Herbie Hancock - Feets Don't Fail Me Now (1979)
Herbie Hancock 1979

Herbie Hancock - Feets Don't Fail Me Now (1979)

Electronic Jazz Funk / Soul Funk Disco

Herbie Hancock『Feets Don't Fail Me Now』(1979)

Herbie Hancockの『Feets Don't Fail Me Now』は、1979年にColumbiaから出たアルバムで、彼のキャリアの中でもかなり輪郭のはっきりした一枚だ。ジャズ・ピアニストとして出発したHancockが、70年代後半に進めていたファンク/ディスコ寄りの路線を、そのまま前面に押し出した作品である。タイトルからして軽やかだが、中身も同様に、ジャズの即興性よりも反復するグルーヴ、機械的な処理を含んだ声、ダンス・ミュージックの感覚が中心に置かれている。

70年代後半のHerbie Hancockという位置

Hancockは、60年代にはマイルス・デイヴィス・クインテットの一員として名を広め、その後は自身のグループでジャズ・ファンクやフュージョンを押し進めてきた。『Head Hunters』の大きな成功以降、彼の作品にはエレクトリックな音色が強く入り込み、70年代後半にはさらにダンス志向が明確になっていく。その流れの中で『Feets Don't Fail Me Now』は、ジャズの文法を残しながらも、かなりポップ・ミュージック側へ寄った作品として置かれている。

同時代の文脈で見ると、ディスコの広がりと、ジャズ側からの接近が重なった時期の記録でもある。単純にディスコへ寄せたというより、Hancockらしい鍵盤のフレーズや編曲の工夫を、当時のクラブ向けサウンドの中に置いた作りだ。ファンクやソウルの延長線上にありながら、いかにもジャズ畑の人が作った音の組み方になっている点が面白い。

ボコーダーの声が作品の核

このアルバムでまず目につくのは、HancockのボーカルがSennheiser Vocoder VSM 201を通して処理されていることだ。ジャケットにもその旨が記されており、機械的な声が全編を通して作品の印象を決めている。人間の声をそのまま前に出すのではなく、電子処理を通してリズムの一部のように扱っているのが特徴的で、当時のエレクトロニック・ファンクの感触ともつながる。

実際に聴くと、歌というよりも、リフとリズムに音声が組み込まれていく感じが強い。メロディを追うより、同じフレーズが反復されることで曲全体が進む構造で、演奏の熱量もそこに集中している。耳に残るのは歌詞そのものより、声の質感とビートの絡み方だ。

収録曲と代表曲

収録曲の中では「You Bet Your Love」が特に知られている。全英シングルチャートで18位まで上昇し、10週チャートインしたという記録があり、アルバム全体の中でも外に届いた曲として重要だ。Hancockの作品の中では、ジャズ・ファンの文脈だけでなく、ディスコやソウルの聴衆にも接点を作った1曲として見られている。

また、録音面では「Knee Deep」がBear West Studio、それ以外の曲はThe Automattで録られている。San Francisco録音という点も、70年代後半の西海岸らしい空気を帯びている。The Automattは当時の重要なスタジオのひとつで、こうした都会的なファンク/ディスコ作品との相性がよい環境だった。

演奏陣と制作

制作は長年Hancockと組んできたDavid RubinsonとHancock自身。バンドの中心にはJames Gadsonのドラム、Eddie Watkinsのベース、Ray Obiedoのギター、Bill Summersのパーカッションが並ぶ。さらにRay Parker Jr.、Wah Wah Watson、Bennie Maupin、Sheila Escovedoらも参加しており、当時のソウル/ファンク周辺のプレイヤーが集まった構成になっている。

この顔ぶれを見ると、ジャズの即興合戦よりも、リズムを固めて、その上に音色と短いフレーズを重ねる方向が明確だ。演奏は細かく動いているが、全体の印象は整っていて、クラブ向けの推進力を保ちながら、Hancockらしい鍵盤の存在感が残る。

作品としての輪郭

『Feets Don't Fail Me Now』は、Hancockがジャズ・ピアニストとして築いた評価だけでは説明しづらい作品だ。むしろ、ジャズの出自を持つミュージシャンが、ディスコ時代の音の条件にどこまで踏み込めるかを示したアルバムとして見たほうがわかりやすい。のちのエレクトロ・ファンクやヒップホップ世代が参照した、機械的なボーカル処理や反復の設計にも、先行例としての意味がある。

一方で、当時のジャズ批評からは厳しい見方も受けた。アルバムの評価が分かれやすいのは、Hancockが持っていた複数の顔のうち、この作品がかなりポップ寄りの面を強く出しているからだろう。ただ、その振り切れ方こそがこの盤の性格で、1979年という年の空気をよく残している。

USオリジナル盤について

このUS盤はColumbiaのJC 35764で、1979年リリース。Pitmanプレスで、プリントのインナー・スリーブ付きの仕様だ。同時期にはTerre Hauteプレスの近いバージョンも存在するが、こちらはその中でもPitman盤として流通したものになる。レーベル面や盤の細部にプレス工場ごとの差が出る時期の作品で、オリジナル期のColumbia盤らしい佇まいがある。

Herbie Hancockの多面的なキャリアの中で見ると、『Feets Don't Fail Me Now』は、ジャズの語法をいったん横に置き、ディスコとファンクの現場へ大きく踏み込んだ記録だ。『Head Hunters』以後の流れを引き継ぎつつ、ボコーダーを核にした音作りで、70年代末の都市的なダンス・ミュージックの感触をはっきり刻んでいる。

トラックリスト

  1. A1 You Bet Your Love 7:36
  2. A2 Trust Me 5:41
  3. A3 Ready Or Not 6:42
  4. B1 Tell Everybody 7:09
  5. B2 Honey From The Jar 6:51
  6. B3 Knee Deep 5:39

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
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