The Can - Monster Movie (1969)
Can 1969

The Can - Monster Movie (1969)

Rock Prog Rock Krautrock

The Can『Monster Movie』

Canの『Monster Movie』は、1969年7月25日にケルン郊外のSchloss Nörvenichで録音された記念碑的デビュー作で、のちに1970年に西ドイツのLibertyから商業流通盤として出た作品。もともとはMusic Factoryから500枚限定で私家盤として出ていたもので、Liberty盤はその後に続く最初の正式な流通版にあたる。レーベル表記はLIBERTY / UA GMBH, MÜNCHENで、後年のプレスではUNITED ARTISTS RECORDS GMBH MÜNCHEN表記に変わっていく。ジャケット前面はラミネート仕様。

制作背景と録音の経緯

Canは、現代音楽家カールハインツ・シュトックハウゼンに師事していたホルガー・シューカイとイルミン・シュミット、フリージャズ界で活躍していたドラマーのヤキ・リーベツァイト、シューカイの教え子だったギタリストのミヒャエル・カローリを中心に結成された。美術収集家クリストフ・フォーヴィンケルの好意でケルン郊外の古城Schloss Nörvenichに拠点を置き、軍用マットレスを壁に敷き詰めて作られた手作りのInner Space Studioで録音されたのが本作である。当初在籍していたフルート奏者のデヴィッド・ジョンソンが去った後、旅行中に出会ったニューヨーク出身のアフリカ系アメリカ人彫刻家/詩人のマルコム・ムーニーが加入し、呪術的で反復的なボーカルによってバンドの方向性を決定づけた。

当初制作した『Prepared to Meet Thy Pnoom』(のちに『Delay 1968』として発表)がレコード会社に受け入れられなかった経緯があり、1969年7月に本作をライブ録音した。B面全体を占める「Yoo Doo Right」は、約6時間にわたる即興演奏のオープンリール・テープを、ホルガー・シューカイがカミソリの刃とテープを使って20分超に編集・凝縮して生み出された。A面の楽曲群とあわせ、生演奏の即興性とテープ編集の両方が作品の強固な骨格となっている。

初回の私家盤では、表ジャケットにジャック・カービーによるマーベル・コミック『Thor #134』のギャラクタスのイラストが無断流用されていたことも知られている。Liberty/UA盤では、その同じマスターとプレートを使いながら、ライナーやラベルの表記を整えて正式発売に至った。ラベルのクレジット位置がタイトル下に入る版は、右側配置の別版よりやや後発とされている。

サウンドと楽曲の聴きどころ

冒頭を飾る「Father Cannot Yell」は、The Velvet Undergroundの「European Son」を彷彿とさせる執拗なベースラインと、機械のように精緻なヤキ・リーベツァイトのドラミング、ミヒャエル・カローリの金属的なノイズ・ギター、そしてマルコム・ムーニーの強迫観念めいた語り口が一体となったアグレッシブな幕開けとなっている。

続く「Mary, Mary, So Contrary」は、英国の伝統的な童謡(マザーグース)の詞を借用し、引きずるようなスロー・ビートとサイケデリックなギターが妖しげな空間を作り出す。「Outside My Door」の猛烈なガレージ・ロック調の疾走を経て、B面全体を占める大曲「Yoo Doo Right」では、催眠的なファンク・グルーヴと呪文のようなリフレインが徐々に熱を帯び、ミニマリズムとロックの究極の融合を聴かせる。ここで聴かれるヤキ・リーベツァイトのドラミングは「人間メトロノーム」とも称され、のちのクラウトロックを象徴するモトリック・ビートの先駆けとなった。

時代の文脈

1960年代末の西ドイツでは、英米のポップやロックの模倣から離れた独自の表現を探る動きが進み、Canはアモン・デュールやタンジェリン・ドリームと並ぶ存在として語られてきた。『Monster Movie』は、現代音楽、フリージャズ、サイケデリック・ロック、ミニマリズムが交差する初期クラウトロックの一作。ここではバース・コーラスの定型やブルース進行から離れ、反復と持続を軸にした構成が前面に出ている。

録音当時、マルコム・ムーニーは過酷な制作環境と精神的負荷から衰弱し、精神科医の勧めもあって1969年末にバンドを離脱してアメリカへ帰国した。この離脱が、翌年のダモ鈴木加入へとつながっていく。本作は、Canの初期編成と録音美学をそのまま刻んだ貴重な記録でもある。

後世への影響

後年の評価では、『Monster Movie』はクラウトロックと実験的ロックの金字塔として確固たる地位を築いた。特に「Yoo Doo Right」は、シン・ホワイト・ロープやループをはじめとする後続バンドにカバーされている。ホルガー・シューカイのテープ編集の手法は、サンプリングやループを使う現代のダンス・ミュージックやヒップホップの手法を先取りしていたと評されている。

影響先としては、The Fallのマーク・E・スミスが熱心な支持者として知られ、「I Am Damo Suzuki」を発表しているほか、ジョン・ライドン率いるPiL、ジョイ・ディヴィジョン、スージー・アンド・ザ・バンシーズ、ソニック・ユース、ステレオラブ、プライマル・スクリーム、レディオヘッド、LCDサウンドシステムなどの名前が挙げられている。発売当時はアンダーグラウンドでの限られた反響にとどまったものの、のちにCanの原点にして最高傑作のひとつとして広く見直されていった。

トラックリスト

  1. A1 Father Cannot Yell 7:01
  2. A2 Mary, Mary, So Contrary 6:16
  3. A3 Outside My Door 4:06
  4. B Yoo Doo Right 20:14

動画プレイリスト

公開: 2026年11月

このアーティストについて

Can

Can

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