Mike Oldfield - Amarok (1990)
Mike Oldfield『Amarok』
マイク・オールドフィールドが1990年5月にVirgin Recordsから発表した13作目のスタジオ・アルバム。前作『Earth Moving』(1989年7月)でのポップ路線から一転し、パート分けのない全1曲・60分02秒の長尺インストゥルメンタルとして組み立てられた作品で、LPではA面(30分00秒)とB面(30分04秒)に分けて収録されている。ヨーロッパ盤のこのレコードは、VirginのV 2640番で登場した。
制作背景・エピソード
制作のきっかけは、1989年8月にBBC Radio 1のセッションで『Tubular Bells』の7分間の抜粋を自ら演奏したことだったという。前作『Earth Moving』ではヴァージン側の意向に従って全編ボーカル曲のポップ路線を採ったものの、本国イギリスで不振に終わりレーベル側から批判を受けていた。1991年1月1日の契約満了までに残っていたアルバム2枚分を消化する時期でもあり、そのときの手応えを出発点に、オールドフィールドはヴァージン側から求められていた商業的な曲作りを外し、ファンを喜ばせると同時にレーベルの重役たちを困らせる「個人的な復讐(怒りのプロテスト・アルバム)」として『Amarok』をまとめた。ラジオ向きの3分間のシングルとして切り出せそうな反復パートも意図的に寸断し、シングル・カットできない構造に仕立てられている。
録音はバッキンガムシャー州チャルフォント・セント・ジャイルズの自宅スタジオ「Roughwood Croft」で行われ、共同プロデューサー兼エンジニアとして『Tubular Bells』にも関わったトム・ニューマンが参加した。2人は制作期間中、アルコールやドラッグを断ち、平日10時から18時までの規則正しい作業を続けたという。機材面では1980年代に多用していたFairlight CMIやC-Labシーケンサーを極力排し、1908年製のベビー・グランド・ピアノ、各種ギター、ハモンド/ファルフィッサ/ローリー・オルガン、民族打楽器などを手作業で重ねていった。48トラック・レコーダーとHarrison製ミキシング・コンソール、AMS Neve製アンプとBrüel & Kjær製マイクを組み合わせたことで、オールドフィールド自身「これまで自分が作ったどの作品よりもはるかに良い音になった」と語っている。ライナーノーツには「not much synth at all really(シンセは実際のところほとんど使っていない)」とあり、日用品の音も多く使われている。靴、掃除機(Hoover)、スプーン、椅子、水の入ったコップ、歯ブラシと歯、模型飛行機の工具箱の中身、さらに太ももを平手で叩いた音をAMSシステムに通して作ったバスドラム/スネア音まで素材になっている。
開始から48分04秒付近には、シンセ・トランペットの音にモールス信号を仕込み、解読するとヴァージン創業者リチャード・ブランソン宛ての「FUCK OFF RB」というメッセージになる仕掛けも入れられた(オールドフィールドは自腹で1,000ポンドの懸賞金をかけてファンに暗号解読コンテストを告知したが、当選者は現れなかった)。裏ジャケットには『Tubular Bells』の注意書きをもじった「健康上の警告:このレコードは耳の詰まった間抜け(cloth-eared nincompoops)の健康を害する恐れがあります」という一文が掲載されている。さらに、トレードマークのチューブラー・ベルは使われているが、クレジット上では「long thin metallic hanging tubes(長くて細い金属製の吊り下げパイプ)」と記されている点も特徴的。
時代の文脈
『Amarok』は、もともと1975年の3rdアルバム『Ommadawn』の精神的続編を目指して始まったとも語られている。完成後、ヴァージン側は『Tubular Bells II』への改題を求めたが、オールドフィールドは「強いて言うならこれは『Ommadawn II』だ」として拒否した。実際の『Tubular Bells II』は、その後の1992年にワーナー移籍後の作品として実現する。
演奏面では、『Ommadawn』に参加したメンバーが再集結している。南アフリカのグループJabula(アフリカン・クワイア、パーカッション)、ザ・チーフタンズのPaddy Moloney(ティン・ホイッスル)、Clodagh Simonds(ボーカル)、Bridget St John(ボーカル)が加わり、『Ommadawn』収録曲「On Horseback」の共作者であるWilliam MurrayはDavid Bailey撮影の『Ommadawn』ジャケット写真にインスパイアされた『Amarok』のカバー写真を撮影し、ライナーノーツの短編も執筆した(表紙の真鍮文字はトム・ニューマンが制作)。終盤にはコメディアンのジャネット・ブラウンによる当時の英国首相マーガレット・サッチャーの声帯模写も挿入されている。タイトル「Amarok」についてオールドフィールドは、特定の意味はないが、朝や幸福を意味するゲール語の語感(アイルランド語で「明日」を意味する「amárach」と同音)や、「Am-a-rok(私は岩だ)」という分け方で流行に流されて自分を変えたくない意思を挙げて説明している。
めまぐるしく楽想が転換する構成について、オールドフィールド自身は「ときどき聴き手の尻を蹴り上げるような作品だから、ニューエイジ・ミュージックの枠には収まらない」と評している。『Tubular Bells』で初めて用いたテープの高速録音・通常再生による低音の「原始人ボイス(caveman voice)」が中盤の「Mandolin Reprise」や「Africa I: Far Dip」で復活しているほか、「Intermission」パートでは使用楽器リストを読み上げるオールドフィールド自身の多重録音ボイスが小さく織り込まれている。
発売時のチャートは、全英49位、ドイツ16位、オーストリア26位、スペイン27位、スイス30位、スウェーデン50位、オランダ66位。シングル・カットやツアーは行われず、宣伝も最小限だったが、プログレッシヴ・ロックの文脈では『Tubular Bells』『Ommadawn』『Incantations』と並ぶ代表作として語られている。AllMusicのMike DeGagneは星2.5とし、奇抜な展開に戸惑いを示している一方、ファンやプログレ系サイトでは、最後の約10分間(「Africa」パート〜コサ語で歌われる「Sondela」フィナーレ)に向かう構成やアフリカン・コーラス、重層的なギターの流れが注目されている。なお、オールドフィールド自身は本作を一度もライブで全曲演奏していないが、ウェールズの作曲家・編曲家Ryan Yardが全編を一音残らず採譜し、2012年4月にはアメリカのピアニストGus FogleとベーシストJason Millerのデュオによって全曲ライブ演奏が実現した。
トラックリスト
- A Amarok 30:00
- B Amarok (Continued) 30:04
動画プレイリスト
このアーティストについて
Mike Oldfieldは1953年5月15日生まれ、イングランド・バークシャー州レディング出身のマルチインストゥルメンタリスト/作曲家だ。ロック、エレクトロ...
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