Pink Floyd - Wish You Were Here (1975)
Pink Floyd / Wish You Were Here(UK盤・1975年)
Pink Floydの『Wish You Were Here』は、1975年に発表された9作目のスタジオ・アルバムで、同年のUK盤はHarvest(SHVL 814)から登場した。前作『The Dark Side of the Moon』の巨大な成功のあとに置かれた作品であり、バンドの中でも特に重要な位置にある1枚だ。プログレッシブ・ロックの文脈で語られることが多いが、単に技巧を並べた作品ではなく、喪失感や不在、音楽業界への距離感を、長い組曲と明確な曲構成の両方でまとめたアルバムとして印象が残る。
アルバムの輪郭
録音は1975年1月から7月にかけてアビイ・ロード・スタジオで行われ、9月12日に発売された。収録曲は全5曲で、冒頭と終盤を大曲「Shine On You Crazy Diamond」が挟み込む構成になっている。中核にあるのは、かつてのバンドの中心人物であるSyd Barrettへの追悼の意味合いを持つこの組曲で、Pink Floydの歴史を知るうえで外せない要素になっている。
演奏面では、David Gilmourのギター、Roger Watersのベースとボーカル、Richard Wrightの鍵盤群、Nick Masonのドラムが、過不足なく配置されている。派手に前へ出る瞬間は多くないが、音の置き方が細かく、空間の使い方にかなり意識が向いている。実際に聴くと、各パートが密に鳴っているのに、音像の中に余白がある。そこがこの作品の特徴としてはっきりしている。
収録曲と代表曲
このアルバムでまず触れたいのは「Shine On You Crazy Diamond」。前後に分割され、アルバム全体の骨格を作る曲で、Pink Floydの代表作として定着している。ゆっくり立ち上がるシンセやギターのフレーズ、淡々と進むリズム、そして終盤に向けて少しずつ輪郭がはっきりする流れが、バンドの持つ構築力をそのまま示している。
タイトル曲「Wish You Were Here」は、アルバムの中でも特に分かりやすいメロディを持つ。アコースティック・ギターを軸にした曲で、ラジオ向きのまとまりもある一方、歌詞には不在や距離の感覚が強く出ている。シングルとしても知られ、アルバム全体の重さを少しだけ外側から見せる役割も担っている。
「Welcome to the Machine」と「Have a Cigar」は、音楽産業への視線が前面に出る2曲。機械的な手触りの音作りと、業界の空気を皮肉るような言葉が並び、前作の宇宙的・内省的な広がりとは別の角度からPink Floydを見せている。特に「Have a Cigar」は、バンド自身ではない人物が歌う形で知られ、アルバムの中で少し異物感のある存在になっている。
初回UK盤の仕様
今回のUK初回盤は、黒いシュリンクラップで覆われ、その外側に丸い『Wish You Were Here』ステッカーが貼られていた仕様で知られる。ジャケットは開口部が上中央にあり、ダイカットのインナー・スリーブと、ダイビング・マンのポストカードが付属する。初回盤ではこのカードの縁がギザギザになっている点も特徴的だ。内袋のカットやスパインの形状にも複数の差異があり、Matrix A1 / B3 が最初期プレスとして扱われている。
レーベル面には「℗ 1975 Pink Floyd Music Ltd.」「Made in Gt Britain」とあり、収録曲クレジットでは1面の「Shine On You Crazy Diamond Part 5」が「Waters-Gilmour-Wright」と表記されている点も、この時期ならではの記録として残る。スリーブには「Recorded at Abbey Road Studios, January to July 1975」と明記され、制作の場所と期間がはっきり示されている。
Syd Barrettのエピソード
この作品を語るとき、1975年6月5日にアビイ・ロード・スタジオへSyd Barrett本人が現れた出来事は避けられない。バンドが「Shine On You Crazy Diamond」のプレイバックを行っていた最中、以前とは大きく姿を変えたBarrettがふらりと現れ、メンバーはすぐに彼だと気づけなかったという。楽曲が彼に向けられたものであることを思うと、かなり重い場面だが、アルバムのテーマをそのまま象徴する出来事でもある。
当時の位置づけ
1975年の発売時点で、このアルバムはすでに前作の大成功という比較対象を背負っていた。実際、初動ではその前作ほどの即効性は求められていなかった一方、内容はより内向きで、業界への距離感もはっきりしている。全英1位、全米1位を記録し、各国でも首位を獲得した事実は、作品の評価が時間とともに広がったことを示している。70年代のプログレッシブ・ロックの中でも、長尺曲と明快な歌ものを同居させた構成は、同時代のYesやGenesisとはまた違う形で受け止められた。
Pink Floydにとって『Wish You Were Here』は、技巧の誇示よりも、欠落や記憶をどう音にするかへ軸を移した作品として残る。派手な展開だけでなく、静かな部分の持続が強い。そこにこのアルバムの輪郭がある。
トラックリスト
- Shine On You Crazy Diamond (1-5)
- A2 Welcome To The Machine
- B1 Have A Cigar
- B2 Wish You Were Here
- Shine On You Crazy Diamond (6-9)