Al Green - Al Green Is Love (1975)
Al Green『Al Green Is Love』
サザン・ソウルの名門Hi Recordsの黄金期を牽引していたアル・グリーンが、1975年8月に発表した通算9作目のスタジオ・アルバム(カタログ番号:SHL 32092。本リリースはマトリクス末尾に「AL」が刻印されたAudio Manufacturing Record Co.プレス盤)。プロデューサーのウィリー・ミッチェルのもと、テネシー州メンフィスのロイヤル・レコーディング・スタジオ(Royal Recording Studios)で録音された作品で、ポップなシングル・ヒットと魂の深淵を覗き込むような長尺曲が同居する1970年代中期グリーンの重要作だ。
制作背景・エピソード
本作の制作背景には、前年の1974年10月18日にメンフィス郊外のグリーンの自宅で起きた衝撃的な事件(いわゆる「グリッツ事件」)が深い影を落としている。既婚女性であったメアリー・ウッドソン・ホワイトが、入浴中のグリーンに煮えたぎったコーングリッツ(トウモロコシの粥)を浴びせて背中に重度の火傷を負わせた直後、グリーン所有の銃で自ら命を絶ったこの悲劇は、グリーンの精神と人生観を根底から揺るがした。長期の入院とリハビリを経てスタジオに戻ったグリーンは、従来の世俗的なラヴ・ソングの枠組みと、のちに1976年にメンフィスで「Full Gospel Tabernacle(フル・ゴスペル・タバナクル教会)」を設立し牧師へと転身するに至る宗教的・霊的な召命との激しい葛藤の中で本作をレコーディングした。
演奏陣には、メイボン“ティーニー”・ホッジス(ギター)、リロイ・ホッジス(ベース)、チャールズ・ホッジス(オルガン、ピアノ)、ハワード・グライムス(ドラムス、コンガ)ら「ハイ・リズム・セクション(Hi Rhythm Section)」の不動のメンバーに加え、ラリー・リー(ギター)、コンガ・ルーことジョニー・キーズ(コンガ)、アーチー・ターナー(ピアノ)、アンドリュー・ラヴとウェイン・ジャクソンら「メンフィス・ホーンズ」、ジェームズ・ミッチェル(バリトン・サックス、ストリングス編曲)、ザ・メンフィス・ストリングス、そしてチャールズ・チャルマーズ&ローズ・シスターズ(ドナ&サンドラ・ローズ)のバッキング・ヴォーカルが集結している。
時代の文脈
1972年の『Let's Stay Together』や『I'm Still in Love with You』、1973年の『Call Me』へと続いたアル・グリーンとウィリー・ミッチェルの蜜月時代が、1970年代半ばのディスコ・ブームの台頭やシンセサイザー/ファンクの隆盛という時代の変化に直面していた過渡期の作品である。表向きにはタイトル通り「愛の伝道師アル・グリーン」のパブリック・イメージを掲げ、リード・シングル「L-O-V-E (Love)」でポップ・チャートの上位に食い込む健在ぶりを示したものの、アルバムの深層には1974年の惨劇によるトラウマと実存的な苦悩が色濃く刻まれている。黄金期のメロウで官能的なハイ・サウンドの完成形であると同時に、長尺曲における実験的・内省的なアプローチが際立つ異色の1枚だ。
サウンドと聴きどころ
グリーン、ウィリー・ミッチェル、ティーニー・ホッジスの3人が共作したオープナー「L-O-V-E (Love)」や「Oh Me, Oh My (Dreams in My Arms)」、グリーンとティーニー共作の「Rhymes」では、ハワード・グライムスのタイトで乾いたスネア、ティーニーの絶妙なカッティング・ギター、チャールズ・ホッジスの温かいハモンド・オルガン、そしてホーンとストリングスが一体となった王道のメンフィス・ソウル・グルーヴが堪能できる。
一方で、本作の真骨頂として批評家から特に高く評されているのが、3分間のポップ・フォーマットを逸脱した中盤からB面にかけてのディープな楽曲群だ。6分36秒におよぶA3「The Love Sermon」では、世俗的な恋愛と教会の説教壇(Sermon)の境界が溶け合い、牧師転身を予言するかのようなスピリチュアルな語りとファルセットが展開される。B1「Love Ritual」はアフロ・パーカッシヴなコンガと反復するベースラインの上で呪術的なテンションを高める異色のファンク・ナンバー(のちに1994年のレア音源集『Love Ritual: Rare & Previously Unreleased 1968-76』の表題曲にも選ばれた)。そしてB2に配された7分47秒の大作「I Didn't Know」は、静謐で退廃的なループと悲痛なストリングスを背に、グリーンが「I didn't know that you feel like you do...」と最小限のフレーズを繰り返しながら、苦悶の吐息や虚ろな笑い声、魂の叫びへと崩れ落ちていく壮絶な心理的ドキュメントであり、ロバート・クリストガウら多くの評論家から「本作の感情的ロゼッタ・ストーン」「ビニール盤に刻まれた最も生々しい精神の吐露のひとつ」と絶賛されている。また、ウィリー・ミッチェル単独作曲によるラスト曲「I Wish You Were Here」の哀愁漂うストリングスと歌唱も屈指の名演として名高い。
