Michael Kiwanuka - Love & Hate (2016)
Michael Kiwanuka『Love & Hate』(2016)レビュー
マイケル・キワヌカの2作目『Love & Hate』は、2016年にリリースされたアルバム。ロンドン北部マスウェル・ヒル出身のシンガー・ソングライターによる作品で、デビュー作『Home Again』で注目を集めたあと、その評価をさらに広げた一枚になっている。前作のフォーク寄りのソウル感を引き継ぎながら、こちらでは曲のスケールが一段大きくなり、ストリングスや女性コーラスを含む厚いアレンジが前面に出てくる。ソウル、R&B、アコースティックの要素を軸にしつつ、ロックの重心も感じる構成だ。
作品の位置づけ
このアルバムは、キワヌカにとって大きな転機になった作品として扱われている。2012年のデビュー作『Home Again』はマーキュリー賞にノミネートされており、その続編にあたる本作では、作家としての輪郭がよりはっきりしている。制作にはデンジャー・マウスことブライアン・バートンを中心に、インフロ、ポール・バトラーが参加。ロンドンのMetropolis Studios、RAK Studios、Miloco Studios、ロサンゼルスのThe Sound Factoryなど、英米の複数スタジオで録音されている。英米の制作環境をまたぎながら、サウンドの幅を押し広げた形だ。
この時期の英国ソウル/オルタナティブR&Bの流れの中でも、キワヌカは少し独特の立ち位置にいる。単に現代的なR&Bへ寄せるのではなく、70年代のソウルやロックの手触りを残したまま、曲を長く、音像を大きくしていく方向。デンジャー・マウスが関わったことで、音の密度や展開の持ち方に緊張感が出ているのも印象的だ。
聴きどころ
冒頭の「Cold Little Heart」は、10分を超える長尺曲。静かな入りから徐々に層を重ねていく作りで、アルバム全体の空気を決める役割を担っている。のちにHBOドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』のオープニング・テーマとして使われ、広く知られるようになった曲でもある。続く「Black Man in a White World」は、タイトルそのままにアイデンティティの問題を真正面から扱った曲で、リズムの置き方とコーラスの反復が強く残る。
タイトル曲「Love & Hate」も重要な一曲。Netflixの『Seven Seconds』や『ボクらを見る目』(When They See Us)など映像作品で使われたことで、アルバム外でも耳に触れる機会が増えた。こうした楽曲は、メロディだけで押し切るのではなく、歌詞の語り口と編曲の重なりで印象を作っている。全体としては、派手な展開よりも、低音の粘りやコーラスの入り方、ギターやストリングスの配置が曲の感触を決めている。
実際に聴くと、音数の多さよりも、音の置き方がよく整理されているアルバムだとわかる。各曲は長めでも、演奏が前に出すぎず、歌の芯を残したまま進む。ソウルの温度感がある一方で、簡単に甘くはならない。声の伸び、コードの動き、打楽器の鳴り方が、少しずつ緊張を保ったまま続いていく感じがある。
リリースと評価
オリジナルは2016年7月15日、英国ではPolydor、米国ではInterscopeから発売された。今回の盤はヨーロッパ盤で、Polydorのカタログ番号は4783458。ゲートフォールド仕様で、ダウンロードカードも付属している。バックカバーとレーベルには2016年の表記があり、EU製。Amazon.co.uk経由で、銀色のペンでサインされたスリーブ付きの個体が販売された例もある。
商業面では、全英アルバム・チャート1位を記録。スイス4位、フランス5位、ドイツ6位、オランダ8位と、ヨーロッパ各国でも上位に入っている。米国のBillboard 200では170位。評価面でも高く、Metacriticでは23件のレビューに基づいて86点を獲得している。英国紙Guardianは、アーティストとして本領を発揮し始めた作品として扱っていた。
まとめ
『Love & Hate』は、マイケル・キワヌカがソウル・シンガーとしての資質を、より大きな編成と長い曲構成の中で示したアルバム。『Cold Little Heart』のような長尺曲、社会的な視点を含む「Black Man in a White World」、映像作品でも広く使われたタイトル曲など、収録曲の存在感が強い。前作からの延長線上にありながら、サウンドの作り方と曲の置き方で明確にスケールを広げた一枚として残る。
トラックリスト
- A1 Cold Little Heart
- A2 Black Man In A White World
- B1 Falling
- B2 Place I Belong
- B3 Love & Hate
- C1 One More Night
- C2 I'll Never Love
- C3 Rule The World
- D1 Father's Child
- D2 The Final Frame