Herbie Hancock - Sunlight (1978)
Herbie Hancock『Sunlight』(1978年・US Columbia)
ハービー・ハンコックの『Sunlight』は、1978年にColumbiaから発表されたアルバムで、70年代後半のジャズとファンク、そして電子音響の接点をそのまま作品にしたような1枚だ。1970年代に入ってからのハンコックは、アコースティックなジャズ・ピアニストという顔に加えて、エレクトリック・ピアノ、シンセサイザー、ヴォコーダーを積極的に取り入れ、より広いリスナーへ届くサウンドを作っていく。その流れの中で『Sunlight』は、本人にとって初のヴォーカル・アルバムでもあり、後の80年代へ続く電子ファンク路線の重要な節目に置かれる作品だ。
制作の中心にあるのは、声と機械の結びつき
このアルバムの大きな特徴は、Sennheiser VSM-201ヴォコーダーの使用にある。ハービー自身の声をシンセサイザーと組み合わせ、言葉をそのまま歌として前面に出すのではなく、機械的な処理を通して音楽の一部にしている。こうした手法は『Sunlight』だけで完結するものではなく、1981年まで続くヴォーカル作品群にもつながっていく。録音はサンフランシスコのThe Automattを中心に行われ、ミックスとマスタリングも同所で実施。ブラス・セクションはロサンゼルスのThe Village Recorder、追加のシンセサイザーはDifferent Fur Trading Co.で録音されており、複数のスタジオをまたいだ制作体制になっている。
プロデュースはハンコックとデヴィッド・ルビンソンの共同。シンセサイザー・プログラミングにはパトリック・グリースンが参加している。編成は曲ごとに変化し、バイロン・ミラーとレオン・“ンドゥグー”・チャンクラーのリズム・セクション、レイ・パーカー・Jr.やワウ・ワウ・ワトソンのギター、そして最後の「Good Question」ではジャコ・パストリアスとトニー・ウィリアムスが顔をそろえる。ジャズ、ファンク、フュージョンの周辺で活動していたプレイヤーが集まり、それぞれの個性をそのまま持ち込んだ構図だ。
収録曲と聴きどころ
収録は全5曲。A面には「I Thought It Was You」と「Come Running To Me」という8分台の長尺曲が並び、B面にはタイトル曲「Sunlight」「No Means Yes」「Good Question」が収められている。「I Thought It Was You」はシングルとしても出され、アルバムの顔として機能している。ヴォコーダー越しのフレーズが前に出る一方で、リズムはしっかりとファンクの推進力を保っており、ディスコ以後のダンス・ミュージックの空気も感じさせる。
実際に聴くと、まず音の粒立ちがはっきりしている。ベース、ドラム、シンセ、ブラスがそれぞれ別の場所を占めながら、密度の高いグルーヴを作っていく。特に「Come Running To Me」は、長尺ながらテンポの変化とアンサンブルの抜き差しが明快で、アルバムの中でもジャズ寄りの感覚が残る一曲だ。タイトル曲「Sunlight」は、機械的な処理と人力の演奏がぶつかり合うのではなく、ひとつの質感としてまとまっている。音の輪郭が細かく、70年代末のスタジオ作品らしい手触りがある。
「Good Question」では、ジャコ・パストリアスのベースとトニー・ウィリアムスのドラムスが入ることで、他の曲とは少し異なる緊張感が生まれる。フュージョンの文脈で見ると、この曲のように、即興性の強い演奏家と電子処理の強い音像を同じ作品内で並置するやり方が、この時代のハンコックらしい。ジャズの文脈に軸足を置きながら、ファンクやディスコの語法を取り込む姿勢は、同時代のジョージ・デュークやウェザー・リポート周辺とも近いところがある。
作品の位置づけ
『Sunlight』は、ハービー・ハンコックが70年代後半に進めていた電子化の流れを、ヴォーカル作品としてはっきり形にしたアルバムでもある。『Head Hunters』以降の成功で得たファンク路線をそのままなぞるのではなく、声の加工という要素を加えて、新しい表現の形を探っている。ハンコックの代表曲として知られる「Watermelon Man」や「Maiden Voyage」の時代とは明らかに異なるが、アコースティックとエレクトリックを行き来しながら表現の幅を広げていく姿勢は通底している。
チャート面では、ハンコック公式サイトによるとポップ・アルバムで58位、R&Bで31位、ジャズで3位を記録している。批評は一様ではなく、電子ファンクとしての方向性をどう受け取るかで評価が割れた。とはいえ、70年代末のジャズ・フュージョンがどこまでポップスやダンス・ミュージックに接近していたかを示す資料としては、かなり分かりやすい1枚だ。
USオリジナル盤について
今回のUS盤はColumbiaのJC 34907。ColumbiaのJC番号は、1970年代後半の価格帯を示すものとして使われたシリーズで、『Sunlight』の1978年というリリース時期とも合っている。オリジナル盤としてその時代の空気をそのまま閉じ込めた仕様で、録音やミックスの質感を含めて、作品の性格が伝わりやすい。スタジオ録音の精密さと、演奏の生々しさが同居した1978年のハービー・ハンコック、その一断面がこのレコードに収まっている。
トラックリスト
- A1 I Thought It Was You 8:54
- A2 Come Running To Me 8:23
- B1 Sunlight 7:09
- B2 No Means Yes 6:18
- B3 Good Question 8:31