後世への影響と評価
アルバムは米BillboardのR&B/ソウル・アルバム・チャートで見事1位を獲得し、アル・グリーンにとって6作連続となるR&Bチャート首位という歴史的快挙を達成した(この連続1位記録は本作が最後となった)。総合アルバム・チャート(Billboard 200)でも最高28位を記録し、リード・シングルの「L-O-V-E (Love)」はBillboard R&Bシングル・チャートで2週連続1位、Billboard Hot 100でも最高13位の大ヒットとなった。音楽評論家のロバート・クリストガウは『Christgau's Record Guide』で本作に「A-」の高評価を与え、『Rolling Stone』誌やAllMusicでも、商業的成功と内面的な実験精神がせめぎ合う重要作として高く評価されている。
さらに本作は、ヒップホップの黄金期(ゴールデン・エイジ)におけるサンプリング・ソースの宝庫としても大きな影響力を残した。とりわけアルバム最終曲「I Wish You Were Here」の憂いを帯びたストリングス・フレーズは、モブ・ディープ(Mobb Deep)がナズ(Nas)とレイクウォン(Raekwon)を客演に迎えた1995年のクラシック「Eye for a Eye (Your Beef Is Mines)」(Havocプロデュース)や、ナズの1996年作『It Was Written』収録の「Shootouts」(Trackmastersプロデュース)、カニエ・ウェスト&コンシークエンスの「The Good, the Bad, the Ugly」、マッドリブ率いるLootpackの「Answers」など数多くの名曲でサンプリングされた。また、「Love Ritual」もコンシークエンスらにサンプリングされるなど、クレート・ディガーやプロデューサーから時代を超えて愛され続けている。
トラックリスト
- A1 L-O-V-E (Love) 3:03
- A2 Rhymes 3:33
- A3 The Love Sermon 6:36
- A4 There Is Love 3:03
- A5 Could I Be The One 4:05
- B1 Love Ritual 4:18
- B2 I Didn't Know 7:47
- B3 Oh Me, Oh My (Dreams In My Arms) 2:45
- B4 I Gotta Be More (Take Me Higher) 2:45
- B5 I Wish You Were Here 3:17
動画プレイリスト
-
Al Green - L-O-V-E (LOVE) [Official Audio]
-
Al Green - Rhymes (Official Audio)
-
Al Green - The Love Sermon (Official Audio)
-
Al Green - There Is Love (Official Audio)
-
Al Green - Could I Be The One? (Official Audio)
-
Al Green - Love Ritual (Official Audio)
-
Al Green - I Didn't Know (Official Audio)
-
Al Green - Oh Me Oh My (Dreams In My Arms) [Official Audio]
-
Al Green - I Gotta Be More (Take Me Higher) [Official Audio]
-
Al Green - I Wish You Were Here (Official Audio)
このアーティストについて
Al Green(アル・グリーン)は、1946年4月13日生まれのアメリカのソウル/ゴスペル・シンガー、ソングライターだ。アーカンソー州フォレスト・シティ...
Al Green のプロフィール・作品一覧Al Green の他のレビュー