Patrice Rushen - Prelusion (1974)
Patrice Rushen『Prelusion』(1974)
パトリース・ラッシェンの『Prelusion』は、1974年にPrestigeから出たデビュー作である。のちにR&Bやディスコのヒットで広く知られる彼女だが、この時点ではまだ純然たるジャズ・ピアニスト、作曲家、編曲家としての出発点にある。ロサンゼルス育ち、クラシック教育を受けた鍵盤奏者という背景を持ちながら、10代の終わりにモントレー・ジャズ・フェスティバル出演をきっかけにPrestigeと3枚契約を結び、その最初の成果として形になった作品だ。
制作背景と録音メンバー
このアルバムは、ラッシェン自身が全5曲の作曲と編曲を担当している。録音時は20歳前後。アコースティック・ピアノ、エレクトリック・ピアノ、ARPシンセサイザー、クラヴィネットを弾き分け、若い時期から鍵盤の使い分けに明確な意識があったことがうかがえる。プロデュースは高校時代の恩師レジー・アンドリュース。ラッシェンがロサンゼルス・ロック・ハイスクールで学んでいた頃からのつながりが、そのままレコード制作へつながっている。のちに長く続く二人の共同作業の起点でもある。
参加ミュージシャンも、当時のロサンゼルス・シーンを支える実力者が並ぶ。ドラムのレオン・“ンドゥグ”・チャンクラーは同じくロック・ハイスクール出身。さらにジョー・ヘンダーソンのテナー・サックス、オスカー・ブラッシャーのトランペット/フリューゲルホーン、ジョージ・ボハノンのトロンボーン、ハドリー・カリマンのフルート/ソプラノ・サックス、トニー・デュマスのベース、ケネス・ナッシュのパーカッションが加わっている。ライナーノーツはジェラルド・ウィルソンが担当しており、若手のデビュー作を当時のジャズ界の目線で支える形になっている。
レーベル面では、70年代プレスらしく溝に「rei」の刻印が入る盤が確認されている。また、ラベル表記には直線的ではないタイトル表記が見られる点も、この時代の初期プレスらしい細部として挙げられる。
時代の文脈の中で
1970年代前半のジャズは、エレクトリック楽器やファンクのリズムを取り込みながら、フュージョン、ジャズ・ファンクへと広がっていた。本作もその空気の中に置かれるが、全編インストゥルメンタルで、即座にクロスオーバー志向へ振り切るのではなく、ストレート・アヘッドな演奏の中に新しい要素を差し込んでいる。AllMusicのアレックス・ヘンダーソンは、これを「フュージョンの要素を参照したストレート・アヘッドなポスト・バップ」と表現している。
Prestige自体も、この時期には創設期のハードバップ中心のイメージから、より電化されたジャズへと関心を広げていた時期にあたる。そうしたレーベルの流れの中で、若いラッシェンが自作自演のアルバムを出している点は重要だ。彼女はのちにElektraへ移り、R&Bやディスコ路線で「Haven't You Heard」「Forget Me Nots」などのヒットを出すが、『Prelusion』はその前段階、ジャズの文法の中で作曲家・演奏家としての骨格を示した作品として位置づけられる。
曲の聴きどころと評価
収録曲の中では、オープニングの「Shortie's Portion」がまず挙げられる。The Audio Beatのレビューでは、軽快なピアノ・ソロが印象的な導入として触れられている。続く「7/73」は12分を超える長尺で、穏やかなソウル・ジャズから冒険的なソロへ展開していく構成が特徴とされる。「Traverse」は内省的なカルテット編成の曲として紹介され、「Puttered Bopcorn」はシンセサイザーを遊び心たっぷりに使った小品として評されている。こうした評価からは、ラッシェンがピアノだけでなく、エレクトリック・ピアノやシンセサイザーまで含めた鍵盤表現を、早い段階で整理していたことが見えてくる。
当時の反応も悪くない。ロサンゼルス・タイムズのレナード・フェザーは「非常に有望なアルバム・デビュー」と評し、AllMusicも4つ星評価で彼女の将来性に触れている。Craft Recordingsの再発資料では、DownBeatも即興演奏家、作曲家、編曲家としての成熟を称賛したとされる。年齢を考えると、こうした評価はかなり早い段階での注目だったことがわかる。
後世への影響と再評価
『Prelusion』は長く再評価されてきた作品でもある。1998年には次作『Before the Dawn』とのカップリングでCD化されたが、その際は収録時間の都合で「Puttered Bopcorn」が外れている。さらに2024年にはCraft Recordingsの「Jazz Dispensary Top Shelf」シリーズから、ケヴィン・グレイのマスタリングによる180g重量盤LPとして再発され、改めて注目を集めた。再発紹介では、うねるベースラインと変拍子的な展開を持つ「Haw-Right Now」が代表曲として取り上げられることが多い。
このアルバムの重要性は、のちの大きなヒット曲そのものよりも、ラッシェンがジャズの現場でいかに早く独自の作曲感覚と鍵盤語法を固めていたかにある。フュージョンやジャズ・ファンクが広がる時代の入り口で、彼女は流行に寄りかかるのではなく、自作中心のインストゥルメンタル作品として第一歩を刻んだ。その後のR&B/ディスコでの成功を知っていると、ここで聴けるジャズ・ピアニストとしての輪郭は、キャリア全体の土台として見えてくる。
トラックリスト
- A1 Shortie's Portion 8:42
- A2 7/73 12:42
- B1 Haw-Right Now 8:00
- B2 Traverse 10:53
- B3 Puttered Bopcorn 4:15
動画プレイリスト
このアーティストについて
Patrice Rushenは、1954年9月30日にロサンゼルスで生まれたアメリカのR&B/ディスコ/ジャズ系アーティストです。ボーカリスト、作曲家、クラシッ...
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