Siouxsie And The Banshees - Hyaena (1984)
Siouxsie And The Banshees『Hyaena』(1984)
Siouxsie And The Bansheesの『Hyaena』は、1984年にUKのWonderlandから出た6作目のスタジオ・アルバムだ。ポストパンクの出自を持つバンドが、より編曲の厚みを増しながらアートロック寄りの感触へ踏み込んだ時期の作品として知られている。初期の鋭いバンド・サウンドをそのまま引きずるのではなく、ホーンや鍵盤、層のあるギターを取り込み、曲ごとの輪郭をはっきりさせているのが印象的な一枚である。
この時期のSiouxsie And The Bansheesは、すでにロンドン発の重要なポストパンク・バンドとして確立されていた。Siouxsie Siouxの歌唱、Steven Severinのベース、そして変化の大きいギター陣という構成の中で、1984年作の『Hyaena』は、バンドの表現がさらに広がった局面に置かれる。John McGeochの後を受けたJohn Valentine Carruthersが参加し、制作面ではRobert Smithが深く関わった時期でもある。The CureやThe Gloveとの接点を含め、当時のUKオルタナティブ・シーンの人脈がそのまま反映された作品でもある。
作品の位置づけ
『Hyaena』は、前作までの緊張感を残しつつ、音の密度を上げた転換点として語られることが多い。録音はAngel Studios、Europa Film、Eel Pie Studios、Power Plant Studiosなど複数のスタジオで進められ、最終的にはデジタルへ移してオーバーダブとミックスが行われた。制作期間が長く、作業が断続的に続いたこともあり、曲ごとの質感にばらつきではなく、むしろ複数のレイヤーが重なったようなまとまりがある。
バンドにとっては、単なる“ポストパンクの延長”では収まらない段階に入ったアルバムと見られる。後年の評価では、暗い題材を扱いながらも、アレンジの整理されたポップな感触が同居する作品として扱われている。Siouxsie And The Bansheesの作品群の中でも、初期の尖り方と中期以降の洗練が交差する位置にある。
代表曲と聴きどころ
収録曲では「Dazzle」「Swimming Horses」がよく挙げられる。「Dazzle」は特に有名で、オーケストラ的な発想を思わせる構成が印象に残る。曲の立ち上がりからして、単純なバンド・サウンドではなく、音が広がる方向へ進んでいく。「Swimming Horses」も、リズムと旋律の置き方がはっきりしていて、アルバム全体の中でも存在感が強い。
この作品の面白さは、攻撃的な曲調だけで押し切らないところにある。音数は増えているのに、各パートの役割はむしろ明確で、Siouxsie Siouxの声が前面で引っ張る構図は崩れない。初期作の切迫感に比べると、フレーズの運びや編曲の組み方に余裕があり、その分だけ楽曲の輪郭が見えやすい。
同時代の文脈
1984年という時点では、UKのポストパンクやゴシック寄りのバンドが、それぞれ別の方向へ伸びていた。Siouxsie And The Bansheesもその流れの中で、The CureやThe Glove周辺と重なりながら、よりアートロック的な要素を取り込んでいた。『Hyaena』は、その変化がわかりやすく表れた作品として見やすい。
一方で、ただ実験に寄ったわけでもない。メロディの強さは保たれていて、曲単位で聴いても印象が残る。ポストパンクの硬質さ、ゴシック・ロックの陰影、アートロックの編曲感覚が、ひとつのアルバムの中で自然に並んでいる点が、この作品の特徴だろう。
盤の仕様について
このUK盤はWonderlandレーベルからのリリースで、タイトルやバンド名、フロント・スリーブの幾何学的な縁取りがエンボス加工になっている。内袋には歌詞、クレジット、写真が入っており、細部まで作り込まれた仕様だ。プロモーション用の一部には「Promotional copy Not for resale」の金色スタンプまたはステッカーが使われた例もある。こうした点も、当時のオリジナル盤らしい手触りとして興味深い。
『Hyaena』は、Siouxsie And The Bansheesが持っていた鋭さを失わずに、編曲と音像を広げた作品として記憶されている。ポストパンクの枠に収まりきらない広がりと、代表曲「Dazzle」を含む楽曲の強さ。その両方が、1984年という年の空気とともに刻まれたアルバムである。
トラックリスト
- A1 Dazzle 5:31
- A2 We Hunger 3:30
- A3 Take Me Back 3:05
- A4 Belladonna 4:30
- A5 Swimming Horses 4:05
- B1 Bring Me The Head Of The Preacher Man 4:37
- B2 Running Town 4:02
- B3 Pointing Bone 3:49
- B4 Blow The House Down 7:03