Robert Palmer - Sneakin' Sally Through The Alley (1974)
Robert Palmer『Sneakin' Sally Through The Alley』――英国のシンガーが南部ファンクへ踏み込んだソロ第1作
ロバート・パーマーのソロ・デビュー作『Sneakin' Sally Through The Alley』は、1974年にIsland Recordsから出た作品で、彼のキャリアの出発点を示す1枚だ。ヴァインガー・ジョーで3枚のアルバムを残したあと、パーマーは英国のポップ/ロック系ヴォーカリストとしての持ち味を保ちながら、米国南部のファンクやR&Bに真正面から向き合っている。ここで聴けるのは、のちの洗練されたソロ路線の前段階というより、むしろ最初から相当な幅を持っていた歌い手としての姿である。
録音面の顔ぶれがまず強い。ニューオーリンズ側にはザ・ミーターズのアート・ネヴィル、レオ・ノセンテリ、ジョージ・ポーター・ジュニア、ジガブー・モデリステが参加し、ニューヨーク側ではバーナード・パーディ、リチャード・ティー、コーネル・デュプリーらが土台を固める。ギターにはリトル・フィートのローウェル・ジョージ、さらにスティーヴ・ウィンウッド、メル・コリンズ、モンゲジ・フェザも加わっていて、ソロ作というより、各地のリズム感と演奏感覚を集めたセッション作品の色が濃い。
ニューオーリンズとニューヨークをまたぐ演奏陣
この盤の聴きどころは、パーマーの歌が大きな編成の中で埋もれず、むしろ前に出てくるところにある。ミーターズの粘りのあるグルーヴ、パーディやティーらの都会的なリズム、ローウェル・ジョージの乾いたギターが並ぶと、曲ごとに空気が変わる。だが全体は散らばらず、スティーヴ・スミスのプロデュースのもとでまとまっている。
実際に聴くと、ファンク寄りの曲でも音数で押す場面は少なく、ベースとドラムの隙間にヴォーカルを差し込む作りが目立つ。パーマーは派手に張り上げるより、フレーズの置き方で引っ張るタイプで、そこがこの作品ではよく機能している。後年のヒット作で見せる都会的なスマートさとは少し違い、ここではもっと泥臭いリズムの中で歌っている印象が残る。
曲の核になるカバーとオリジナル
収録曲では、アラン・トゥーサン作のタイトル曲「Sneakin' Sally Through The Alley」がまず重要だ。ニューオーリンズ色の濃い素材を、英国のシンガーが自分のアルバムの核に置いている構図が面白い。続く「From a Whisper to a Scream」も同じくトゥーサン作で、この盤が南部ファンクの文脈にしっかり接続していることを示す。
ローウェル・ジョージ作の「Sailin' Shoes」も要所だ。リトル・フィート周辺の感触がそのまま持ち込まれ、ファンクとロックの境目が曖昧になる。パーマー自身の書いた「Hey Julia」「Get Outside」「How Much Fun」「Through It All There's You」では、外部の名手に囲まれながらも、自作曲としての輪郭がきちんと見える。ローウェル・ジョージとの共作「Blackmail」も含め、選曲全体にパーマーの視野の広さが出ている。
初期作としての位置づけ
商業面では大きなヒットには結びつかず、米Billboard 200で107位、英国ではチャート入りしなかった。「Get Outside」はシングルとして出たが、大きな反応は得ていない。一方で、後年の評価は安定して高く、AllMusicでは高評価がついている。派手な売れ行きより、演奏と歌の組み合わせが後から見直された作品だ。
同時代の文脈で見ると、英国のシンガーが米国南部の音楽に深く入っていく流れは、同じIsland周辺の感覚とも近い。ロック、R&B、ファンクを横断する姿勢は、単なるジャンル混成ではなく、曲ごとの身体感覚をどう歌うかという問題に近い。この盤では、パーマーがその入口に立っている。
オリジナル盤の装い
1974年UK盤のIslandレーベルは、ピンクの縁取りがあるセンター・ラベル仕様で、"blue sky"デザインのIslandインナー・スリーヴに収められている。Islandらしい当時の装丁が残る1枚で、レーベルの時代感も含めて味わいがある。ジャケット写真はグレアム・ヒューズによるもので、ジャン=リュック・ゴダールの映画『アルファヴィル』を思わせる構図として知られている。
『Sneakin' Sally Through The Alley』は、ロバート・パーマーがのちに広い層へ届く前の、かなり重要な出発点だ。英国のポップ・ロック・シンガーが、ニューオーリンズのリズム、ニューヨークのセッション感覚、ローウェル・ジョージのギターを受け止めながら、自分の声の置き場所を探している。そこにあるのは、完成度の高さよりも、異なる音楽の流れをまとめて歌い切る初期衝動である。
トラックリスト
- A1 Sailing Shoes
- A2 Hey Julia
- A3 Sneakin' Sally Thru The Alley
- A4 Get Outside
- A5 Blackmail
- B1 How Much Fun
- B2 From A Whisper To A Scream
- B3 Through It All There's You