全米70位。「I Know What I Like」は全英21位で、バンド初の全英トップ30入りを記録している。発売当時の評価は割れ、NMEのバーバラ・シャロンは「これまでで最高の、最も冒険的なアルバム」と評し、ローリング・ストーン誌のポール・ガンバチーニは英国的な言及の多さを指摘した。
後世への影響
後年の評価は高く、プログレッシヴ・ロックの名盤の一枚として数えられている。ラッシュのニール・パートは、コリンズのドラムの技術と音楽性が見事に表れた作品としてこのアルバムを挙げ、1974年夏にバッファローで観たツアー公演を「ただただ心を揺さぶられる演奏だった」と振り返っている。マリリオンのボーカリストだったフィッシュ(Fish)は「ジェネシスの決定的なアルバム」と呼び、米国のバンド、フィッシュ(Phish)のトレイ・アナスタシオも、2010年のジェネシスのロックの殿堂入りの際に最も好きなジェネシスのアルバムとしてこの作品を挙げた。ハケットにとっても、ジェネシス作品の中でいちばん好きなレコードだという。
一方で、バンクスとラザフォードは「良いところも多いが弱いところもある」と複雑な思いも語っている。1973年のUKプログレを語るうえで、制作の経緯、英国志向の歌詞、そして「I Know What I Like」を含む曲群が、ひとまとまりの話題として残る一枚。
トラックリスト
- A1 Dancing With The Moonlit Knight
- A2 I Know What I Like (In Your Wardrobe)
- A3 Firth Of Fifth
- A4 More Fool Me
- B1 The Battle Of Epping Forest
- B2 After The Ordeal
- B3 The Cinema Show
- B4 Aisle Of Plenty
動画プレイリスト
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Genesis - Dancing With The Moonlight Knight (Official Audio)
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Genesis - I Know What I Like (In Your Wardrobe) [Official Audio]
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Genesis - Firth Of Fifth (Official Audio)
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Genesis - More Fool Me (Official Audio)
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Genesis - The Battle Of Epping Forest (Official Audio)
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Genesis - After The Ordeal (Official Audio)
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Genesis - The Cinema Show (Official Audio)
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Genesis - Aisle Of Plenty (Official Audio)
このアーティストについて
Genesisは、1967年にイングランド南東部サリー州ゴダルミングのチャーターハウス校で結成されたロック・バンドだ。メンバーにはピーター・ガブリエル...
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