Grover Washington, Jr. - Inner City Blues (1971)
Grover Washington, Jr. 1971

Grover Washington, Jr. - Inner City Blues (1971)

Jazz Funk / Soul Jazz-Funk Soul-Jazz

Grover Washington, Jr.『Inner City Blues』について

Grover Washington, Jr.の『Inner City Blues』は、1971年にKuduから出たデビュー・アルバムである。のちにスムース・ジャズの文脈で語られることの多い人物だが、この初作ではすでに、ソウル・ジャズとジャズ・ファンクのあいだを自然に行き来する感覚がはっきりしている。サックスの主役感は強い一方で、全体の設計はかなり丁寧で、リズム、ホーン、コーラス、エレクトリック・ピアノがきれいに組み上がったCTI周辺らしい作りになっている。

録音は1971年9月、ニュージャージー州イングルウッド・クリフスのVan Gelder Studio。プロデュースはCreed Taylor、録音エンジニアはRudy Van Gelder、アレンジと指揮はBob Jamesが担当している。参加メンバーも強力で、Richard Teeのオルガン、Eric Galeのギター、Ron Carterのベース、Idris Muhammadのドラム、Airto Moreiraのパーカッションと、当時のCTI/Kuduを代表する顔ぶれが並ぶ。Washington自身はアルトとテナーの両方を吹いていて、曲ごとに音色の出し分けがあるのも面白いところだ。

デビュー作としての位置づけ

この作品は、偶然から始まったデビュー作として知られている。もともと予定されていたHank Crawfordが参加できなくなり、その代役としてWashingtonが呼ばれた流れが、初のリーダー作につながったとされる。結果として、ここでの演奏がその後のキャリアの土台になった。後年の大きなヒットや、より洗練されたサウンドの先にある原点として聴くと、すでに演奏の芯が見える内容である。

タイトル曲「Inner City Blues」は、Marvin Gayeの『What's Going On』収録曲のカバー。原曲の持つ社会性や緊張感をそのまま引きずるというより、ホーン・アレンジとグルーヴで再構成している。続く「Mercy Mercy Me (The Ecology)」も同じくGaye曲で、当時のソウルの空気をジャズ・ファンクの編成へ持ち込んだ形。ここでは、楽曲のメッセージ性と演奏の推進力が並行して進む印象がある。

収録曲と演奏の見どころ

選曲はソウル・ヒットとスタンダードが中心で、「Ain't No Sunshine」では短いメロディの反復がそのままアンサンブルの芯になっている。「Georgia On My Mind」や「I Loves You Porgy」では、いわゆるジャズの定番曲を、重心の低いリズムと厚めの伴奏で包み込む。原曲の輪郭は残しつつ、Kuduらしい都会的な録音感が前に出る作りである。

演奏面で目立つのは、Washingtonの音が前に出すぎず、それでも埋もれない点。派手なフレーズの連打よりも、歌うような息づかいと、フレーズの置き方で曲の流れを作っている。Bob Jamesのアレンジも、ソロを押し出すだけではなく、ホーンの受け答えやコードの動きで曲の景色を変えていく。Idris MuhammadとRon Carterの組み合わせも強く、ファンク寄りのノリを保ちながら、ジャズの柔らかさを失っていない。

当時の文脈の中で

1971年という時期は、ジャズがソウルやファンクと深く交わっていた時代である。CTI周辺の作品群、たとえばBob JamesやDeodato、George Bensonらの録音と並べると、このアルバムもその流れの中にしっかり位置している。一方で、Washingtonの持ち味は、のちの『Mister Magic』や『Just the Two of Us』につながる、メロディの運び方と親しみやすい音色にある。ここではまだデビュー作らしい緊張感があるが、その後の方向性はすでに見えている。

評価も高く、AllMusicではThom Jurekが「驚くべきデビュー作」と記している。The Penguin Guide to Jazz Recordingsでも好意的に扱われており、初期Grover Washington, Jr.を語るうえで外せない一枚として定着している。レーベルのKuduも、CTIより少しR&B寄り、より商業的な感触を持つ作品を打ち出すための場として機能しており、このアルバムはその方向性をわかりやすく示している。

まとめ

『Inner City Blues』は、Grover Washington, Jr.の出発点であり、ソウル・ジャズとジャズ・ファンクの接点を1971年の録音で具体化した作品である。Marvin Gayeの楽曲を軸にしながら、CTI/Kudu系の精密なプロダクション、Van Gelder Studioの録音、Bob Jamesのアレンジが重なり、デビュー作としてはかなり完成度の高い内容にまとまっている。のちのヒット作のような広い認知とは別に、ここにはすでに彼の音楽の核がある。

トラックリスト

  1. A1 Inner City Blues 7:12
  2. A2 Georgia On My Mind 4:37
  3. A3 Mercy Mercy Me (The Ecology) 5:10
  4. B1 Ain't No Sunshine / Theme From "Man And Boy" ("Better Days") 8:30
  5. B2 Until It's Time For You To Go 4:40
  6. B3 I Loves You Porgy 5:05

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
Share
戻る

あわせて聴きたい "Soul-Jazz"

toast