Joe Cocker - Joe Cocker (1972)
Joe Cocker『Joe Cocker』(1972)
1972年にアメリカでA&M Recordsから出たジョー・コッカーのセルフタイトル作。英米で活動してきたシンガーが、70年代前半のソウル、ファンク、ロックの流れの中で、自分の持ち味をかなり明確に打ち出したアルバムだ。ヨーロッパでは別題『Something to Say』で出ているが、US盤はそのまま『Joe Cocker』。A&Mのカタログ番号はSP-4368で、見開きジャケット仕様。
ジョー・コッカーは、しゃがれた声と、歌い出しから強く引っかかるフレーズ運びで知られる歌手で、60年代末の「With a Little Help from My Friends」以降、カバー曲を自分の歌として押し切るタイプの表現で評価を広げてきた。この1972年作でも、その姿勢ははっきりしている。オリジナル曲だけでなく、既存曲や伝承曲、ライブ録音も混ぜながら、曲ごとの温度差をむしろ推進力にしている構成。
制作とバックの布陣
プロデュースはデニー・コーデルとナイジェル・トーマス。演奏面ではクリス・ステイントンを軸にしたバンドと、女性コーラス隊サンクティファイド・シスターズが支える。ステイントンはキーボードとアレンジでも重要な役割を担っており、アルバム全体の骨格をかなり整えている印象がある。ソウル寄りの厚み、ロックの押し出し、ファンクのリズム感が、歌の周囲で自然に噛み合う作り。
クレジットを見ると、A面はTRO-Andover Music, Inc.が中心で、B面にはNo Exit Music、Press Music、Matador Musicなど複数の出版社が並ぶ。こうした構成からも、当時のアルバムがシングル向けの一曲勝負ではなく、異なる曲調を一枚にまとめる設計だったことがうかがえる。
収録曲と聴きどころ
この作品でまず触れたいのが「Midnight Rider」。オールマン・ブラザーズ・バンドの曲を取り上げたもので、シングルとして全米27位を記録した。原曲の南部ロックの質感を保ちながら、コッカーの声で押し出すことで、より土臭く、切迫した感じが前に出る。カバーでありながら、歌い手の個性が曲の輪郭を塗り替えている例。
「Pardon Me Sir」も全米51位、「Woman to Woman」は56位まで上がっており、アルバムから複数のシングルが動いている。「Woman to Woman」は後年になって再注目された曲で、ホーンとピアノのリフが2パックの「California Love」にサンプリングされ、ヒップホップ世代にも届いた。元曲のリズム感とフレーズの粘りが、そのまま別の時代へ引き継がれた形。
さらに「High Time We Went」と「Black-Eyed Blues」は1970年8月録音で、もともと1971年5月に両面シングルとして出ている。こちらは全米22位。アルバムの中では少し前の時期の録音になるが、コッカーのライブ感のある歌唱とバンドの一体感が強く出ている。加えて「Do Right Woman」と「St. James Infirmary」はライブ録音で、スタジオ盤の整った質感の中に、現場の空気を差し込む役割を持つ。
B4の「St. James Infirmary」については、バックカバーではFrey Assunto、ラベルではTraditionalとされる版があり、別エディションではJoe Primroseクレジットのものもある。こうした差異は、当時の盤ごとの細かな違いとして面白い。
アルバムの位置づけ
1972年のジョー・コッカーは、すでに“名曲を自分の声で再構築する歌手”としての立場を固めていた時期で、このアルバムもその延長線上にある。ブルース、ソウル、ロックを行き来しつつ、曲の出自よりも歌の熱量が前面に出る作り。70年代前半のA&M作品らしい、演奏の密度とポップなわかりやすさの両方がある。
同時代の文脈で見ると、レオン・ラッセル周辺のスワンプ寄りの感触や、南部色の強いロック、R&Bの影響をまとったブリティッシュ・シンガーの流れと重なる部分がある。一方で、コッカーの歌は技巧を見せる方向ではなく、声のざらつきとフレーズの食い込みで引っぱるタイプ。そこが、この時期の他のシンガーと並べたときのはっきりした個性になっている。
リリース当時の動き
発売直前の1972年10月、コッカーはオーストラリア・ツアー中にアデレードでバンドメンバーとともに薬物所持で逮捕され、その後国外退去となった。この騒動は当時の周辺事情として知られているが、アルバム自体は同年11月に米国でリリースされた。作品の中身は、そうした外側の騒がしさとは別に、演奏と歌のまとまりで押してくる内容だ。
US盤A&Mの初出オリジナルとしては、70年代初頭のコッカーの勢いと、ソウル/ファンク/ロックの接点をそのまま切り取った一枚。カバー曲の扱い、ライブ録音の差し込み、複数のヒットシングル、そして後年のサンプリングまで含めて、曲単位でもアルバム単位でも追いどころの多い作品になっている。
トラックリスト
- A1 Pardon Me Sir 3:37
- A2 High Time We Went 4:25
- A3 She Don't Mind 3:13
- A4 Black-Eyed Blues 4:37
- A5 Something To Say 5:00
- B1 Midnight Rider 4:00
- B2 Do Right Woman 7:00
- B3 Woman To Woman 4:26
- B4 St. James Infirmary 6:10