Aretha Franklin - This Girl's In Love With You (1970)
Aretha Franklin『This Girl's In Love With You』(1970)
1970年にアトランティック・レコードから出たアレサ・フランクリンの16作目のスタジオ・アルバム。前年までに確立していた“クイーン・オブ・ソウル”としての立ち位置を、そのまま強く押し広げた内容で、ソウルを軸にしながらポップやロックの楽曲も自分の表現に引き寄せている。タイトルはバート・バカラックの同名曲から取られているが、アルバム全体は単なるカバー集ではなく、当時の黒人音楽の中心にいたアレサが、同時代のヒット曲をどう歌い直すかに焦点がある作品として聴ける。
録音と制作の背景
制作はジェリー・ウェクスラー、トム・ダウド、アリフ・マーディンというアトランティックの中核スタッフが担当している。演奏面ではマッスル・ショールズ・リズム・セクションが土台を支え、デュアン・オールマンがスライド/スティール・ギターで参加、キング・カーティスのテナー・サックス、スウィート・インスピレーションズのコーラスも加わる。録音はニューヨークのアトランティック・スタジオと、マイアミのクライテリア・スタジオで行われた。収録曲のうち「Dark End Of The Street」「Eleanor Rigby」「This Girl's In Love With You」「Call Me」はクライテリア録音、それ以外はアトランティック録音という構成で、スタジオごとの空気の違いも感じやすい。
この時期のアレサは、ゴスペル由来の歌唱をベースにしながら、ポップスやロックの素材を自分の語法に変えていく段階にある。本作でもその動きがはっきりしていて、原曲の輪郭を残しつつ、フレーズの置き方や間の取り方で曲の重心が変わる。聴感上は、歌が前に出るというより、歌が曲の構造そのものを組み替えていく感じが強い。
収録曲の注目点
もっとも知られているのは、やはり「Let It Be」の先行録音。ポール・マッカートニーがアレサとアトランティック側にデモを送っており、アレサ版はビートルズ自身のシングル発表より先に商業リリースされた最初の録音になった。原曲の持つ祈りのような性格が、アレサの歌唱でさらに直接的になり、教会音楽に近い強度を持つ仕上がりになっている。
「Eleanor Rigby」も印象的で、ビートルズの楽曲にある孤独感を、そのまま冷たく置くのではなく、声の圧で包み込むように歌う。「The Weight」はザ・バンドの曲だが、アレサの版では伴奏の推進力と歌の応答がはっきりし、原曲とは別のソウル・ナンバーとして機能する。「Son of a Preacher Man」は、もともとアレサに話が来たが彼女が断り、のちにダスティ・スプリングフィールドのヒットで知られるようになった曲。アレサが本作で取り上げている点も面白い。
シングルでは、自作の「Call Me」がR&Bチャートで2週連続1位、ポップ・チャートでも13位まで上昇した。B面は「Son of a Preacher Man」。また「Share Your Love with Me」は1970年のグラミー賞で最優秀女性R&Bボーカル・パフォーマンスを受賞している。アルバムとしてはBillboardのトップ20に入っており、当時のアレサが商業面でも強い存在だったことが分かる。
USオリジナル盤の特徴
今回のUS盤はAtlantic SD 8248。1970年のオリジナル期のプレスで、後年の再発盤とは時代が異なる。アトランティックのこの時期のLPは、レーベルやマトリクス表記からプレス工場をたどれることがあり、コレクター的にはそこも見どころになる。この作品のような70年前後のアトランティック盤は、同じタイトルでも後年の流通盤とは見え方が変わることがあるが、音楽そのものは当時の制作意図がより素直に出る初出時の空気がある。
同時代の文脈
1960年代後半から70年代初頭にかけて、女性ソウル・シンガーがポップやロックの名曲を自分のレパートリーに組み込む流れがある。その中でもアレサは、単に“歌いこなす”だけでなく、曲の意味を塗り替える力が強い。マッスル・ショールズ勢やデュアン・オールマンの参加も、その時代の南部ソウルとロックの接点をよく示している。スライやダニー・ハサウェイのような同時代の黒人音楽の変化とも地続きの感触があり、ソウルの語彙が広がっていく局面の一枚として見ておきたい。
『This Girl's In Love With You』は、アレサの声の強さだけで押し切る作品ではなく、曲ごとに素材の出自を見せながら、それを黒人音楽の文脈へ引き寄せるアルバム。ヒット曲の存在、録音地の切り替え、そしてビートルズやザ・バンドの楽曲を取り込む選曲が、1970年のアレサの現在地をよく伝えている。ソウル・アルバムとしての芯がありつつ、当時のポップ・ミュージック全体を巻き込む視野も持った一枚。
トラックリスト
- A1 Son Of A Preacher Man 3:14
- A2 Share Your Love With Me 3:16
- A3 Dark End Of The Street 4:40
- A4 Let It Be 3:28
- A5 Eleanor Rigby 2:35
- B1 This Girl's In Love With You 3:46
- B2 It Ain't Fair 3:20
- B3 The Weight 2:52
- B4 Call Me 3:47
- B5 Sit Down And Cry 3:49