Yo La Tengo - I Can Hear The Heart Beating As One (1997)
Yo La Tengo『I Can Hear The Heart Beating As One』レビュー
Yo La Tengoの『I Can Hear The Heart Beating As One』は、1997年4月22日に発表された通算8作目のスタジオ・アルバム。ニュージャージー州ホーボーケンで1984年に結成されたこのバンドが、それまで積み重ねてきた音像を一枚にまとめ上げたような作品で、インディー・ロックの文脈では重要な位置に置かれている。US盤はMatadorからのリリースで、レーベル番号はOLE 222-1。今回の盤はオリジナル期のUSプレスで、後年の再プレスとは見分け方が異なる。
作品の輪郭
録音はナッシュビルのHouse of Davidで行われ、プロデュースはRoger Moutenot。ミックスはニューヨークで施されている。全16曲、68分を超える収録時間で、静かなポップ・ソング、ノイズを含んだ厚いギターの層、ささやくような歌声が同じアルバムの中で並ぶ構成。曲ごとの温度差が大きいのに、通して聴くと流れが切れにくい作りになっている。
Yo La Tengoは、同時代のインディー・ロックの中でも、フォーク寄りの静かな曲と、ノイズ・ロック寄りの音の重なりを自然に行き来するバンドとして知られてきた。本作ではその性格がかなり整理され、散漫さよりも曲の並び方や音の配置が前に出ている。Sonic YouthやPavementのような90年代オルタナティヴの文脈と接しつつも、より柔らかい歌心が中心にある盤面。
代表曲と収録曲の話
代表曲としてまず挙がるのは「Sugarcube」。ミュージック・ビデオには『Mr. Show』のBob OdenkirkとDavid Crossが出演しており、曲自体もアルバムの中で比較的はっきり輪郭が立つ。軽い推進力とメロディの通りやすさがあり、バンドの持つポップ感が前面に出た一曲。
「Autumn Sweater」も本作を語るうえで外せない。穏やかなテンポの中で、歌と演奏が少しずつ重なっていくタイプの曲で、アルバム後半の流れに落ち着きを与えている。なお、この盤にはラベル表記の誤りがあり、「Autumn Sweater」はB4として記されず、B5の「Little Honda」に誤った時間表記が付いている。
「Moby Octopad」にはBurt Bacharachの“Bird Bath”の一部が組み込まれている。こうした引用の入れ方も、このアルバムの特徴のひとつ。単にロックの文脈だけで閉じず、ポップ・ソングの歴史をさりげなく引き込む作りになっている。
評価と当時の反応
本作は発売当時から評価が高く、Rolling StoneはYo La Tengoを「ほぼあらゆるポップ・スタイルを使いこなせるバンド」と評した。Pitchforkは9.7点を付け、The Village Voice誌の年間批評家投票“Pazz & Jop”では5位に入っている。これは当時のバンドとしては最高位だった。BillboardのHeatseekers Albumsチャートでも19位を記録し、Yo La Tengoにとって初のチャートインとなった。
後年、Robert Christgauは本作を彼らの「キャリアを象徴する一枚」と評している。実際、このアルバムはYo La Tengoのいろいろな側面を並べただけの作品ではなく、静かな曲、ラフな曲、長めの展開、ノイズの処理が一本の線でつながっている印象が強い。バンドの名前を初めて知る入口としても、既に追っている人にとっての集大成としても機能している。
このUS初期盤について
このUS盤は、バック・スリーブにMatador Recordsの4番目の住所「625 Broadway, New York, NY 10012」が記載されている点で識別できる。付属物としては、印刷の異なるインナー・スリーブが2枚入り、コピーによってはハート形のステッカー3枚が付属している。ステッカーにはそれぞれ「YO」「LA」「TENGO」と書かれている。
また、4面すべてのレーベルが完全にフラットなのもこのプレスの特徴。2002年のUS再発盤では、side 2と3に大きなプレスリングがあるため、そこが見分けの手がかりになる。ランアウトはエッチング中心で、side AとCには「MASTERDISK」のスタンプが入っている。スリーブ上の面表記は「one」「two」「three」「four」、レーベル上は「side one」から「side four」表記になっている。
まとめ
『I Can Hear The Heart Beating As One』は、Yo La Tengoの持つポップさ、ノイズ感、静けさが、1997年時点でかなり高い精度で並んだアルバム。全編を通して派手に飛ばす作品ではないが、曲ごとの輪郭が明確で、アルバムとしての流れも強い。90年代インディー・ロックの中でも、メロディと質感の両方を丁寧に扱った一枚として記憶されている。
トラックリスト
- A1 Return To Hot Chicken 1:38
- A2 Moby Octopad 5:48
- A3 Sugarcube 3:19
- A4 Damage 4:38
- B1 Deeper Into Movies 5:23
- B2 Shadows 2:26
- B3 Stockholm Syndrome 2:49
- B4 Autumn Sweater 5:17
- B5 Little Honda 3:07
- C1 Green Arrow 5:39
- C2 One PM Again 2:26
- C3 The Lie And How We Told It 3:18
- C4 Center Of Gravity 2:39
- D1 Spec Bebop 10:41
- D2 We're An American Band 6:21
- D3 My Little Corner Of The World 2:24