Mtume - Juicy Fruit (1983)
Mtume『Juicy Fruit』(1983年、US/Epic)
Mtumeの『Juicy Fruit』は、1983年にUS Epicから出た3作目のアルバム。ジェームス・ムトゥーメとレジー・ルーカスを軸にしたグループの代表作で、80年代R&Bの流れの中でも、ファンク、ディスコ、メロウな歌ものがきれいにまとまった一枚として知られている。タイトル曲の存在感が大きく、アルバム全体の印象もそこで強く決まる作品だ。
Mtumeというバンドの位置づけ
Mtumeは1978年に結成されたアメリカのR&B/ジャズ・ファンク・バンドで、中心人物はジェームス・ムトゥーメとレジー・ルーカス。ジェームス・ムトゥーメは、70年代前半にマイルス・デイヴィスのバンドでパーカッションを担当していた経歴を持つ人物でもある。そうした背景もあって、Mtumeの音にはファンクのリズム感だけでなく、演奏の組み立て方に独特の余裕がある。
80年代に入ると、Mtumeは「Juicy Fruit」「So You Wanna Be A Star」「You, Me and He」などのヒットで存在感を強めた。本作はその中核にある作品で、グループの名前を広く知らしめたアルバムとして扱われることが多い。ジェームス・ムトゥーメとレジー・ルーカスは作家/プロデューサーとしても実績があり、ステファニー・ミルズの「Never Knew Love Like This Before」を共作してグラミー賞を受賞している。
録音と制作
本作はMtume-Lucas Productionsの制作で、ニュージャージーのE.A.R.S. Recording Studioで録音とミックスが行われた。マスタリングはロサンゼルスのA&M Studios。クレジット上では、タワサ・エイジーのボーカルが大きくフィーチャーされている。
アルバムの核になるのはタイトル曲「Juicy Fruit」。ジェームス・ムトゥーメの作詞・作曲・プロデュースで、リード・ボーカルはタワサ・エイジー。Linn LM-1のドラムマシンを使い、一晩のセッションで形にしたとされる。リズムは乾いていて、ベースとボーカルの間に余白があり、音数を絞った作りが印象に残る。派手な展開で押す曲ではなく、同じフレーズを粘り強く回していくタイプのトラックだ。
ヒット曲としての「Juicy Fruit」
シングル「Juicy Fruit」は1983年6月4日付のBillboard R&Bチャートで1位を記録し、8週連続で首位を保った。Hot 100では45位、全英チャートでは34位。ポップ・チャートで大きく跳ねたわけではないが、R&Bでは非常に強い成果を残している。アルバムもBillboard 200で26位、R&Bアルバム・チャートで3位を記録した。
7インチ・シングルでは、歌詞の一部が差し替えられている。アルバム版と別の歌詞を持つ版があることも、この曲の定番的な話題のひとつ。本盤に収録されるのはアルバム用のバージョンで、マスターノートには4分半ほどの版と6分ほどの版が存在すること、後年のCD再発では12インチ向けの6分版が収録されることがあるとされている。
アルバムの聴きどころ
『Juicy Fruit』は、タイトル曲の強さだけで終わらない。ジェームス・ムトゥーメとタワサ・エイジーのデュエット「Would You Like to (Fool Around)」は、アルバムの中でもポップさが際立つ曲として知られる。全体としては、ジャズ寄りの演奏感を残しながら、80年代R&Bの滑らかな質感へ寄せていく流れが見える。派手なホーンで押し切るファンクというより、ビート、ベース、ボーカルの配置で聴かせる作り。
実際に耳にすると、まずリズムの置き方がはっきりしている。音の隙間が多く、ボーカルが前に出るため、フックが残りやすい。タイトル曲は特に、反復するラインと低音の動きが印象に残る構成で、後のヒップホップ・サンプリングとの相性のよさも納得しやすい。メロウさの中に、打ち込みと生演奏が近い距離で並ぶ感触がある。
ヒップホップへの影響
このアルバム、とくに「Juicy Fruit」は、後年のヒップホップで繰り返し参照された。なかでも有名なのが、ノトーリアスB.I.G.の「Juicy」。Tony Humphriesによるインストゥルメンタル・リミックスを使ったこの曲は、Mtumeのタイトル曲が90年代ヒップホップにどう受け継がれたかを示す代表例になっている。元曲のメロディと質感が、そのまま別の時代のヒットに接続した形だ。
Epic盤としての1983年オリジナル
このUS Epic盤は1983年当時のオリジナル仕様で、レーベルはCBS傘下のEpic Records。80年代のEpicはR&Bやポップのヒットを多く抱えていた時期で、本作もその流れの中にある。ジャケット、レーベル表記、音源の収録形態まで含めて、当時のUS盤ならではの空気がある。後年の再発盤では曲の尺や収録内容が変わることがあるため、1983年のオリジナルとしてのまとまりを押さえておくと、このアルバムの見え方が少し変わる。
Mtumeの『Juicy Fruit』は、80年代R&Bのヒット作でありながら、後のサンプリング文化の土台としても重要な一枚。グループの代表曲がアルバムの中心にあり、その曲がさらに別の世代へ広がっていった流れまで含めて、この作品の輪郭が見えてくる。
トラックリスト
- A1 Green Light 5:18
- A2 Juicy Fruit 6:00
- A3 Hips 5:44
- A4 Would You Like To (Fool Around) 3:37
- B1 Your Love's Too Good (To Spread Around) 4:47
- B2 Hip Dip Skippedabeat 5:08
- B3 Ready For Your Love 3:55
- B4 The After 6 Mix (Juicy Fruit Part II) 3:21