Amy Winehouse - Back To Black (2006)
Amy Winehouse『Back To Black』をめぐって
Amy Winehouseの『Back To Black』は、2006年に登場した2作目のスタジオ・アルバムで、彼女の名前を世界規模に押し上げた作品だ。ソウル、R&B、ジャズの感触を軸にしながら、60年代のガールグループやモータウンの空気を現代のロンドンに持ち込んだような内容で、当時のポップスの中でもかなり輪郭がはっきりした一枚として残っている。本盤はヨーロッパ盤の2009年プレスで、オリジナルの2006年盤より後年に出た再発LPにあたる。
作品の位置づけ
このアルバムは、Amy Winehouseにとって決定的な代表作であり、最後のスタジオ・アルバムにもなった。前作『Frank』で見せていたジャズ寄りの歌い口や語り口はそのままに、ここでは楽曲の構造がより明快になり、リズムの置き方もはっきりしている。プロデュースはMark RonsonとSalaam Remiが大きな役割を分担し、Ronson側の曲ではThe Dap-Kingsが演奏を支えている。結果として、古いソウルの質感を借りながらも、単なる懐古では終わらない仕上がりになっている。
音の印象は、まずドラムとベースの位置が近い。空間を広く取るより、ボーカルの芯とリズム隊の押しを前に出す作りで、1曲ごとのテンポや温度差がはっきり伝わる。実際に聴くと、声のフレーズの終わり方や、語尾を少し崩して入れる癖が、曲のドラマをそのまま作っている感じが強い。歌唱の細部が、編曲のレトロ感に埋もれず前へ出る構図だ。
代表曲とアルバムの流れ
代表曲としてまず挙がるのが「Rehab」だろう。自伝的な語り口を持つこの曲は、拒絶と反発を短い言葉で切り返す構成で、当時のAmy Winehouseを象徴する一曲になった。全英7位、米Billboard Hot 100で9位という結果も残している。続く「You Know I'm No Good」や表題曲「Back To Black」では、別れと自己破壊が率直な言葉で並び、感情の整理がつかないまま進むような感触がある。
「Love Is A Losing Game」は、その中でもかなり静かな曲で、言葉の少なさが逆に強く残る。派手な展開はなく、声と伴奏の間隔だけで持たせている印象だ。アルバム全体でもこの曲は、前半の勢いと後半の沈み込みのあいだに置かれ、作品の重心を作っている。
「Tears Dry On Their Own」では、Marvin Gaye & Tammi Terrellの「Ain't No Mountain High Enough」を下敷きにした構成が採られている。元ネタの明るさをそのままなぞるのではなく、リズムの推進力だけを借りて、歌詞の側はかなり違う温度で進む。こうした引用の使い方も、このアルバムの特徴のひとつだ。
制作背景とサウンド
制作面では、Mark Ronson担当曲がブルックリンのThe Dap-Kingsによる演奏で支えられ、60年代ソウルやガールグループを思わせる骨格を作っている。一方、Salaam Remi担当曲はマイアミのInstrument Zooで録音され、より柔らかいR&Bの流れを持つ。両者の違いが大きく出すぎず、同じアルバムとしてまとまっている点が重要だ。
歌詞面では、Blake Fielder-Civilとの関係が大きな背景にある。楽曲の多くは恋愛の回想や断絶を主題にしていて、内容の重さがそのままタイトルやフレーズに残る。とはいえ、私小説的な内容に寄りすぎず、60年代ソウルの文法に乗せることで、個人的な事情がポップソングとして成立している。
2009年ヨーロッパ盤について
この2009年のヨーロッパ盤は、オリジナルの2007年プレスの後に出た再発LPで、インナースリーブの厚みが初回盤よりしっかりしているという差がある。ラベルはUniversal Records表記で、EU製造。クレジット上は℗ 2007 Universal Island Records Ltd.、© 2007 Universal Island Records Ltd.となっており、作品自体は2006年のアルバムとして扱うのが自然だ。
盤の仕上げとしては、ランアウト部に刻印とスタンプが混在している。細かな話ではあるが、こうした再発盤の違いは、コレクションとして見たときに記録しておきたい部分でもある。
評価とその後
『Back To Black』は、英国で大きな成功を収め、2007年には全英アルバムチャート1位を記録した。米国でもBillboard 200で7位に入り、2008年のグラミー賞では主要部門を含む受賞を重ねている。特に「Rehab」は最優秀レコードと最優秀楽曲を獲得し、アルバム自体も最優秀ポップ・ボーカル・アルバムに選ばれた。のちに『Rolling Stone』の「史上最高のアルバム500」に入ったことも、この作品の位置を示している。
同時代の文脈で見ると、Amy Winehouseは単にソウル回帰をした歌手ではなく、2000年代のUKポップ/R&Bの中で、歌詞の生々しさと編曲の古典性を同時に前へ出した存在だった。DuffyやJoss Stoneのような同時期の英国女性ソウル歌手と並べられることはあるが、ここでの個性は、声の擦れ方と語りの鋭さにある。そこが『Back To Black』を、流行の再現ではない一枚として残している。
トラックリスト
- A1 Rehab
- A2 You Know I'm No Good
- A3 Me & Mr Jones
- A4 Just Friends
- A5 Back To Black
- A6 Love Is A Losing Game
- B1 Tears Dry On Their Own
- B2 Wake Up Alone
- B3 Some Unholy War
- B4 He Can Only Hold Her
- B5 Addicted